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魔王の右腕  作者: にわ冬莉
第二章 Secret garden ~秘密の庭~
9/51

2-3

「あの屋敷に、ずっと一人で住まわれてたんですよね?」

 尚登が新たな質問を投げかける。美月は明後日の方を向いたまま、

「ええ」

 と答えた。

「何故?」

「質問の意味が分からないわ。あそこは私の家。住むのが当たり前でしょう?」

「しかし、旦那さんは海外赴任だ。一緒にいたいとは思わなかったのですか?」

 旦那、という単語に、美月がピクリと肩を震わせた。


さとしさんは無関係よ。巻き込まないで!」

 急に声を荒げる。


 違和感。


「旦那さんは何も知らなかった、と?」

「当然でしょう?」

 そう言って、尚登を睨み付ける。

「では、別の誰かがいたわけですね」

「なによ……それ」

 明らかに『嫌悪』の表情を浮かべる美月。


「まず、ターゲットは一体どこで調達するんです? 家の近くでは無理ですよね? 携帯や自宅のパソコンも調べさせてもらってますが、出会い系とかでしょうか? 安易に言い寄ってくる男は多いでしょうし」


 美月は何も言わない。


「うちに来て、と言えば簡単に呼び寄せることが出来る。が、堂々と招き入れるわけにはいきませんよね。人妻ですし、旦那さんが留守だと周りの方は皆知っているわけですし」

「……」

「交通手段は、車ですよね? でも車で来られても処理に困るし、あなたが迎えに行くわけにもいかないと思うんですよ。ということは、誰かもう一人いないと犯行は難しいのではないかと」

 迫るように畳みかけるが、美月は無表情に戻ってしまっていた。まるで自分を隠すかのように、一切の感情を封印し遠くを見ている。


『ナオトよ』

 急に声を掛けられ、思わず肩を震わせてしまう。

(な、なんだよっ! 急にビックリするだろうが!)

()()()()()()()、と聞け』

(へ? あの子?)

『いいから、聞いてみろ』

 ヴァルガにそう言われ、尚登は半信半疑ながらも、その質問を口にする。


()()()……は、どこです?」


 尚登の言葉に、美月は目を見開き、今までにないほどの殺気に満ちた眼差しを向けてきた。視線だけで射殺されそうなほどだ。


『おおおおお、これは……すごいな』

 ヴァルガは楽しそうに声を上げている。あの子、とは一体何なのか、尚登にはわからないのだが。


「もう、話すことはない。出て行ってくださらない?」

 尚登を睨みつけたまま、震える声で美月が言った。医者も時計を見て、

「そろそろいいですか?」

 と言ってきたため、面会はそこで終了となる。


 部屋を出ると、安城に

「ねぇ、さっきのは、なに?」

 と聞かれた。

 当然だろう。あの子、が何を指すのかわからない。


(ヴァルガ! あの子って、なにっ?)

 思わず脳内で聞いてしまう。

『あの女、何か大きな秘密を隠しているようだ。あの子は大丈夫、と心の中で何度も言っていた』

(え!? 心の声が聞けたりするわけっ? そんなこと出来るなら、もう事件解決したようなもんだろ!)

『馬鹿め。そう簡単ではないわ。この場所に来てから……いや、あの病室に入ってからの負のオーラ、素晴らしかったぞ! しかし取り込んだオーラで聞けた声はそれだけだ』

 なるほど、と手を打つ。


 集めた負のオーラで彼女の心を読んだのだ。ほんの一瞬だけのようだが。


「遠鳴君、聞いてるのっ?」

 安城に耳元で怒鳴られ、我に返る。

「うわっ、あ、っと、えー、すみませんっ」

「もう! ボーッとしないで! さっきの、あの子、って、なに?」

「えっと……ですね、なんというかそれは、」

 しどろもどろな尚登に、大きな声で


「ちょっと、あんたたち!」


 と、怒りの表情そのままに詰め寄る、スーツ姿の男。

「いい加減にしてくれないかっ。とっかえひっかえやってきて、しつこいんだよ!」

 あの、記念写真に写っていた男と同じ顔だ。つまりこれが、夫である神田聡。

「神田さん、困ります! この階には立ち入らないで下さいとお願いしているじゃないですかっ」

 聡の後ろからナースが慌てて追いかけてきた。


「美月は精神鑑定前なんだ! 動揺させるようなことをしないでいただきたい!」

「聴取ですから」

 安城が強い口調でそう告げる。

「彼女は罪を認めています! 原因は神経衰弱による突発的なもので、彼女に責任能力はありません!」

 言い切った。


「それはまだなんとも。突発的だったのは、最後の強盗犯に対してだけで、庭から発見された遺体は、」

「それは妻ではない! どこかの誰かがうちの庭に忍び込んで勝手に埋めて行ったに違いないんだっ」

「……根拠は?」

「は? 根拠? そんなもの、簡単だろうっ。美月がそんなこと、出来るわけないっ。大の大人を一人で殺して、一人で運んで庭に埋める? はっ、無理だ!」

 なるほど。言い分としてはわからなくもない。


「協力者がいたかもしれませんよね?」

 尚登が言うと、拳を握り、肩を震わせる。

「そんなわけない! 美月はっ、美月は私の妻ですっ! どこの誰とも知らないやつと結託して殺人など、そんな話、有り得ない!」

「ま、ここで話すのもなんですから、場所を変えましょうか」

 安城がそう言ってドクターを見る。

「では、こちらに」


 案内されたのは一つ下の階、会議室のような部屋。ドクター、安城、尚登、聡がコの字型のテーブルに着くと、安城が聡に質問を始める。


「神田さん、日本へは、いつお戻りに?」

「一昨日ですよ。警察から電話があって、美月が……人を、殺した、と」

 テーブルの上でグッと拳を握り締める。

「庭の遺体について聞いたのは?」

「飛行機に乗り込む直前に。何を言われているか、まったく理解できなかったが」

「知らなかった、と?」

「当然だろう! どうして屋敷の庭から遺体なんてっ」

「心当たりは?」

「あるわけないでしょうっ」

 反応としては、ありきたりだ。特に不審な点は感じられなかった。


(ヴァルガ、こいつの心ん中、読めるか?)

 聞いてみるも、

『もう我の力では無理だ。ナオトが我を手に取り読むか?』

 言われるが、こんなところでヴァルガの腕を出すわけにはいかない。

(……やめておく)

 と返事をする。


 それからしばらく、色々な質問を投げかけてみるが、調書に書かれている以上の情報は何も出てこなかった。


 そろそろ撤収か、というタイミングで、しかし、事件は起きた。


「ドクター! 大変です!」

 バン、と扉が開くが早いか、ナースが二人、駆け込んできた。

「なんだね、一体っ?」

「美月さんが、いなくなりました!」


 ガタン、と、その場にいた全員が席を立った。

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