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28話 夕食と確信

 

 堅人と昼ご飯を食べた後。


 夕方ごろに家に帰宅した俺はゴロゴロと夕食までの時間を潰していた。

 六時ごろになると伊与木さんが家を訪ねてきた。


「こんにちは、入明くん。お邪魔します」


「どうぞどうぞ」


 俺の家にあがり、そのままキッチンに向かう伊与木さん。

 料理が得意な伊与木さんは、こうして可能な限り俺の家で夕食を作ってくれるのだ。


「いつも申し訳ないです」


「いいですよ気にしなくて! むしろ二人分作る方が結局夕食にかかるお金が節約できますし、私が助かってるくらいです」


「いやぁでも、毎日作ってもらっちゃってますし……」


「ふふっ、いいじゃないですか。私は入明くんに料理を作ってあげるのが楽しいんですから。全部私得ですっ」


「伊与木さん……」


 なんてありがたい言葉をもらっているのだろうか。

 お金払わなくて大丈夫かな。気づけば有料とかそういうのじゃないよな!


「入明くんは待っててくださいね。すぐ作りますから」


「はい!」


 元気よく返事をして、大人しく待つことにした。


 それから一時間ほどで伊与木さんは夕食を作り上げた。

 今日は生姜焼き。おまけにみそ汁やサラダもついていて、もはや定食屋のセットかと錯覚してしまう。


「じゃあ、いただきますっ」


「いただきます!」


 二人並んで夕食を食べる。

 以前までは対面に座って食べていたのだが、気づけば横並びで箸をつついている。

 

「ん、よくできてる!」


 なんて無邪気に微笑む伊与木さんは、姿勢が綺麗だ。

 床に正座し、お手本のような姿勢で食べている。


 所作の一つ一つが美しく、容姿だけに留まらずすべてが美しいんだなと思わず見とれてしまう。

 ふと、俺の視線に気づいた伊与木さんが頬をぽっと赤らめ、肩を寄せてくる。


 そのまま密着するような態勢で伊与木さんは箸を進める。


「伊与木さん? 食べづらいんですけど……」


「こっちの方が美味しいですよ?」


「そ、そうですか……」


 そう言われてしまえば何も言い返せない。

 それにしても、最近の伊与木さんはやたらとスキンシップを好む気がする。

 

 別に嫌ではないのだが、俺も男の子なんだよなぁと言いたくなる。

 だが伊与木さんは気にしている様子もなく、むしろちょっと嬉しそうにしている。


 本当によく分からない人だ。


 伊与木さんに接している側の意識をそらしながら、「そういえば」と今日堅人に言われたことを思い出す。


『紗江様は、ヤンデレだ』


 今まで全く気付かなかったが、思い当たる節はいくつかある。

 でも堅人の意見が正しいとすれば、伊与木さんは俺に好意を抱いていることになるのだ。


 それだけが納得いかない。

 

 ……仕方ない。堅人に言われたアレ、してみるか。


 少し勇気のいることだが、俺のこのモヤモヤを解消するにはやるしかない。

 意を決して、俺は伊与木さんに聞いてみる。


「あのー、伊与木さん」


「なんですか?」


「そのー……別に深い意味とかはないんですけど、もし、もし俺が伊与木さん以外の女の子と一緒にいたらどう思いますか?」


 そう聞いた刹那。


 カンっ、という軽快な音とともに箸が床に落ちた。

 伊与木さんを見てみると、顔は硬直し、時が止まったようにじっと俺を見ていた。


「入明くんが、女の子、と……」


 伊与木さんがヤンデレの場合、この俺の発言に過剰に反応すると堅人は言っていた。

 さぁ、どうなる。


「そ、それはもしって話ですよね? そうですよね?」


「そ、そうです」


「なるほど、そ、そうですよね! もしってことですよね! はぁ~よかった」


 表情がいつもの伊与木さんに戻る。

 なんだ、堅人の言ってたことは違うじゃないか。


 これはただ俺が恥ずかしいことを言っただけだな。


「いやぁすみません。急に変なこと言って」


「いいですよ別に! 少し驚きはしましたけどね」


「ですよね」


 普段こんなこと言わない奴から急に言われたら驚くに決まってる。

 ほんと、どうかしてたな、俺は。


「あっ、ちなみにさっきの質問の答えですけど」


「え?」



「死ぬほど嫌ですが?」



「……え?」


「私以外の女の子と一緒にいるとか、普通に嫌です。死ぬほど嫌です。もしそんな場面を見てしまったら、正直私はどうなってしまうか自分でも分かりません。ただ、とんでもないことをしてしまうのは間違いないですね」


「い、伊与木さん……?」


「とにかく嫌です。今のはもちろん、仮定での話ですよね? そうですよね?」


 伊与木さんの黒い瞳が俺をじっと見つめる。

 そうだ、この目だ。


 俺が伊与木さんに本能で危険を感じたのはこの目だ。

 その目の奥に異常なまでの執着を俺は感じたのだ。


 俺の姿が歪んでしまうかと思うほどに強い視線。

 俺は数秒、喉からその先に言葉が出せなかった。


 ようやく「あ」という一音が出てきて、何とか話せるようになった。


「そ、そうです」


「ふふっ、ならよかったです。でもこれからは仮定の話でもやめてくださいね? それだけでも私、どうにかなってしまいそうなので。いいですか?」


「は、はい」


「ふふっ、良い子ですね、入明くんは」


 上機嫌になる伊与木さん。

 いつも通りになったかと思われたが俺の心はざわめいていた。


 それは一つの確信を得たから。

 あの目が、魅惑的で異常な、吸い込まれそうな目が決め手だった。



 伊与木さんは、ヤンデレだ。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


次回の更新は、9月22日です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次の更新も楽しみにしていますね♪(o´∀`)♪ これからも執筆を頑張ってくださいね(o´・∀・)o
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