10話
「こんなことをしている暇では無いのだ。お前らは面白いし、ヴォルフガングに対しての扱いも丁重だったから、お前らは捕虜にはしない。だが、それはそれとしてヴォルフガングは返してもらおう」
「それは難しいな。ここの初老……ヴィルヘルムが中途半端に情報を聞き出したせいで、対した情報も得られていないのだ」
ディンが反対する。
ヴォルフガングは重要なんたけど、私達の存在と引き換えにできるほどではない。
だから、不用意な発言は慎んでほしい
「お前等がヴォルフガングを引き渡さないのであれば、俺は非協力者を全て捕虜にし、洗脳して駒とするだけだ」
「やはり、一度やっていましたか」
ヴィルヘルムがそう言う。
私もそうは思った。
「ああ。あのときはヴォルフガングではなく、ヴァイスだったがな」
聞いたことの無い名だ。
参謀とかか?
「そういうこと言っていいんですね〜」
「過ぎたことだし、既に報復はした。だからよい」
「わざわざ反応ありがとうです〜」
心臓に毛が、だとかそういう次元ではないだろう。
やっぱりクロエが一番おかしいと思う。
「雑談はいいのだ、ヴォルフガングを寄越せ」
少し逡巡し、こう言う。
「まぁ〜……私達がいなくなるよりはマシよね」
「フィオナ、それはそうだが本当にいいのか?」
問うディン。
最適解ではないかもしれないが、正解には違いない。
逃がしても今後は機会がある。だが、私たちの神隠しは大きな混乱と戦力不足を生む。
しょうがない、と割り切って、差し出すことにしよう。
「ま、良いわよね」
私の提案は、皆も納得してくれたらしい。
道案内かな。
「場所はわかるのかしら?」
「しっかりとわかるが……あいつ、殺意を受け止めているな。お前らがどう行くかは知らないが、俺は先に行く」
「先に、というのはどのような――。おや」
瞬間、魔王が消える。
結局日和ってしまって、魔王から大した情報も聞けなかった。
名前くらいでいいのだけれど。
「なんか不穏だし急いでいきましょうか、飛びましょ」
「私が穴を開けるという選択肢もあると思うが」
ぱっつんの黒ロングでローブとかいう真面目そうな見た目のわりに、調節もできない火力バカなんだから、あんま軽々しく壊す、とか破る、とか穴開ける、とか言わないでほしい。心配になる。
「一点集中できないんだからやめときなさい、直したくないわよ」
「む、では仕方ないな。というか、君ならできるだろう」
「もう集中したくないのよ」
疲れきった、正直飛びたくもない。
「今の貴女を連れて行ったところで、大して約にも立たないでしょう。ここで休んでいてもいいですよ」
辛口な意見がヴィルヘルムから飛んでくる。
こいつが良いって言うなら行かなくてもいいか。
「あーフィオナさんサボるんですか?」
「サボるわよ、貴女より頑張ってんだから良いでしょ」
口を尖らせるクロエ、気持ちの悪い動作をしても減給しかしてやらない。
というか、こいつにとって防御魔法を使うのは呼吸をするようなものだ。
前に本人が言っていたので間違いない。こいつのせいだ。
「疲れているときのフィオナは使えないから要らないだろう。いない方が良い」
ディンのこのセリフは腹立つ。
牢にいるのは、新人とグリゲルだ。あと本当にヴォルフガングが牢からでている。
ログトは……物置側にいるな、多分あと5分くらいで牢につくだろう。
そして……マリナは事務所だ。まぁ、あいつは戦えないしいいだろう。
「牢にいるのは新人ちゃんとグリゲルだから、多分急いだほうが良いわね。ログトが着く前にグリゲルが死ななければ大丈夫よ」
「そりゃあ難易度高いですねぇ、無理じゃないですか?」
「グリゲルさんは全部が速すぎるんですよねぇ……ヴォルフガングを使って魔王を脅す、なんてことは予想するまでも無いでしょう」
グリゲルは……そうね、死ぬときゃ死ぬわよ。
ログトなら5分以内なら蘇生できるからなんとかなるでしょう。
「ま、急ぎなさいよ。私は屋上で見守りしてるから」
「じゃ、最高速で行きましょー。ディネンさん背負ってくださいよ」
図々しい奴だ。でもこいつの代わりは一人としていないから捨てられない。
ジレンマだ。
いや、そんなこと考えている暇は無いな。
建物が溜め込んだ一分間分の魔力が放出される。
多分半覚醒状態だったんだろう、グリゲル魔力の反応がゼロになりかけだったから気が付かなかったが、あいつの出血由来の魔力の放出を確認した。
それに、新人の魔力の反応が増大したのも感じる。
あーしかも、大きな闇の魔力。感覚的にはゲート系か。
こりゃもう全部が終わった後かもしれないわ。
「グリゲルがボロカスになってるわね、あと多分逃げられたわ」
「展開が早すぎませんか?」
「しょうがないわよ、そういう材質のエリアじゃない」
「不便ですよね、これ」
尋問部エリアは壁や床、天井が魔力をため、一分おきに放出する仕様になっている。
だから、咄嗟に起きた事象に対応できない。
「では躊躇わなくても良いな、いくぞ」
「躊躇わないって爆破の話かしら?」
不穏なことを言うディンに、思わず反応してしまう。
「無論…………燃え上がれ!吹き上がれよ!!」
「ちょ、ディンさ――「イラプション!!」
直後、床から熱が吹き上がり、爆発的な噴火のように魔学的コンクリートが爆砕する。
クロエが張ったバリアなんてぶち破り、文字通り爆炎を吹き上がらせる。
ぶち抜かれた床の穴を通して、魔学ライトでわりと明るく照らされた廊下が見える
「ちょっと…………あんた直しなさいよ」
「ああ、後でだ」
そう言って、廊下へ飛び降りるディネン。
魔法も使っていない。なんなんだこいつの才能は、運動もできるなんておかしいだろう。
「こんなに近いなら私も行くわよ。さ、皆行きましょ」
「しょうがないですね〜 降りましょっか」
「これ、修繕かなり大変ですね……」
三者三様、いや、私も含めてなんだけど、皆様々な反応をして、降りる。
私は魔法でフワッと、ヴィルヘルムはクロエを背負った上で魔法を使って降りた。
牢の深部に向かうと、グリゲルを介抱している新人がいた。




