13話
「会話って、最中にタネを探そうとすると詰まるのよね。自然に湧いてくる話題じゃないと、いまいち話が続かないし、盛り上がらないわ」
「話すことがないって話ですか?」
「駄洒落みたいね」
さっき気付いた。
こいつらと話すには、会話のタネが無さすぎる。
ディンは口下手だし、クロエはいちいちうるさい。
それに、ディンの専攻する分野もクロエの専攻する分野も私とは違うから、話が合わない。
給料の話くらいしか盛り上がらない。
「そろそろログトも来るだろうが、私たちが立ち会う必要も無いな」
「ま、そうね。どうせ今日は何も起きないわよ。治療が終わったら帰りましょう」
「そういえば、ディネンさん建物直さないんですか?」
「明日でいいだろう、正直面倒だ」
どうせすぐ直さないうえ、結局やらないことがある。
今回、派手に壊しやがったので、絶対にディンにやらせる。
「そういうことなら、私が破壊した部分だけ直して帰るわ」
「あ、フィオナさん今日帰るんですか?いっつも事務所か倉庫か野宿じゃないですか」
「野宿って何よ、屋上か屋外鍛錬場で寝てるだけよ」
「それは野宿だろう」
寝る場所についてぺちゃくちゃ言われる筋合いは無い。
クロエも倉庫だし、ディンにいたっては場所と時間すら不明だ。
宿舎を使えよ。
それに、最近は鍛錬場では寝ていない。
「まぁ、久し振りに疲れたしね。しっかり疲れを落としたいのよ」
「そうか……私は残ろう。壊した部分を見ておきたい」
「いつもはもっと雑じゃない、今回は頑張ってね」
「ああ、流石に派手にやりすぎた」
自覚はあるのか。
いつもは、人ひとりが通れるくらいの穴を開けたり、床や壁を削ったり焦がしたりするぐらいだ。だが、今回は文字通りの爆破をしたせいで、大穴が空いた。
「クロエはどうするのかしら?」
「私は……今は家がめちゃめちゃ汚いので……」
「埃か、その他雑多か、どっちよ」
「……後者……です…………」
こいつは整頓ができない。
事務所では、こいつの割り当てられている場所だけ信じられないくらい汚い。
絶対に手伝いたくない。不思議な折れ方をした紙が多すぎて頭がおかしくなる。
「あんまり汚すぎる部屋だと、変な魔力がこもるわよ」
「それよく聞きますけど、本当なんですか?ディネンさん」
「そもそも、一つのものがずっと同じ場所にあったり、魔力を持つものに魔力をもつものが重なると、魔力がこもる」
ほんほん と気持ち悪い返事をしながら頷くクロエ。
「周囲の環境によってこもる魔力の属性は違うのだが、周囲の魔力の属性の種類が多すぎると闇属性の魔力がこもりやすくなる」
「待ってくださいよ、私の家には多属性の魔力はこもんないと思いますけど」
単純な話なのだが……
「まぁ……台所には水桶や調理台が、窓からは光が、玄関には土や砂が、とか色々あるじゃない。あーあと、魔法陣にも魔力はこもるわね。どうせ魔石も散乱してるでしょ」
「あー……納得ですね」
「まぁ、わかったら掃除はすることね」
頷いているが、こいつは人の話を参考にできない。
馬鹿だからだ。
「あ、そういえば」
「なんだ?」
「図書室とか、研究室とかって、なんで闇属性の魔力がこもらないんです?」
こいつは騎士団本部をほっつき歩くのが趣味だから、当然行き着く疑問だと思う。
研究室には、なかなかの数のゴミ山があるし、図書室には魔法陣が記された本がある。
「あれは、司書や研究者が逐一魔力の処理をしている」
「え!?司書のおばちゃんとかオタクのおっさんとかが!?」
「誰を指しているのか分かりかねるが、魔力の処理は義務付けられた作業だ」
司書のおばちゃんは多すぎてわからないが、オタクのおっさんはゼンさんだろう。
あの人はヤバいが、指定された業務はこなす。
「ゼンさんは仕事をしたうえで徹夜しまくって研究してるのよ」
「へ、へぇ〜」
まぁ、微塵も働いてなさそうなのはわかる。
私もあの人がまともに働いているとは思えないが、事実だ。この目で見た。
「色々予想外でした。迷信じゃないうえ、ゼンさんが働いているとは」
「あんましょうもないこと言ってるとゼンさんに言いつけるわよ」
「彼なら薬を盛るだろう、もうそろそろ痒み薬ではないか?」
ゼンさんは説教の代わりに、人に薬を盛る。
痒み薬は盛られなかったが、あれは未だに許せない。
「え、飲むってことですか?」
「あぁ、彼の痒み薬は多層構造で、様々な箇所に痒みをばら撒いて消える」
「…………」
クロエが黙ってしまった。
「ま、痒み薬の恐怖に怯ながら暮らしなさい」
「まっ、ま、ちょ、フィオナさぁ〜ん……」
「気持ち悪い声出してると私が薬盛るわよ」
「あなたの薬は死ぬやつしかないじゃないですか!」
自害を選ぶレベルの苦痛が待っているから、クロエが本気で懇願している。
私とてゼンさんの被害者だ。そこまでの非道ではない。
「まぁ、流石にチクんないわよ。実害があったらやるわ」
「誠に感謝……」
「そういう態度だから、今フィオナに脅されているのだろう?」
「まぁ……」
ふざけて盛大に礼を言ったクロエに対し、正論で刺すディン。
容赦がない。
「これに懲りたら……っていうか、まだなんの罰も起きてないけれど、まぁ、ふざけた態度は控えることね」
「はぁ〜い」
間延びしたふざけた返事をするクロエ。
今私がわからせてやってもいいって分かってない。
「あのねぇ……」
「ふ」
「何よディン、楽しそうにしちゃって」
急にディンが笑みをこぼした。
こいつは、あまり笑わないし、感情を表に出さないから、かなりレアだ。
「いや、今日何かを間違っていたら、こんな中身のない会話は出来なかったのだろうな、と思うとな」
「まーそうですねぇ……」
「ま、あんたが笑うってなかなかのことだしね」
「む……そうか? つい先日も「あー!あれね!喜劇を観に行ったときあなた爆笑してたわね!」
「……?」
とんでもないことをカミングアウトしようとした気がするので、全力で被せる。
何不思議そうな目でこっちを見てんだ。当たり前だろ。
「何やら蜜月な気配を感じたのですがぁ?」
「こんな唐変木で木偶の坊のやつを誰が好きに?」
「おい待て、私は有能だ」
「「否定できてない」」
馬鹿みたいな回答に突っ込んだら、ハモってしまった。
クソ愉快な部署だ。頭がおかしくなる。
というか、ログトが来ていた。
「疲れたわよ、まだ昼前なのに」
「さっきから疲れていただろう」
「そういう意味じゃ無いと思いますよ?」
お前は急にまともになるな。
「もう……」
「結局2人は恋仲なんですか?」
「は?」
不意打ちに声が漏れる。
違うって言ってんだよ。わかれよ。
「恋仲……恋仲なのか?」
「知らないわよ、友人でしょ」
「そうなのか?」
「じゃあ同僚じゃないかしら?」
本気で考え込むディン。
頭が良さそうな見た目なのにクソバカだから、慣れるまで時間がかかった。
というか、考え込むほどの話題でもない。うまく配分しろ
「む……」
「なんか……すみませんね。こんなことで思考スイッチが入るとは思わなくって」
「良いわよ、私だってここまでバカだと思わないわ」
「少し悩んだが、やはり恋仲ではないか?」
「ぶはっ」
「ころすわよ?」
何を口走ったかと思えば、このバカ女は……
「あんたが私のこと大好きなのはわかったわよ。ログトはもう来てんの、行きましょ。」
「フィオナさん愛されてま――ぐえっ」
ニヤつきながら煽ってきたクロエをゴーストで吹き飛ばし、穴から飛び降りようとする。
「なぁ!恋仲――ぐっ」
クソみたいな呼びかけをしてきたディンを、飛び降りながら誘導弾で吹き飛ばし、着地する。
「あぁ、ようやく雑談が終わりましたか。もうグリゲルの治療は終わりましたよ」
「なんの実りもないクソ話だったわ」
頭でバカ二人を思い浮かべながら、そう言う。
「その割には顔が赤――ぐぁっ」
からかってきた目の前の老骨の腹に拳を差し込み、牢の奥へと向かった。




