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2話

 部屋がありえないほど静かだ。

 心臓の音さえうるさい。

 呼吸すら許されない。そんな考えすら過ぎる程に静か。

 静寂と、相手からの確かな圧を感じる。


「これ、あなたは何を学んできたんですか?」


 さっきまで魔王軍の幹部を尋問、というか質問していた人が、私に静かにキレている。


「一言一句もらさずに最初から最後まで紙に書き写せ、と言いましたよね」


「は、はい……すみません……」


 思い当たる節が無いわけじゃない。というか、だいぶある。雑に書いていたことが主だろう。

 でも初仕事だし、緊張して全部やりまくった研修中とも違う。それに、副記録官がいると言われたのだ。しょうがない。


「今、しょうがないとか思いましたか?」


「全然そんなことないですよ!」


「ベテランをなんだと思ってるんですか?貴女の考えなら読み取れますからね。あと、家柄が良いから評価は下がらないなんていう幻想は捨てなさい」


 尋問系統は人が少なすぎる部署だ。他の部署群に比べて圧倒的に職員がいない。だからこそ、入るだけで泣いて喜ばれると思っていた。

 そんなことはない、すごい怒られてる。


「尋問記録を途中から途中までしか書いていない、発言者が誰かがわかるように記していない、尋問の対象の名前を記していない。挙げ句の果てには尋問中の発言に反応して声を出す。初仕事とはいえミスが多すぎるでしょう。」


 その通りすぎて、何も言えない。


「言われたことを出来ないうえ、まず覚えてすらいないようでは、貴女にはなんの価値もありませんよ。前線やダンジョン攻略組に異動を考えても良いのです」


「こ、困ります!家名に泥を塗るなんて、お父様に何を言われるか!」


 異動のせいで実働部隊に移されるのは、露骨に家柄と能力を下に見合う貴族社会では、かなりマイナスなことだ。私はシルレリア家が好きだ。だから、絶対に悪くは言われたくない。


「なら言われたことだけでもやりなさい。私は教育係だから我慢しますが、他の方々は耐えられない人が多いですよ」


「……努力します」


 死傷が多い部署に異動したら、親、兄妹、家の皆を心配させてしまう。しっかり仕事しないと。


「そういえば、ヴォルフガングは魔力について貴女に指導するよう言っていましたね」


「そ、そういえばそうでしたね」


「貴女は予想以上にダメなので、尋問における基本常識も含め、厳しく指導します。」


「…………はい」


「そうでないとまともに憂さ晴らし……ではなく仕事ができませんから」


 何か不穏なことを口走ったように聞こえたが、気にしてはいけない。研修の時は、まともで優しいおじいさんだと思ったのだけれど。


「今までの人生でしたことないくらい努力するから、優しくお願いします……」


「貴女が使えるようになれそうなら飴も与えましょう。ですが、貴女に今必要なのは鞭です」


「ひえ〜!」


「ふざけた返事ですね、そもそも常識が足りていないのですか?」


 それから、ひえ〜!をきっかけに少し怒られた。明日以降は今日まずかったことを出来るだけ修正し、研修時のような真面目に戻って欲しいと言われた。


「久しぶりに説教なんてしましたよ……そういえば、今日はもう仕事ありませんよね?」


 今は大体午後4時。確認こそしてもらったが、報告書・記録書の提出はまだだ、明日仕上げれば良いだろう。疲れたからレストランに行きたい。


「疲れたので、家の近くのレストランに行こうかと思っていました」


 反応を聞いたヴィルヘルムさんは、うんうんと頷いてから、私の方を向いて言う。


「明日、また彼の尋問を行います。それまでに魔力の扱いを少しでも教えておきたいと思いまして」


 提案を蹴ることも出来たのだろうが、それは私が大馬鹿者だった場合でしか選べない選択肢だっただろう。言外に伝わってくる圧は、思考回路を乗っ取りかねない程に強烈だったから。


「あー……わかりました……お願いします」


「レストラン行くご予定でしたら、上手くいけば早めに終われますので頑張ってください」


「はい…………頑張ります…………」


 その後、2時間かかって初級の魔力隠蔽術を会得した。基本的に半日はかかるらしいので、私は魔力の扱いにおいてはかなり良い方らしい。でも、褒め言葉を受け取って喜べるほどの空腹では無かった。

 体外に魔力が溢れるのは、不感蒸泄をどうしようもできないようなもので、抑えるには理を超えた力、つまり、魔力が必要だ。だから、魔力を用いて体表に微弱な結界を作ることで体外に溢れる魔力を吸収しつつ、その結界を常に肌から吸収するという訳の分からないことをしなければならない。

 普通に頭がおかしくなるかと思った。


 そのままヴィルヘルムさんに食堂でのディナーのお誘いをしていただいたので、2人で食堂に向かった。

 食堂は、午後6時頃ということで混雑していたが、ヴィルヘルムさんがよく空いている席を知っていたので、温かい食事にありつけた。味以上に美味しかったので、ヴィルヘルムさんに聞いてみた。出来上がった料理に魔力を照射しているらしく、魔力不足だと魔力が充填されて気力が湧くらしい。


 大した会話も無いまま食事を終えると、尋問部には大きい休憩室があり、そこで寝られることをヴィルヘルムさんに教えてもらった。寮の手続きをしていなかったし、疲れていたのでそこで寝た。誰もいなかったから快適だった。


 翌朝、昨日の疲れは嘘みたいに吹き飛んでいた。

 朝ご飯もヴィルヘルムさんとご一緒したので、少し話をした。

 疲れについて話したら、ヴィルヘルムさんいわく、魔力のせいで引き起こされた疲れは日を跨がないらしい。今日もしっかりと働けますね、と冗談交じりに言われ、苦笑してから尋問部の事務所へと向かった。

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