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転生図書館その2

待合室から転生受付へ

 かなり寄り道をしてしまったが、俺は呼び出された6番の部屋にたどり着いた。

見た目は他の部屋と同じ扉があり、その上部に丸窓があるのも一緒だ。


 「中は…図書館?」


 目に入る範囲には天井まで届く本棚に、びっしりと分厚い書籍が並べられた、どこぞの図書館の様にも見えた。


 「セラエノじゃないと良いけどな…」


 転生ものから、いきなり邪神神話体系に放り込まれるのは勘弁して欲しい。


 「とは言っても、こちらにも邪神(自称)はいたし、前世や転生もラヴなクラフトさんでは定番だったな…」


 失われた記憶を取り戻したら、前世は邪神の使徒でした、とか洒落になってないから。



 益体も無い事を妄想しつつ、扉を開けるのにノックをするか、一声掛けるか迷っていると、目の前で静かに扉がスライドしていった。


 「自動ドアだよな…」


 見えない何かが開けてくれたとしたら、それはそれで怖いものがあるが、霊感も邪神センサーも無い以上、見えないものは見えない。


「ままよ」


 意を決して部屋へと足を踏み入れた。



 部屋の中はやはり大型の図書館といった風情で、右手にカウンターがあり、左手には個人用の閲覧室が並んでいる。

 カウンターには、黒髪ショートのメガネをかけた女性がスツールに腰掛けて本を読んでいた。俺が部屋に入ると、名残惜しそうに本を閉じて、顔を上げた。


 「こちらへ」


 事務的な抑揚の無い声は、端的に必要なことしか話さないタイプとみた。


 「これを」


 カウンターに近寄ると、分厚い革装丁の1冊の本を渡された。

 本の表紙には謎言語が書かれていたが、不思議と意味が読み取れた。


 「これが異世界転生定番の言語理解特典!」


 「違います」


 秒で否定された。

 どうやら本の能力らしい…


 改めて本を眺める。表題には…


「転生の書?」

「そう」

「でもこれ、どうみても冒険の書…」

「それ以上はダメ」


 某RPGのデータセーブに使われる本に、とても良く似た、違う本らしい。


「いや、版権問題あるなら似せなきゃ良いのでは?」

「集合意識の概念が具現化したもの」

「なるほど、悪魔召喚の術具なら腕に装着するタイプになるわけだ」

「ソロモン王は嘆いている」


 昔は指輪だったのだろう召喚具も、現代ではアナライザーというメカに取って代わられるのか。

この転生の書も、やがてはスマホアプリに置き換わっていくのかも知れないな。


 会話中も、ちらちらと視線が読みかけの本に向いている司書?さんの邪魔にならないように、転生の書を抱えると、個人閲覧室へと向かう。


 と思わせて、振り返って一言。


「一つだけ聞いて良いですか?」


「三つまで許可する」



 おっと、予想外な返しがきたよ。質問は受け付けないとか、一つだけならと言われると思ったのにな。

これは無駄な質問はできないな。読みかけの本の題名を尋ねようかと思ったんだが、それも1つに数えられそうだ。しかも3つ以上は断固として答えないという強い意思を感じるぞ。


「では、一つ目。時間制限はありますか?」


 確実にこの本を読み込んで転生先や転生後の環境を整える事になるはずだ。時間はあればあるほど良い。


「無制限ではない。でも十分ある」


 司書さんの答えは、曖昧だけれど安心できる答えだった。ここで暮らしますとか言い出さない限り、熟慮する時間はもらえそうだ。


「では二つ目、先人の書は閲覧できますか?」


 この膨大な蔵書の中には、きっと俺より先に転生した人物の書が残っているはずだ。それを参考にできればありがたい。


「他人の転生の書は読めない」


 なるほど、個人情報の保護はしっかりしていると。


「では3つ目、私と一緒に巻き込まれた女子学生はどうなっていますか?」


 これが、俺が最も気になっていた事項だ。



  あの時、狭い路地を暴走してくる大型トラックに気が付いたとき、既に逃げ場は無かった。

元々、一方通行な上に脇には何台もの自転車が違法駐輪していて、それらを吹き飛ばしながら爆走する巨大な鉄の塊を避けるスペースはどこにも見あたらなかった。

 路面に伏せたらとも考えたが、トラックの正面には吸い込み防止の鉄板が張られていた。

 絶望しながら見回した先に、俺と同じように不運に見舞われた女子生徒が立ちすくんでいて、一瞬だけ視線が交わった。

 そこにあった感情は、恐怖ではなく諦めに似た何かだった気がしたのだ…



「それは禁則事項」


「ですよね」


 あれだけ個人情報に気を使っている転生委員会(仮)が、おいそれと他人のその後を教えてくれるわけもなかった。


 「でも貴方と同じ」


 おや?それは重要な情報では?

驚いて見つめ直した司書さんの表情からは、何も読み取れなかった…



 その後は、大人しく閲覧室に入ると、年季の入った書斎机の上に転生の書を置き、座り心地の良い木製の椅子に腰を下ろした。


「ふうっ、色々あったけど、これからが本番なんだよな…」


 俺は深呼吸をしてから、そっと革の装丁に手を触れた。



 すると本が薄っすらと光り、表紙に新たな文字が浮かび上がった。


  『森本幹夫 著』


「これで登録完了かな?」


 それ以上変化が無いのを確認してから、最初のページをめくる。

 そこには、流麗な文字で数行のメッセージが書かれていた。


 もちろん謎言語で、でもなぜか読めて。


『ようこそ転生図書館へ ここは転生の書を使って新たな人生計画を立てる神秘の領域です』


 うん、知ってる。


『貴方の生前のカルマポイントは200ポイントです』


 多いのか少ないのか判断に困るな。


『カルマポイントは、種族、職業、社会的地位、装備、スキル、能力値に振り分けられます』


 あ、これ全然足りない感じだな。割り振る項目が多すぎる。


『選んだ項目は取り消す事もできます。ただし知識などの項目は不可能なので注意してください』


 まあ、必要な知識だけ得てから解除するのはバグ技に近いよな。

 でも待てよ、ということは先に知識系を選べば、それを参考にしてスキルを構築しても良いってことか…

 だとすると最初に選ぶのは…


『さらに幾つかの項目にはペナルティによるポイント軽減があります。より重いペナルティに変更する事も、軽くする事も可能です』


 なるほど、そうやって足りないポイントを遣り繰りしろというわけだ。

 これは攻略本が欲しくなるな。もしくはテンプレートの表示とか無いのだろうか。


 『それでは良い転生を』



  「ありがとう」



 誰だかわからない導入部の著者に、礼儀として答えた後に、本格的に転生の書を読み込み始めた。




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