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9話 仲直りと始まり


 それから、俺は少し伊与木さんを避けるようになった。


 申し訳ないことをしているなとは思っていた。

 伊与木さんは少し悲しそうな顔をしていたし、別に俺が伊与木さんに嫌がらせを受けたわけじゃない。

 ただ、伊与木さんが俺に執拗に絡む理由が分からないのだ。


 あんなに美人で人気者の伊与木さんが、俺みたいな陰キャなんて。

 それに、背筋がゾクッとするあの視線、とろんとした瞳。

 違和感が多すぎるのだ。


 ――そんなことを考えていたから俺は、伊与木さんにあんなことを言ってしまったのだろう。




 帰り道。

 

 伊与木さんと歩く中で、俺は言った。


「あのさ、伊与木さん」


「どうしたんですか、入明くん?」


「その、ええと……朝俺の家のドアの前で待ってるの、やめてくれませんか?」


「え?」


 固まる伊与木さん。

 次第にショックを受けたように顔を歪ませる。


「どうして、ですか?」


「その、びっくりしますし、変な噂立ちますし……。別に、伊与木さんと一緒に登校するのが嫌ってわけじゃないんです、ただ、その……」


「そ、そうですか」


 伊与木さんが俯く。

 言ってしまった、という頃には手遅れで、俺はどうすればいいか必死に考えていた。


 しかし、伊与木さんは――ぽたぽたと地面に大粒の涙を落とした。


「最近、入明くん私のこと避けてますよね?」


「い、いや、そういうわけじゃないんです。なんていうか……」


「私のこと、嫌いですか?」


「嫌いじゃないです! 嫌いじゃないんですけど、俺みたいな奴に伊与木さんが話しかけてくれる理由が分からないっていうか」


 自分の気持ちを上手く伝えられなくてもどかしい。

 伊与木さんを泣かせたくはなかった。

 何してんだ俺は。


「ごめんなさい、入明くん。私……私っ!!」


 伊与木さんが俺に構わず走り去ってしまう。


「伊与木さんっ!」


 追いかけようと思ったが、足が止まった。

 今俺が伊与木さんを引き留めたところで、何も言うことができない。

 引き留めるだけ無駄だ。


「あぁーほんと、俺ってこんなんだから友達出来ないのかな」


 胸がきゅっと苦しくなった。




    ♦ ♦ ♦




 翌日。


 家を出ても伊与木さんの姿はなかった。

 結局登校するまで伊与木さんの姿を見かけることはなく、学校についてしまう。


「あれ? 今日入明一人じゃない?」


「紗江様にフラれたんだろ」


「元々付き合ってないだろ! どう見ても釣り合ってない」


 奇異の視線を潜り抜けて自分の席に座る。

 

 その後もいつもなら伊与木さんと遭遇していたがそれもなく。

 伊与木さんと一度も話すことなく放課後を迎えてしまった。


 ……謝りに行こう。


 間違いなく伊与木さんを傷つけたのは俺だ。

 時間が経つのもよくない。

 きっと言うなら今しかない。


 伊与木さんのクラスに急いで向かい、伊与木さんがいるから確認する。


「紗江様? 紗江様なら学校にはいると思うけど」


「すみません、ありがとうございます」


 鞄が教室に置いたまま。

 なら探せばきっとどこかにいるはずだ。


 俺はとにかく走り回った。

 入れ違いで伊与木さんが帰ってしまったらマズイ。


 あれだけ避けていたのに、今は伊与木さんを探している。

 おかしいのは俺かもしれないな。


 その調子で走り回る事十分。


「伊与木さんっ!」


「入明、くん……?」


 人の少ない校舎裏の花壇に伊与木さんはいた。

 何を話そうか決めていなかったが自然と言葉は出た。


「こないだはごめん! いや、最近ごめん! 伊与木さんを避けたりして!」


「い、入明くんは悪くないです。私が距離感を間違えてしまったから」


 伊与木さんの顔は沈んでいる。

 いつも華やかな彼女を落ち込ませているのは俺だ。

 俺が責任を取らないとダメだ。


「俺は! 別に伊与木さんが嫌ってわけじゃないです!!」


「へ?」


「ただ、距離感にびっくりしてしまって。あとは、その、言いづらいんですけど……なんで俺なんかに伊与木さんがって思ってしまってたんです」


「入明くん……」


「だからほんと、伊与木さんが嫌とかじゃないんです! 全部俺の問題なんです! だから、伊与木さんは悪くないッ!!!」


 うまく言えてるか分からないが、自分の気持ちを全部言えた。

 息を切らし、頬に伝う汗を拭っていると、伊与木さんがぽろぽろと泣き始めた。


「ご、ごめんなさい! また泣かせるつもりは……」


「違うんです! これはなんていうか、やっぱり入明くんはいい人だなって」


「え?」


 いい人だなんて言われたことがない。

 伊与木さんにこの状況で言われるなんて全くの予想外だ。


「あのとき私を助けてくれて、優しくブレザーをかけてくれたときもそうでした。だから私は、入明くんと仲良くしたいって、凄く思って」


「伊与木さん……」


「でも、ごめんなさい。仲良くしたいって思った異性は初めてで、距離感が分からなかったんです。それで入明くんに迷惑を……」


 伊与木さんの隣に腰を下ろし、ハンカチで涙を拭う。

 

「迷惑なんかじゃないです。俺、友達一人もいないんです。だから俺も、距離感とかわかんないんですよ」


「そ、そうなんですか?」


「はい。でも俺も、伊与木さんと仲良くしたいって思ってました」


「……ほんとですか?」


「ほんとです。嘘なんてつきませんよ」


「……入明くんっ!」


 伊与木さんが俺の胸に飛び込んでくる。

 俺の胸板に額を押し付け、声を上げて泣いた。


「仲良くしたいって思ってくれて、凄く嬉しいです。なのでお互いに距離が分からないなりに、仲良くしませんか?」


「いいんですか? 私、結構入明くんに迷惑かけてしまうかもしれませんよ?」


「いいですよ。だって伊与木さんは、大事な友達一号ですから」


 やっと伝えたいことが言葉で伝えられたような、そんな気がした。


 ――こうして、俺と伊与木さんは仲直りした。






 これが終わりで、始まりだった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


次回の更新は8月1日の12時頃です。

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