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18話 嫌悪と襲撃


 俺と伊与木さんが手を繋いで歩いているところを見られてから一週間が経過した。


 依然として俺に向けられる視線の数は多く、噂は沈静化していない。

 別に見られているだけだし、堅人以外に話しかけられるわけではないので気にしてはいなかった。


「入明くん、珍しく休日にバイト入れてましたね」


「そうなんですよ。実は最近出費が重なってて……」


「漫画ですか?」


「はい。あとは本とかも買い始めて、もう沼ですよ沼」


「ふふっ、大変ですね」


 伊与木さんも今の状況を気にしている様子はなかった。

 それに元から周りを気にする人ではない。


 このスタンスを俺と伊与木さんが貫いていけば、いずれ飽きられて元通りになるだろう。

 そう思っていたのだが――



「チッ」



 どこからか聞こえる舌打ち。

 そして複数人から向けられる嫌悪の視線。


 昔からそういう、暴力に繋がる視線には敏感なのだ。


 やっぱり、ここ最近誰かに目をつけられている。

 それも明らかにガラの悪い、嫌な視線だ。


「入明くん、どうしました?」


「いえ、なんでもないです」


 伊与木さんは気づいていないようだ。

 という事は、やはり俺に向けられたものか。


 予想は出来ていた。

 俺のような陰キャが学園のアイドルと仲良くすることで、一部のガラの悪い連中から反感を買うんじゃないかと。

 

 ただこれまでそれがなかったから安心しきっていた。


 全く、面倒なことになった。


 だが俺から何かをすることはない。

 もし伊与木さんに危害が及ぶようなことが起こらない限り、は。




    ♦ ♦ ♦




 昼休み。

  

 ここ最近は堅人と仲良くなり、一緒に昼食を食べることが多くなった。

 俺の机を中心に、椅子を持ち寄ってなんてことない雑談をしながらパンをかじる。


「それでさ、なんか最近嫌な噂を聞いてな」


「嫌な噂?」


「あぁ。なんでも三年のサッカー部のエースいるだろ? その人が紗江様にぞっこんらしくてな」


 そういえば前に伊与木さんに告白した有名人がいたとか聞いたことがある。

 フラれてしまったらしいが。


「でも最近はお前と紗江様の噂が流れてるだろ? それでお前のこととか、紗江様のことをボロクソに言ってるらしいんだ」


「へぇ」


 あの嫌な視線はもしかしたらそこから生まれてるのかもしれないな。

 にしても、三年の先輩か。


「お前気をつけろよ。あの先輩、ウチの高校のガラの悪い連中と関わりあるらしいし」


「うん、気をつけるよ」


「なんかあったら、絶対に言えよ? 腕力には自信ねぇから、自慢の声量で先生呼んだる」


「あははっ、頼むわ」


 ほんとに堅人はいい奴だ。


 だがまぁ、そろそろ気をつけた方がいいかもしれないな。

 これから背後は注意しておくことにしよう。




    ♦ ♦ ♦




 放課後のチャイムが鳴り響く。

 

 それと同時に俺の携帯がぶぶっ、と振動した。

 何かと思って開いてみると、伊与木さんからメッセージが来ていた。


『紗江:すみません、今日委員会の仕事があるので一緒に帰れません!』


 伊与木さんは相変わらず律儀だな。

 別に帰る約束をしているわけではないが、最近は一緒に帰るのが当たり前になっている。


 伊与木さんの気遣いがじーんを心に染みた。


『友成:分かりました。先に帰りますね』


 そう送ると、しょんぼりしたウサギのスタンプが返ってきた。

 全く、いちいち可愛いな、伊与木さんは。


「よし、帰るか」


 久々に一人で帰る。

 適当にコンビニでも寄ってお菓子でも買うか。


 どう放課後を過ごそうか考えながら学校を出る。

 しかし、校門前で複数人のガラの悪い連中と目が合った。


 といより、完全に俺のことを見ていた。


「おい、あれが入明じゃないか?」


「紗江様はいないな。ちょうどいい」


 うっすぺらい笑みを浮かべて俺に近づいてくる。

 ――なるほど、遂にきたか。


「おいお前、入明だよな?」


「そうですけど」


「ちょっと面貸せよ」


 明らかに周りの生徒が怖がっている。

 ここはこいつらの指示に従って、人気のないところに行くのが正解か。


「分かりました」


 連中について行く。

 ずんずんと人気のない場所に進んでいき、校舎裏に到着した。


 まさかこんな漫画みたいな展開があるとは。

 よくもまぁ今どきこんなことをやるなぁと思っていると、リーダーと思わしき赤髪のイケメンが俺の正面に立った。


 こいつがあのサッカー部のエースか。


「よく来たな。度胸だけはあんじゃねぇか」


「どうも」


「でもその態度、気に食わねぇな」


 何を怯えろというのだろうか。

 これっぽっちの威嚇で。


「まぁいい。単刀直入に言う。これ以上紗江様と関わるな。紗江様は俺の女だ」


 まさかそんなことを平気でいう奴がいるなんて思わなかった。

 こいつは伊与木さんにフラれているのに。


「それはお断りします。伊与木さんは俺の友達ですから」


「あぁ? お前舐めてんのか?」


 威圧するように額を合わせてくる。

 サッカー部のエースだからか、ガタイもしっかりしている。


 しかし――隙だらけだ。


「お前みたいな陰キャがな、紗江様と仲良くしようなんぞありえねぇんだよ。身の程知らねぇのか!」


「それは否定しません」


「釣り合ってねぇんだよ! まるで釣り合ってない! 紗江様の横に立つ男がお前なんて、ふさわしくねぇんだ!」


 まるで自分がふさわしいとでも言いたげだ。

 まぁ、こいつの言ってることはあながち間違いじゃない。認めたくはないけど。


「いい加減気づけよクソ陰キャが。もう一度言う、紗江様から離れろ」


「お断りします」


 聞いてやるもんか。

 伊与木さんは俺の初めての友達なんだから。


「……はぁ、しょうがねぇな。素直に受け入れたら痛い目に遭わせないと思っていたが、そんな反抗的ならしょうがない。お前ら、やるぞ」


 後ろに控えていた連中がぞろぞろと出てきて俺を囲む。

 この人数は別に怖くない。

 俺一人で対処可能だ。


 しっかりと目を凝らし、どこから攻撃が来てもいいように構える。


 一人の男が拳を俺に振り下ろそうとしたその時。



「先生こっちです! 早く早く!」



 聞き覚えのある声が響く。

 声の方を見てみれば、そこには堅人の姿があった。


「堅人!」


「チッ、先生が来たらめんどくせぇ。行くぞ」


 連中がその場から撤退する。


「お前、俺の忠告忘れんじゃねぇぞ」


 最後に一言言い残して去っていく。


「大丈夫か、入明」


「大丈夫だ。助かったよ堅人」


「言ったろ? 先生呼ぶって」


「あははっ、ありがとうな」


 笑いながら連中の後ろ姿をじっと見て、ふぅと息を吐いた。


 その場はなんとか堅人のおかげで何も起こらずに終わった。




    ♦ ♦ ♦




 それから、俺が連中に襲われたことは一瞬にして広まった。

 

 この頃から嫌な予感は感じていた。 

 でも、予想だにしていなかった。


 まさかあんなことが起こるなんて。




 

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


次回の更新は、12日の19時ごろです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、主人公が襲われた事ヤンデレヒロインが知っちゃったか。あんなことの被害者は主人公しゃなさそうなんだよなあ。
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