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歓迎会2

 一通り洗い終わりテーブルへと戻ると、そこに置いておいたスマートフォンがチカチカとメッセージの着信を知らせていた。先ほどから何通か届いている、夏樹の上京を祝う友人たちからのそれだ。さっそく開いて確認していると、ナッツをつまみながらビールを飲む晴人が「彼女?」とからかってくる。


「地元の友だちっす。彼女からは来てないっすね」

「あ、いるんだ」

「っす。へへ、初彼女なんすよ~」

「マジか。遠距離だと寂しいんじゃない?」

「んー、でも中学からの夢がやっと叶い始めてるとこなので、ワクワクのほうが大きいんすよね」


 クラスメイトなどの近しい女子たちからは、いつも「顔はいいけど友だちって感じしかしないんだよね」と言われてきた。そんな中、彼女の綾乃(あやの)は人生で初めて告白をしてくれた女の子だ。嬉しさのあまり、二つ返事でOKをし付き合い始めた。半年ほどで遠距離となってしまったのは確かに申し訳ないが、頑張ってねと言ってくれている。


「晴人さんはいるんすか? 彼女」

「俺ー? 俺はねー、付き合ってもすぐフラれちゃうんだよねー。何でだろ」

「だらしないからだろ」

「俺一途だけど!?」

「そうじゃなくて、生活面が」

「うわ、グサッときた……」

「じゃあ少しずつ改めるんだな」

「うーん、それは無理!」


 柊吾と晴人の会話はリズミカルで、聞いているだけでも楽しい。少し気の抜けたサイダーを口に含み耳を傾けていると、電話の着信音が鳴り始めた。どうやら柊吾のスマートフォンのようだ。画面を一瞥した柊吾は、通話ボタンを押して立ち上がる。親しげに柊吾の名を呼ぶ男の声が漏れ聞こえる。


「もしもし? なに?」


 今から? と問い返しながら、暮れた街を映す窓のほうへと歩いていく。少し渋りながらも「分かった」と答えて通話を終えた柊吾が、またこちらへ戻ってきた。


「ちょっと出てくるわ。朝には戻る」

「りょうかーい」

「お友だちっすか?」


 そう問いかけると、柊吾は何故か苦々しく笑った。言いたくなさそうな本人の代わりに、晴人が口を開く。


「友だちっちゃ友だちだけど、ちょーっと違うよな」

「違う?」

「セフレだよ、セフレ」

「え……え!?」

「晴人、余計なこと言うな」

「セ、セフ……」

「あは、セフレって言うの恥ずかしい感じ? かわいい~」


 さっき聞こえてきたのは男の声ではなかったか。

 いや、問題はそこではない。セフレの意味はさすがに分かっても、夏樹にとってちっとも馴染みがないのだ。地元ではそんな言葉を実際に聞いたことはないし、どこかフィクションのようにすら思えていたのに。


 性欲を発散するだけの相手がいる?

 このどうしようもなく格好いい、憧れの男に?

 はいそうですかと受け入れることが出来ず、夏樹はくちびるを噛みしめて俯いた。


「夏樹? どしたー?」

「…………」


 黙りこくっていると、柊吾が動く気配がした。このまま行かせたくない、夏樹は咄嗟に立ち上がる。

 勢いに揺れた椅子が、ガタリと大きな音を立てた。


「あ、あの!」

「ん?」

「え、っと……せ、セフレ、ってことは、付き合ってはない、ってことっすよね」

「そうだな」

「……そういうこと、って、好きな人とするもんじゃないんすか」

「…………」

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