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初仕事4

 今度からは何も気にしないで連絡すること! との晴人の言葉に強く頷く夏樹を、柊吾が「飯にするぞ」とダイニングへ促す。そこには初めてここに来た日のような、いやそれ以上に豪勢な食事が並んでいた。

 夏樹の好物のオムライス、寿司やローストビーフに、名前も知らないお洒落でカラフルな料理たち。


「え、すげー!」

「初仕事のお祝いだってさ。仕事から帰って鬼みたいな顔で作ってたよ、なあ柊吾」

「ケーキも買ってあるから。いっぱい食えよ」

「う、嬉しかぁ……椎名さん、ありがとうございます! あ! 晴人さんまだ食べんで! オレ写真撮りたい!」


 柊吾と晴人はビール、夏樹はサイダーで乾杯をする。ふたりが並んで座りその前の席が夏樹の定位置だが、今日は何故か隣に座った柊吾が次々に皿によそってくれている。

 いつだってその美しい顔を見られるのは眼福だったが、すぐそばにいてくれるのは胸が夢みたいにあたたかい。


「そんでそんで? 今日の仕事はどんな感じだった?」

「それはですね~!」


 晴人の質問に、待ってましたと言わんばかりに夏樹は姿勢を正す。望んでくれたように、本来は真っ先に知ってほしかったふたりだ。昨夜の前田からの電話で始まったことを再度伝え、今日の出来事を意気揚々と話す。


「女子向けのファッション雑誌によくあるじゃないすか、一週間のコーデ特集みたいなやつ」

「うんうん、あるね」

「あれのページの、オレは彼氏役でした!」

「なるほどね~。どう? 上手くできた?」

「表情作るのとかポーズとかやっぱ難しくて……たまに指示もらいながらなんとか!」

「ちゃんと聞く姿勢が取れて偉い偉い。ちなみに相手は誰だった?」

「白瀬美奈さんっす!」

「美奈ちゃんかー」

「すげー綺麗な人っすよね! プロ! って感じで勉強になったし、新人のオレにもめっちゃ優しくて、連絡先も交換してー……」

「ちょっと待った夏樹、それマジ? 連絡先交換したの?」

「へ……マジ、っす」


 先ほどまでうんうんと頷いてくれていたのに、晴人は急に目を丸くしてしまった。一体どうしたのだろうか。不思議に思い隣を見ると、柊吾もどこか神妙な顔をしている。

 白瀬美奈……と確かめるように呟いたのを、夏樹は聞き逃さなかった。


「え、もしかしてマズかったっすか!? なんでオレなんかに聞くとやろとは思って、でもそういうもんなんだろうなって……人気モデルですもんね、失礼でしたかね!?」

「うーん……」


 初っ端の現場で失態を犯してしまった。取り返しのつかないほどのことだったらどうしよう。

 おろおろと怯える夏樹に、だが晴人はそうじゃないんだよねとため息をつく。


「美奈ちゃん、俺も一緒に撮ったことあるけど良い子だよ。マジでモデルやってるって伝わってくるし、それは間違いない。ただねー、男関係がちょっと……」

「男関係?」

「うん。悪い言い方になるけど、男漁り激しいタイプ」

「ええ……全然そやん風に見えんかった……」

「夏樹も気をつけなよ、ぱくっと食われちゃうかもよ?」

「オレが? いやいやないっすよ、それにオレ彼女いますし!」

「向こうからしたらそんなの関係ないよ、一晩だけとか言われるかもだし。自分が可愛いこと分かってるから強い。気をつけるに越したことはないよ。なあ柊吾」

「……ん? ああ、そうだな」


 晴人に話を振られ、何やら考えこんでいた柊吾がハッと顔を上げて頷いた。夏樹の頭をポンと撫で、切り替えるようにいたずらに笑んでみせる。


「スキャンダルになったら困るしな。晴れてデビューしたんだし」

「ええ、椎名さんまで……でも大丈夫っすよ! 美奈さん、オレにはそんなつもりじゃないと思うし。てかスキャンダルとかオレは無名やし……いや、美奈さんのためにってことか! 気をつけます!」

「ちーがーう、俺は夏樹の心配してんの」

「うっ、椎名さんの微笑み眩しか……」

「出たファンモード」


 柊吾手製の美味しいごはん、三人で笑って更ける夜。初仕事を無事に迎えられた夏樹にとって、名づけるならば最高の夜だ。今日はいいよと柊吾は言ってくれたが、オレの大事な役目なんでと皿洗いの仕事は譲らなかった。

 



 柊吾が風呂へ向かい、晴人はソファで寝落ちてしまっている。また雨が降り出しているが、今日のこの部屋は寂しくなんかない。窓辺に立った夏樹は、ふと思い立ってポケットからスマートフォンを取り出す。


 美奈の話の中で彼女がいるからと豪語した時、夏樹は後ろめたさを感じていた。最近連絡をしていないくせに、綾乃を盾に使ったみたいだからだ。

 トーク画面を開いてみれば、今はもう六月だというのに四月下旬を最後にメッセージは終わってしまっている。夏樹から送ることはなかったし、綾乃からも来なくなった。

 だが今日は胸を張って連絡が出来る。プライドが満たされているからだ。


<綾乃ちゃん久しぶり。元気? 今日は雑誌の撮影だったよ!>


 五分ほど悩んでそう送ってみた。既読はすぐについて、それから十分ほど。返って来た返事は<よかったね>とのひと言だった。そっけない気もするが、褒めてもらえたことに安堵する。


 仕事もプライベートも今日は絶好調。そう思える夜が、雨垂れる窓に映っている。

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