表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

6話

壁をまたいで10mあたり、唐突に飛来した黒い魔法球。半径は大体4mといったところか。

ヴォルフガングはまだ牢にいる。

つまり、尋問室に飛来したという事実は、結界が上手く動作している、或いは、そもそもヴォルフガングの救助ではなく、攻撃のための襲来だということを示している。


文献が正しいのであれば、5秒もしない内に爆発。

そして私を含む尋問官及び拷問官、総勢43人の内、現在城にいる8名が消滅することになる。


新人が消えることによるデメリットは無いが、部長もディンもヴィルヘルムも私も、消えてしまえば大きな損失がでる。全力で守らなければならない。


こういう場合、私が個別にバリアと結界を張ることになっているのだっけか。


全ての尋問官の位置は既に割り出している。だが、拷問官共は魔力を抑えるのが癖になっているうえに上手すぎて全然わからん。

現在本部にいる拷問官はディンとクロエ、それは覚えている。助ける価値と意味は十二分にあると言う表現でも余りあるほどか。


奴等の反応に賭けるのが最善だろう。

私がそれを選択するのだから、この世界で最も正しい選択であるはずだ。



尋問官共と自分にバリアと結界を張り、空中で爆発を起こし、本部を少しだけぶっ飛ばした。


光は強く、音は大きく、揺れは大きく、だが破壊力は小さく。

殺傷能力を下げ、警戒だけを引き出す超絶技巧。まぁ私にしかできないだろう。


直後、黒い魔法球が爆発。だが、拷問官が結界を張ったのは魔力の流れの動きで把握できた。


であれば問題無い。

ディンが牢に向かうのを結界の動きで感じた。恐らくヴォルフガングはこの機を逃さない、ディンなら上手く対応してくれるだろう。

そしてクロエはこちらに来ている。


フリーになった今、私の仕事は尋問の立ち会いの待機では無く、魔法球の内容物の対処、可能であれば調査。


魔法球が起こした爆発の粉塵の中に人型の影を確認、放たれる魔力は、魔王軍にありがちな闇属性と何かの複合魔力では無く、大量の属性と圧倒的な気力が複合されたほぼ無属性の魔力。

かなり膨大な量が発せられているが、抑えているように感じる。

私とて日々訓練はしているが、それでも魔力酔いを起こしてしまいそうだ。


魔王軍幹部など優に超える魔力量であることは想像に容易い。


そして、強く魔王の痕跡が残る土地では無属性の魔力の観測が多い。

つまりこれは魔王だということ。


騎士団本部は魔王の襲撃を受けているということだ。

あくまで狙いは尋問部の可能性もあるが、大差無い。


私ひとりでは制圧できそうにない。

そして、複数人で戦ってもどうしようもないだろう。

人員を絞り、少数精鋭で潰す必要がある。


ヴォルフガングは引き渡すには惜しい。奴はここに向かっていない尋問官に任せて、ディンにはこちらに来てもらおう。

牢に配備された尋問官が一人いるから、他の尋問官が来るまでそいつになんとか持ちこたえてもらおう。弱くはないから牢にいるだろうしな。

ディンとヴィルヘルムと私の連携なら、被害を最小限に抑えたうえで、ギリギリ制圧が可能だと思う。

クロエには結界とバリアを担当してもらおう。

私以上にバリアが上手く張れるのはクロエ以外にいない。


案は練りきった。

後はプライベートチャンネルでの放送さえ完了すれば、優秀な尋問官と拷問官どもは指示通りに動くだろう。


放送用の魔法文を脳内で想像。そして、心臓の鼓動を超加速。

0.01秒経過で一桁進むものとして、心拍の有無で2進数を用いて詠唱を行う。

……2進数という概念を教えてもらって本当に良かったと深く思う。

印での発動は覚えきれない。


詠唱が完了、尋問官と拷問官の脳内に指示が転送されたはずだ。


現時点で魔法球からの爆発後、およそ15秒。

相変わらず脳の回転が遅い。

それに、魔法文の組み上げも遅くなっている。随分と衰えたものだ。

前線にいないだけでこうも脆くなるか。


……余計な思考が混じりすぎた。


魔王からの攻撃は未だ飛んでこない。

敵意が無いなんてことは無い。魔力には悪感情が多分に混ざっている。

なんとなく、攻撃はまずい気がする。

でも、後40秒でヴィルヘルム、ディン、クロエが到着してしまう。


ディンは衝動的に攻撃してしまいそうだから、私が検証しておく必要がある。

…………ここで私が死ぬと、もうどうしようもないか。

でも、ディンが死んでもまずいか……


しょうがない、やるか。

初撃は速く、強くが重要だが、報復の一撃の攻撃力が未知数だ。

反撃があると確定したわけではないが、勘と経験が必死に危険を訴えている。


未だ粉塵は晴れない。

だが、()()()()()()()()()()()()()の気配は感じる。

きっと、何がなんでも姿が見えなくなる魔法だ。1回だけ見たことがある。


影は人型。実際に人の形の者が粉塵の中にいると考えていいだろう。

魔王は魔族だ。いや、元が人間の可能性は非常に高いが、今は魔族だろう。


魔族というのは、人間と見た目は同じだが、弱点が大きく異なる生物だ。

例えば、脳や脊髄は無く、魔力機関が中枢神経の役割を果たし、心臓すらも魔力機関が代替品の役割を果たす。

ただ頭を吹き飛ばしたり胸を突いたりするだけでは死なない。


経験上、魔力機関は小さいものが6つ以上あることが多い。

四肢と頭と胴に一つずつ配置することで、欠損した場合も大きなダメージを受けることなく戦える。


それでも、魔力機関に被弾することはかなりの痛手になる。

弱点に当たったとき、高火力で反撃されると困る。

できるだけ魔力機関から遠くに魔法を当てる必要があるが、そこまでの難易度ではない。


今、眼の前にいる奴の魔力機関の位置は丁寧に隠蔽されていて、一切読み取れない。

最も当てやすい胴体を狙う。基本的に胴体の魔力機関はヘソのあたりにある、だから狙うのは胸部が定石だ。


しかし、魔王だとしたら元は人間の可能性が高い。心臓は別個である可能性がある。

心臓は弱点だ、下手に狙うべきではない。


だから、

右胸、かなり脇に近いあたりを狙い、超小型の岩属性の魔法弾を放つ。

速度はそれなりに速く、攻撃力は骨が折れるくらい。


着弾より少し前に結界とバリアを最高硬度で張る。



直後、結界のみが粉々に砕けた。


攻撃が当たったとき特有の手応えは少しある。

まぁ、攻撃力が低いからそんなもんだろう


バリアもバッキバキに割れたが、ギリギリ壊れなかった。何かが出ているのか、即時着弾系の避けられないやつなのかわからないが、この攻撃力ならバリアは破壊できないだろう。


バリアは物理的な攻撃や、物理属性の魔法を弾く、例えば炎とか水とか岩とか風とか。

そして、結界で防げるような攻撃を食らうと割れる


今私が組んだ結界は、物理属性の無属性や、魔力的な攻撃、物理属性以外の魔法を弾く。

こっちは魔力属性って言われている、もっと名前があったと思う。

そして、この結界はバリアで防げるような攻撃を受けると壊れる。


結界だけが一瞬で砕けたということは、魔力属性の魔法を放ったということ。

バリアと結界を同時に攻撃できる魔法が無いわけじゃない。でも、物理属性と魔力属性の両立をして尚、あの攻撃力を保つのは不可能だ、両属性は反発し合うからだ。

発射時に私のバリアを破損させる攻撃力なら、魔力属性を混ぜると魔法文の詠唱の時点で爆散しかねない。



次に、魔力属性の魔法、光属性の魔法弾を放つ。

出力調整はさっきと一緒、バリアと結界を張り直して魔法弾を撃つ。


着弾直後、バリアのみが粉々に砕け、結界はバキバキに割れた。

放たれたのは魔力属性の魔法弾だと思う。


まぁ、生物の反応速度を超越した速度で撃ち返しているし、自動反撃だろう。


ラストにもう一発、痒いくらいの攻撃力しか持たない光属性の魔法弾を放つ。

出力サイズは小石レベル、速度は軽いランニングくらい。

攻撃力なんてあってないようなものだ。


一応、反応速度と動体視力を極限まで上昇させる。

そして、放った。


着弾直後、さっき魔力属性の弾を放ったときと同じことになった。

一応弾が見えた、物理属性の極小の魔法弾が飛んできていた。



大体分析が完了した。

反撃に関しての情報はこうだ。


・放つ魔法の攻撃力は一切関係なく反撃。

・物理属性の魔法を放つと、魔力属性の魔法弾が放たれる。

・魔力属性の魔法を放つと、物理属性の魔法弾が放たれる。


まぁこんだけわかったならどうとでもなる。

手応え的に魔王にダメージは入っているだろうし、結界とバリアの展開をし続ければいくらでも攻撃できる。


よし、このまま一人でできるだけ削って――。


「あ、フィオナさん、大丈夫ですか?」


「舐めないでよ、ディンはまだ?」


「ディネンさんなら、あと10秒もすれば来ると思います。瓦礫をまとめながら来ていたので」


「暇ねぇあいつも」


真っ白のセミロングとまともな白いローブをを靡かせ、中指ほどの長さの杖を持った少女が現れる。


「それじゃ、クロエ、貴女の仕事は決まっているから」


「いつも通りでしょ、わかりますよ」


この状況で半笑いで戦場に立っているあたり、私より怖いと思う。そんな彼女が杖を振る。


「まぁ、結界ならクロエ・フルールにお任せあれって感じですよね」


「はいはいそうね」


途端、信じられない密度のバリアと結界が張られる。


「あなたの相手はフィオナさんですよー!」


ふざけたことを言って、私の後ろに隠れる彼女。ディンは全然来ないけど、やるだけやっておこう。


そう思い、魔王に指を向けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ