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魔王の右腕  作者: にわ冬莉
第一章 魔王の右腕
3/51

1-3

「失礼します」


 ドアを開け入ってきたのは看護師と、ドクター。簡単な会話と、診察をする。腕輪のことを聞かれ困る尚登だったが、親の形見だとか適当な言い訳で乗り切った。


「では薬を嗅がされたりということも?」

「ええ、なかったです」

「ふむ」

 ドクターとしては、尚登が丸二日意識を取り戻さなかった理由を探りたいのだろうが、何を聞かれても外的要素があったわけではないので答えようがなかった。


「そういえば」

 尚登が思い出したように話を振る。

「組織の連中も意識がないって聞きましたけど……?」

「ああ、そうなんだ。困っていてね。あっちは遠鳴君より深刻だよ」

 溜息交じりにそう告げる。

「深刻……とは?」

「昏睡状態でしてね。刺激を与えてもまるで反応がなく、原因も不明なのですよ」

「それは……困りましたね」

 尚登はチラ、と腕輪を見た。眠らせてくれ、と言ったのは自分なのである。もしかしたら、起こせ、と言えば全員目を覚ますのか?


『起こしてほしいのか?』


 急にヴァルガの声が聞こえ、焦る尚登。

「へっ?」

「は?」

 ドクターが驚いたように反応するが、どうやらそれは尚登の発した声に反応したようだ。

「なにか?」

 見つめられ、今度は尚登が慌てる。

「あ、いや……連中は今、どこに?」

「特別室にベッドを持ち込んでモニターしておりますが?」


 全員がいきなり目を覚ましたらパニックになりそうだ。尚登は少し考えると、ヴァルガにきちんと伝わるように言葉を選んで、話す。


「多分、そろそろ目を覚ますと思います。全員一緒ではなく、二、三人が数時間おきに」

 なんだそれは? な話ではあるが、捜査員や医者の対応を考慮するとそのくらいが妥当だろう。


『なるほど、わかった』

 ヴァルガが返事をする。やはりドクターやナースは無反応だ。聞こえないのだろう。

「えっと、何故そう思われるのです?」

 ドクターが不思議そうな顔をする。と、


「先生! 特別室に動きが!」

 外からの声に、ドクターが目を丸くする。

 尚登を見て、何か言いたそうに口を開きかけたが、

「先生!」

 ナースに呼ばれ、そのまま病室を後にした。


『あれでいいのか?』

 ヴァルガが訊ねる。尚登は頷いた。

 しかし……、

「わからないことが多すぎる」

 はぁ、と深く溜息を漏らす。


「……まず、異世界から飛ばされた、って話だけど、なんで、腕だけ?」

 そもそも、異世界ありきで話をしなければいけないことに、抵抗がある。だが、そこを認めなければ先には進めない気がしたし、何より、現実とはかけ離れたことが実際に目の前で起きているのだから、認めざるを得ない。


『答えよう。我はザーン大陸の北、ジアという国に住む魔王ヴァルガ。魔王討伐隊の手で討ち取られ、腕を切り落とされた』

「ああ、勇者的なやつにやられたわけか」

 よくある話だ。

『我は不死身である。腕を斬られたくらいで滅びたりはせぬ。それを知った勇者が、我の右腕と魂をこの世界に飛ばしたのであろう。我は一刻も早く元の世界に戻りたい』

「戻って、どうするんだ?」

『我の右腕と魂。そして残りの体を集めて復活を果たす!』

 なるほど、ファンタジーっぽい話ではあるな、と尚登は思った。


「そういや、ヴァルガの声って、俺にしか聞こえないわけ?」

『この世界に来てから我の声を聴き分けたのはナオトが初めてであるな』

「そっかぁ」

 ということは、自分さえ気を付けていれば非現実的な腕のことはバレることはないのだ。


「……他の人間にバレないように腕輪に姿を変えたんだろ? ずっと腕輪じゃダメなのか?」

 できれば腕より腕輪がいい、と思う尚登である。どうも腕一本だけが目の前に置いてあるこの構図はグロテスクでいけない。

『本来の姿の方が力を発揮しやすいのだが』

「なるほど。……で、契約って、具体的に俺は何をすればいいわけ?」


 自分でも驚くほど聞き分けがいい。実際にあんな体験をしていなければ、信じなかっただろうが。


『我は負のオーラを集めたい。どうやらナオト、汝は負のオーラと深く関わりがあるようだが、我の見立てに間違いはあるか?』

「……ない、と思う。俺はこの世界で、負のオーラを放つ……であろう奴等を捕まえる仕事をしているからな。一緒にいれば必ず負のオーラを手に入れられる……気がする」

 これがWINWINというやつか、と心の中で妙に納得する。

 腕の言うことを信じれば、の話だが。


「それに、ヴァルガの力は俺にとって非常に便利だ。どちらかと言うと、俺の方が得をする気がするんだけど」

 などと、正直に口にしてしまう。ヴァルガはフン、と鼻で笑うと、

『我の力を使いこなせるかはナオト次第であるが、許容を越えれば今回のように数日眠ることになるぞ? もっと言えば、命を削ることにもなりかねん』

「えっ? そうなのかっ?」

 急に怖くなる。


『防御魔法とスリープを使ったくらいで二日も寝てしまうのだから、攻撃魔法などは到底使えまいて』

 都合よく魔法が使えると思い込んでいた尚登はあからさまに肩を落とした。

「そっかぁ……」


 変なもん拾ったな、というのが正直な感想だった。そもそも、自分は現実的な人間だと思っていたのだ。まさかこんなことになるとは……。とはいえあの時、願わなければ間違いなく死んでいたであろうことも事実。となれば、これが現実と割り切ってやるしかないだろう、と思い直す。


 そもそも尚登は、物事をあまり深く考える性質(たち)ではない。だからこそ、この仕事に就けたと言ってもいいだろう。


 都市警察特殊犯罪捜査課は、国直属の機関であり、詳細を知らぬまま動くことも少なくない。言われたことは絶対であり、そこに『自分の意志』などという余計な感情は必要ないのだ。正義のために働いているつもりではあるが、それが()()()()()()()であるのかは、考えてはいけないのである。


『転移魔法が使えるくらい負のオーラが溜まれば、我はこの地を去る。それまでナオトの力を借りることになる故、よろしく頼む』

「あ、うん。わかった。害がないなら構わない」

 しかし……、と考える。


「ヴァルガって、魔王……? だったんだろ?」

『そうだが?』

「なんか、対応とかすごく丁寧だし、普通っぽいよな。魔王って、世界滅ぼしたりするやつなんじゃないの?」

 尚登の問いに、ヴァルガは心底馬鹿にしたような乾いた笑いを放つ。


『ハッ! バカな! 我は単に異種というだけで目の敵にされていただけだ。そもそも人間などという弱くて短命な生き物に興味などないわ!』

 妙に納得。

「でも、そんな()()()()()()()()にやられてんじゃん」

『……それは、色々事情がある』

 なんとなく、濁す言い方。


「ま、いいや。とにかく負のオーラが集まればいいんだよな」

『そうである』

「わかった。問題ないと思う。それと、注意してほしいんだけど」

『なんだ?』

「他の人の前では腕にならないでくれ。さすがに腕と会話したり腕を持ち歩くのは問題が多すぎる」

『わかった。二人の時以外はこれで』

 ポウ、と腕が光り、金色の腕輪に変わると、尚登の腕に嵌った。

「ああ、これでいい」


 こうして元魔王?と人間のバディがここに誕生したのである。


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