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まだ恋を知らない6

 自分で言ったのだからきちんと覚えている。口から出たでまかせでもない。だがその大胆さに、改めて自分でも驚く。そうなってもいいと本気で思っている。


「酔ってないです」

「……オレはゲイだし、夏樹と出来るよ。でも夏樹は違うだろ。それに……そういうことは“好きな人とするもの”、なんだろ?」

「あっ」


 ああ、どうしよう。夏樹は熱くなり始めた息を手で押える。だがその手も絡めとられてしまった。


 先ほどの電話はセフレではなかった、勘違いだった。だが撤回はしたくない。それは何故だろう。大事なことだと思うのに頭が回らない、柊吾が言うように自分は酔っているのだろうか。


「どうする?」

「あ……オレ」

「……なんてな。これに懲りたらあんなこと、軽々しく言うんじゃ……」

「っ、やだ!」

「……夏樹?」


 聞き分けのない子どもに言い聞かせるようにして、柊吾は夏樹を膝から下ろそうとした。いやだ、と咄嗟に思った。慌てて体を後ろに向け、柊吾の首にしがみつく。


 好きな人とするものだと言ったのは自分だ。柊吾だってそれを覚えていた。だが、だから柊吾とするのはおかしい、という結論に夏樹は何故か至れない。


「椎名さん、やめんで……」

「……自分が何言ってるか分かってる?」

「分かってる」

「……こっち」


 手を引かれるままにベッドのほうへ行くと、腰を下ろした柊吾の膝の上、今度は向かい合うようにして座らせられた。すぐ目の前の顔についうっとり見惚れると、首を傾げながら柊吾が小さく笑う。


「そんなに俺の顔好き?」

「うん、かっこいい」

「そう」


 笑っているのに、どこか寂しそうなのは気のせいだろうか。切なさを覚えながら、好きなのは顔だけではないと知ってほしくて、柊吾の頬へ手を伸ばす。包みこむように添えて、下のまぶたをゆっくりと撫でる。


「出逢って椎名さんのこと色々知ったら、もっとかっこいいって思いました。オレ、周りみんな優しい人ばっかりで幸せ者だなって思うんですけど。椎名さんがいちばんあったかい」

「夏樹……」

「だから今日も、あのカフェから逃げ出した時……椎名さんに会いたくなって、帰ってきちゃいました」

「っ、夏樹」


 下くちびるをきゅっと噛んだかと思うと、柊吾は夏樹の首筋に額を摺り寄せた――



――――――――


 柊吾に触れられて、キスをした。

 柊吾はとことん優しかった、()()()そうなのだろうか。柊吾の“いつも”に負けたくない、なんて思ってしまったのを夏樹は覚えている。

 抗えない眠気を必死に堪えながら、夏樹は口を開いた。

「椎名さん……」

「んー?」

「今日、会えて、うれしかった」

「……うん、俺もだよ」

「今度、は、絶対最後までする……」

 そこまで言ったところで柊吾に凭れかかる。眠りに吸いこまれてしまったから、額に降ってきたキスを一生知ることは出来ない。

「今度、って……ふ、ばあか」

 


 心が竦んだ日の夜。柊吾に満たされ夢を見る。それは青ざめた友人たちのものじゃない、柊吾の夢だった。幸せなまま眠りについて幸せな夢を見ているから、起きてもきっと幸せだろうと、夏樹は夢の中でもそう思った。

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