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11話

壮絶と言えば壮絶な現場で、新人がグリゲルの介抱をしている。

着ていたローブを枕にして寝かせ、固形の魔力を傷口に詰め、止血をしていたようだ。

……ローブの下は直でノースリーブらしい。人のことを言える着こなしでは無い。


床には抉れた跡や、飛び散った血が。壁には2本の穴が空いていて、いずれも綺麗に貫かれている。

あと、むせ返るような闇の魔力。


「君が新人か?一体何があった、教えろ」


「えと……その……」


新人の方へ向かうなり、詰めるディン。

人の感情を考慮して行動できないものか。


「ちょっとディン、落ち着かせてあげなさいよ」


「そうなのか?私は状況が知りたいのだが」


絶句しかけた、こうも人の心がわからないものなのか。

そもそも、脅威は去ったと言ってもいいこの状況で生き急ぐ必要があるとは思えない。


「あのねぇ…………この娘はまだ尋問部どころか働き始めて2日目なの。ベテランみたいな情緒の制御ができるわけないでしょ」


「む、そうか。すまんな、落ち着いたら早く声をかけろ」


何も理解していないのではないか?

グリゲルに視線を向けた私の視界から外れたディンが、どこかに行く。

ディンに対して疑念を抱いていたら、ヴィルヘルムがグリゲルに近付く。


「フォルトさん。グリゲルさんに治療魔法をかけますが、見ておきますか?」


「は、はい」


そう言って立ち上がり、グリゲルの足元に動く新人。

まぁ、こいつの治療はレベルが高いから驚くだろう。


「軽い治療の場合は傷口に、治療性光魔力を流します。これは受けた経験があるでしょう」


「はい、子供の時はよく怪我をしてたので」


「ですが、このような重傷の場合、それは応急処置にしかなりません。その点で言うと、この止血方法は新しいものですね。」


グリゲルの腹を指し、そう言う。


「そ、そうですか。えーと、じゃあ、どうやったら治るんですか?」


人差し指を立て、ヴィルヘルムが言う。


「方法は、大きくわけて3つあります。1つ目が、魔法を使う方法。2つ目が、魔法陣を描く方法。3つ目が、薬を使う方法です。」


今は急速治療薬を持っている者がいないし、魔法陣の使用は尋問部に張られた特殊な結界を不安定な状態にしてしまう。だから、今は魔法を使う治療を行う、と思う。


というか、長くなりそうだ。

空気を圧縮してソファを作り、ヴィルヘルム達から5mくらいの場所に座る。


「環境の問題で、2つ目と3つ目の方法は使えないので、今回は魔法を使って治しましょうか」


「わかりました」


ヴィルヘルムは基本的に変な択を用意しておく奴だから、普通の方法で少し安心した。


「重度の負傷に対する治療魔法は、攻撃魔法と同様に、部位・負傷の種類ごとに分けられた専用の魔法文を組み合わせることで、治療できます」


「あぁ、便利なんですね」


「ただ、治療魔法はプロセスが複雑ですので、使用するとき気を抜いていると、使用する魔力が多すぎて失神することがあります」


治療魔法は調整が難しい、そのうえ使用する魔力が多い。

よって、便利なのにも関わらず使われにくい。

未だに詠唱に頼らず、まともな手術や薬、魔法陣での治療が多いのはそれが原因だ。


私でさえ、魔力の扱いに慣れていないときはまともに使えなかった。

骨密度の調整まで頭が回らず、体が重くなりすぎて動けなくなったりしたなぁ。


と、感傷に浸っている裏で、ヴィルヘルムは注意事項を話し終えたようだ。


「まぁ、まだ死なないですし、グリゲルさんは丈夫なので、練習台には丁度いいでしょう。」


「そんなに悠長でも良いんですね……」


「こんなものですよ」


雑に返事をするヴィルヘルム。

こういうところたまにある。


「さ、私が適当に内臓を治すので、肉と肌をお願いします。神経は後でログト……治療専門の尋問官に治させます」


「わかりました」


その会話を最後に、ヴィルヘルムが詠唱し、手から眩い光が放たれ始める。

穴が空いていたモツが塞がれ、多分血も補充され始めている。

見事なもんだ。私は人間の身体構造が苦手すぎて大雑把にしか知らないから、内臓は治せない。


そんなことを思っている内に、内臓の治療は終わったらしい。

ヴィルヘルムの手は、既に発光し終わっている。


「フォルトさんの番ですよ。」


「は、はい!指導お願いします!」


元気な返事だ、私にはもうできない。


暇になってきたので、ディンと雑談でもしようかと思い、立ち上がる。

ヴィルヘルムの視線を感じたが、無視。

ディンのせいでデカい穴が空いてしまったから、魔力の探知が容易に行える。


相変わらず隠すのが上手いが、尋問室のあたりに反応を感じた。

それと、クロエも一緒だろうか。

あいつがいる割に静かだと思ったのだが、そもそも牢の周辺にはなかったらしい。


空気操作の魔法で上に飛び、穴を抜ける。


ディンとクロエが話していた。

内容は……昇給の話か?


「暇なのよ、私も混ぜなさい」


「あー、フィオナさんも昇給します?」


「今回、魔王の調査に貢献していたから、昇給も考えている」


おっと、嬉しい報告だ。


「何年ぶりかしらね、昇給」


「2年だ」


「まぁ、なんにも無かったし、そんなものよね」


「やっぱりブラックっぽさありますよ、この部署」


「これから忙しくなるなるだろう、昇給の機会も増える筈だ」


「仕事も増えるわよ、本当にヴォルフガングとかいう奴ね……」


そんなたわいない会話をしながら、治療の終了とログトを待った。

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