9話
「牢に戻るか投降するか選べ!!」
ヴォルフガングとの距離は約10m。
痺れるような声量で怒鳴るグリゲルさん。
選択肢に意味がない気がする。
「まぁ落ち着け、君はわかってないな。今判断を失敗したら死ぬのは君だ」
「言っとくが、俺はお前より強いぞ」
「やはり君はわかっていない。お嬢ちゃんならわかるだろうか」
暗くて少し見にくいが、グリゲルさんのことは見ておらず、私だけを見ている気がする。
最初からだ。私がヴォルフガングを視認する前から。
「私は特に……あ、でも上司、えー……ジルグレイトさんが文献を読んでましたね。黒い玉みたいな」
「おいフォルト。気を付けろよ」
それは、私を心配した結果の言葉ではないように感じた。
殺意ではないが、刺々しいものを感じたから。
「あぁ、あの暴走か。あれは捕らえた相手が悪かった、私たちの友人だったんだ」
グリゲルさんなんて意に介さない様子で、ヴォルフガングは私にそう言う。
「んだよ、俺を無視してお話かよ」
「お嬢ちゃんのことは個人的に気に入っている、辿り着けるかもしれない人間だ。だから口が軽くなってしまう。無論、君も聞いて良い」
「お前が何言ってっか知らねぇけど、その気になりゃあ一瞬で消し炭にできるってこと忘れんな」
その言葉を聞いて、私は流石に焦る。
この人は感情のコントロールが下手な人だと思う。だから、ヴォルフガングが真に有益な話をしても、腹立ったら殺しちゃう気がする。
「う、上は強い人たちでなんとかしてくれてますし、戦闘にならないに越したことは無いと、お、思います」
「知らねぇよンなこと。ほら、話すんなら話せ、魔族」
「君に指図される立場なのが残念だ」
そうグリゲルさんを煽るヴォルフガングは、話の続きを始める。
「私、魔王様、ヴァイス…件の幹部だ。それと、ギルバート。4人で魔王軍を立ち上げたのだ。」
「あ、創設者なんですね」
私の前で話をする人、それと、多分上で問題を起こしてる人は魔王軍の初期メンバーらしい。
「元凶4人を潰しゃ壊滅するのか?」
「魔族は消えないし、そもそも勇者でもない限り勝てないだろう。ギルバートに至っては、ジルグレイト程度では傷も付けられん」
ヴィルヘルムさんは強い人との比較にでてくるくらいには強いらしい。
「話を戻そう。4人で魔術を用いて家を一人一軒ずつ作り、集落を作ったのだ。そして旅人を泊め、貸しを作った」
「汚くねぇか?やっぱ魔族だな」
そうグリゲルが文句を言う。短絡的だ。
「再度近くを通ったときに、食料や娯楽を持ってきてもらう程度だ。あと宣伝もしてもらったな」
「つーかよ、魔術っつった? 魔法じゃなないんだな?」
気付かなかったが、魔法ではなく魔術と言っていたらしい。
違いは……学校でやったけど覚えてない。
「あぁ、あの頃は魔術が無かった、魔術では不便だったから、私と魔王様で魔法を作った」
「あー……魔法を作ったと……」
「驚きもできねぇくらいには衝撃的だぜ」
詩的な表現だ。
それにしても、魔法はこの人が作ったのか。
「いや、魔法?」
「ああ」
「えー……」
溢れ出る感謝の念と色々と色々のせいで感情が不思議な方向に向かっている。
「まぁ、そういうこともあるか」
「いや、無いと思い「久し振りだなヴォルフガング」
知らない男の声が、私の後ろで聞こえた。
「あぁ、久し振りですね」
そして、雷光のような音。
「てめぇ、動くとこいつが死ぬぜ」
瞬間、ヴォルフガングの真横に出現するグリゲルさん。
一秒も無かった。
圧倒的な脚力から生み出される加速力とブレーキ?
魔力の気配すら全くしなかった。
そもそも、この状況に反応ができていない。
「落ち着け、別に人死にが好きな訳では無い、魔王は私のためなら自ら手を下す」
「黙ってろ、死にたくねぇなら「煩わしい雑魚だな」
「――っご……ぁ……」
瞬間、魔王もまたグリゲルさんの真後ろに出現。
グリゲルさんの腹が手刀で貫かれる。
「グリゲルさぁん!!」
そして、不意に叫ぶ私。
瞬間、状況に適応した激情が膨大な魔力を生み出す。
「ぉあっ!?」
無属性の魔力の塊が発生、高速で魔王に発射されたそれが、グリゲルさんをすり抜け、魔王を吹き飛ばす。
グリゲルさんは崩れ落ち、ヴォルフガングは目を見開き固まる。
攻撃した気は無いが、何が起きたかはわかる。
「シン!この娘は殺すな!」
「わかってる!こいつは持っている!確実に!!」
ヴォルフガングが魔王に向けて叫び、魔王が怒鳴って返す。
魔王はシンというのか。
そんなことはどうでもいい、私はグリゲルさんを救えればいい。
あと2人が来てくれれば楽なんだけどな。
そんなことを考えながら、氷・光線系魔法であるアイシーレイの詠唱を行う。
攻撃魔法は、属性専用の魔法文を組み合わせて詠唱することで楽に発動できる。
「〜〜〜〜全てを貫く凍てついた一閃!アイシーレイ!」
「っがぁッ!」
魔王への命中を確認、おおよそ左胸、心臓部。
であれば、破壊性光線系魔法、、ブレイクレイを放つ。
「流石だお嬢ちゃん!!君なら、いや或いは君の――!「法則さえ砕き全てを破れ!ブレイクレイ!」
「ぐッッうぅぁ!」
再度心臓部に着弾。氷属性魔法は魔力を凍てつかせる、そこに破壊性の魔法を当てると、魔力が暴走し、隣接する部位に甚大な損傷を起こす。
そして、魔力の暴走が収まらない内に属性魔法を当てると、魔力の暴走に属性効果が付与される。
教科書通りで、最も簡単に最高火力を出す方法の一つ。
次に放つのは炎属性、体の芯が灼かれる感覚は魔王であっても辛いはずだ。
「全てを焼き尽くす轟炎の一閃!ブレイズレイ!」
「流石に見過ごせない、この荒々しい彼に死んでほしくないのだろう? 同じように、私も魔王には死んでほしくないからな」
ヴォルフガングがそう言う。すると、結界の影響だろうか、私の魔法が弾かれる。
であれば
「ゴースト!」
結界をすり抜ける数少ない魔力属性魔法、意表をつくためにしか使えないが、意表くらいは突ける。
「壁」
瞬間、床が盛り上がり、魔法を防ぐ。
「荒々しい彼は死んでいない!治療さえすれば後遺症も残らない筈だ!」
叫ぶヴォルフガング、直前に使った謎の術は知らないが、絶対に解き明かす。
なんとなく、最善な気がした。
「そして、君にヒントを授ける!」
「なんですか!!」
「砂塵の迷宮を含む!6つの未攻略巨大ダンジョンには!魔王への手掛かりが隠されている!!」
何年も大声を出したことがないような叫び方だ。既に声はかすれ始め、裏返りもしている。
「君は!適切に訓練すれば!必ず私たちに辿り着ける!!」
「だからなんですか!!!」
「俺たちを殺しに来い!!!」
予想外の発現に、一瞬迷いが生じる。
「君なら辿り着ける!勇者の力を借りても良い!必ず!!俺たちを殺しに来い!!」
「わけがわからないです!!」
「いずれわかる!!私たちは今は引く!!今度は君が来い!!」
そう言って、黒いゲートを作り出すヴォルフガング。
本当に逃げるのだろう。
「やってやりますよ!!ヴォルフガング!!貴方だけは私が殺す!!!」
「ああ!待っている!!」
ゲートに逃げ込むヴォルフガングと魔王、逃がしてしまって良かったのかという疑問なんて浮かばなかった。
間違いなく昂っていた。だが、私が始末をつければよいのだ。
ヴォルフガングを殺すことで、罪を償う。
そう心に決めた。
今は事後処理だ。
滑り込みしてしまって申し訳ない
誤字脱字かなり多いかもです




