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16話 楽しさと怒り


「お、おぉ……!」


 手のひらで輝く新型スマートフォン。

 わずか一時間ほど手に入ったそれは、日々多くの時間をつぎ込む気持ちも分かるほどに安心感と便利さが感じられた。


「ふふっ、良かったですね」


「はい! ほんとに良かったです。うおぉ……やっぱすげぇな」


 スマホなんてなんでもいいだろと思っていた過去の自分を殴ってやりたい。

 俺の知る物とは桁違いの性能に、思わず頭を下げてしまいそうになる。


 間違いなく俺という人間よりも多くの人を幸せにするんだろう。

 大事にしよう。神様のように。


「そういえば、私と入明くん連絡先交換してなかったですよね?」


「そういえばそうでしたね。交換しましょう!」


「はい!」


 パーっと顔を明るくさせる伊与木さん。

 鞄からスマホを取り出し、メッセージアプリのQRコードを画面に表示させる。


 それを読み取るとスマホがぶるっと震え、友だち欄に「紗江」が追加された。

 俺の方から適当にメッセージを送り、お互いに追加が完了する。


「これでオッケーですね」


「ですね」


 連絡先の交換は済んだが、伊与木さんはじーっと画面を眺め何か操作していた。

 何事かと思っていると、俺のスマホに通知が来た。


『紗江:スタンプ送信』


 見てみると、ウサギがぺこりと頭を下げているスタンプが送られていた。

 なんとも伊与木さんらしい。


「これでいつでも連絡取れちゃいますね」


「そうですね」


 やけに上機嫌の伊与木さん。

 なんだかこっちも嬉しくなる表情だ。


「これからどうしましょうか。まだ昼前ですけど」


「どうせなら、少し見ていきませんか? せっかくショッピングモールに来たんですし」


「いいですね。そうしましょう」


「じゃあ今から、デート開始ですっ」


「はい!」


 弾むように前を歩く伊与木さんについて行く。

 なんだか楽しくなってきたな。


「って、え? で、デート?!」


「ふふっ」






 その後。

 

 昼まで軽く雑貨屋やインテリアショップを見て回り。

 お昼時になってお腹が空いたため、おしゃれな外観のパスタ専門店に入った。


 そこで腹ごしらえをし、午後の部へ。

 なかなかにハイテションな伊与木さんに連れられるがまま、色々な店を見て回った。


「どうですか?」


 試着室でひらりと一回転して見せる伊与木さん。

 夏に似合う真っ白なワンピース。

 自然と背景に海やひまわりが見える気がする。


「いいと思います。女の子らしくて」


「入明くんは、どんな女の子の服装が好きですか?」


「うーん……あんまりよく知らないですけど、露出が多い服はあまり好きじゃないです。心配になるので」


「ふふっ、入明くんお父さんみたい」


「お、お父さん?!」


 女子からお父さんって言われるのは明らかにマイナスポイントですよね? がくり。


「分かりました。露出しないよう気をつけます」


「た、助かります……」


 そんな調子で、次々と店を巡っていった。


「すみません、お手洗い行ってきてもいいですか?」


「分かりました。私はそこのベンチに座ってますね」


「了解です」


 伊与木さんがベンチに座ったのを確認して、男子トイレに入る。

 

 なんだこれ。

 最高に楽しいな。

 友達とでかけるって、こんなにも心躍るものだったのか。


 伊与木さんに影響されたのか、俺のテンションも上がってきた。

 ルンルンで用を足し、手を洗ってトイレを出る。


「お待たせしました、伊与木……さん?」


 声をかけようとして、はたと気づく。


「ねぇそこの君。俺たちと遊ばない?」


「なんか奢るよ?」


「えっ、いや……」


 伊与木さんが男三人からナンパされている。

 

 そりゃそうだ。

 伊与木さんほどの美人が一人でいてナンパされないわけがない。


 完全に俺のミスだ。

 急いで間に入る。


「お待たせしました、伊与木さん」


「あっ、入明くん!」


「あ? なんだこいつ」


 ギロっとにらまれる。

 立ち姿、体つきからしてただのチャラい大学生って感じだろう。


「すみません、この女性は僕の連れなので」


「は? お前がこの子の? 冗談はよせって」


 ガハハハ、と男三人に笑われる。

 別にこれではいはいと傷ついてやる俺じゃない。


 さっさとこの場から去ろうと思ったが、伊与木さんは立ち上がり、男を睨みつけた。


「入明くんは、私の大事な人です。馬鹿にするのは許しません」


「え?」


 伊与木さんの口からそんな言葉が出てくるなんて。

 

 美人が怒るのはなんとも圧があって。

 伊与木さんに睨まれ、男たちは怯んだ。


「早く行きましょう、入明くん」


「は、はい」


 伊与木さんに手を引かれ、その場から去る。

 早歩きの伊与木さんは未だに顔をしかめていた。


「ほんっと許せない人たちです! 私の入明くんをあんな風に言うなんて!」


「あははは、別に気にしてませんよ俺は」


「私は気にするんです!」


 誰かが俺のために怒ってくれる。

 そんなことがこんなにも嬉しいなんて知らなかった。


「ありがとうございます、伊与木さん」


「だから、入明くんがお礼を言う事ではないですって。あの人たちが悪いんですから!」


 ぷくーっと頬を膨らませ、不満を露わにする伊与木さんを見て思わずにはいられない。


 ――怒ってる姿も、可愛いな。


 その後、店を出るまで俺と伊与木さんの手は繋がれたままだった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


次回の更新は、7日の19時頃です。

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