断罪イベント365 ― 第6回「王子が噛んだ」
王子、新型拡声器買ったんです。
高かったんです。
豪奢な大広間。壇上の王子がマイク……ではなく、
水晶拡声器を握りしめる。
軽量化に成功した最新のバージョンだ。
最新型だから、高かったけど。
拝み倒して買ってもらった。
今日は成功しないと。
また、経理に怒られる。
気合い十分、今日こそ完璧に断罪を決めてやる!と胸を張った。
「本日この場をもって――」
観衆が息をのむ。定型句の瞬間だ。
だが。
「……ほ、ほんじちゅこのばをもって……」
盛大に噛んだ。
ざわっ。
「ん? 今、ほんじちゅって……?」
「いやいや、滑舌死んだぞ」
王子は真っ赤になり、慌てて言い直す。
「こ、こ、ほんじつこのままもってっ……」
「違う! 本日この場をもって、だ!」と観衆から総ツッコミ。
さらに焦って深呼吸。
「わ、わたくしは、彼女を……だんざい……ざい……ざいざいっ……」
噛み倒した。
舌が絡まり、声は裏返り、観衆は爆笑の渦に。
「ざいざいって何だ!」
「殿下、新しい罪状ですか!?」
「噛罪だな!」
黒幕令嬢は顔を引きつらせ、必死に手を振る。
「殿下、しっかりなさって!」
しかし王子は涙目。
「だ、だんざ……ざざざ……っ!」
ついに壇上の水晶拡声器がハウリングを起こし、
キィィン!と鳴り響く。
耳を押さえた観衆から「もうやめてやれ!」の声。
婚約者は静かにため息をついた。
「……殿下。まずは滑舌の訓練からなさってください」
会場、爆笑。
その日、断罪されたのは婚約者ではなく
――王子の舌だった。
せっかく最新型買ったのに~
総評:断罪の言葉は、まず噛まずに言えるようになってから。
断罪イベントだけで365編書けるのか。
実験中。