表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/44

38 多視点

アネッタは抱きしめる男の腕から突然飛び起き、無意識に窓の外を見た。


―――・・・・感じる・・・・これって、この感覚って・・・・

「私の「番」?」

ざわざわと浮き立つような、身体の中心から歓喜と渇望が湧いて仕方がないような、そんな不思議な感覚。

竜人なら、誰もが知っている「番」の存在。

今では呪いの様に忌み嫌われているが、一部の竜人達には未だ運命の人という憧れを持つ者もいるのだ。

何を隠そう、アネッタもその一人だった。


アネッタは平民で、繁華街に建つ宿屋の娘だ。

茶色い髪に緑色の目をしている生粋の竜人だが、彼女は竜に変化する事は出来なかった。

変化できない竜人は少し下に見られる時もあるが、それを補うだけの美しさと愛嬌が彼女にはあった。

彼女は自分の美しさにかなりの自信を持っており、こんな宿屋の娘で終わるわけがない。もっと高位の身分の誰かに見初められるはずだという、根拠のない自信も持っていた。

だから、付き合う男性とは「竜芯」を交換せず、竜人にしては珍しい部類の尻の軽い女と見られていた。

「尻軽女」と言われるのは不本意だったが、それでも男は切れる事がなかった。

出会う男全てが「番」ではなく、その時だけの付き合い。本気になる男もいたが、面倒な事になる前にいつも別れていた。

そして今付き合っている男は、子爵の位を持つ貴族の息子。

正直、「番」の事を諦め始めていた時に知り合った、初めての貴族位の男。

性格も身体の相性もいい。このまま「竜芯」を交換してもいいかもしれないな・・・と考え始めた時の、この感覚。


感覚を研ぎ澄ませ、どこから感じて来るのかを探れば、それは竜帝が住まう城からではないか。


「あぁ・・・私の「番」は竜帝だったのね・・・・」

歓喜で気が狂いそうになった。美しくも強く、全ての竜人族を統べる最高の男が自分の伴侶。


早く、早く会いに行かなきゃ!彼も私の事を探しているはずよ!


腰に回された男の腕を外し、急いで着替え始めた。

突然離れていく温もりに目を覚ました男は、未だ昨晩の情事の名残をその瞳に残し、アネッタを見つめた。

「アネッタ、急にどうしたんだい?」

「私に「番」が現れたのよ!すぐに行かなきゃ!あなたとも今日でお別れだから。今まで楽しかったわ。ありがとう」

一方的に告げられる言葉に男は呆然とアネッタを見つめた。

「ちょっと待ってくれ!別れるってどういうことだよ!」

「だから「番」が現れたって言ってるでしょ!しかもお相手は竜帝よ!!お城から気配がするんだもの!すぐに会いに行かなきゃ!」

「竜帝って・・・何かの間違いだろ!?」

「うるさいわね!私もう、行かないと!きっと彼も待っているわ」

アネッタは縋る男にぞんざいな言葉で別れを告げ、さっさと部屋を出て行った。

その後ろ姿を、未だ裸のままの男は呆然と見つめる事しかできないのだった。


アネッタが城に着き、門番に事の次第を告げ竜帝への面会を申し出た。

しばらく待つように言われ、門の前でポツンと残された事に心の中で悪態をつくも、うろうろしながら門番の帰りを待つ。


あの門番、躾がなってないわね!未来の竜妃をこんなとこで待たせるなんて・・・

後で竜帝にお願いして、クビにしてもらわないと。

しかも、この私を立ちっぱなしにさせるなんて、椅子くらい用意しなさいよね!・・・気の利かない残りの門番もクビ決定ね。

あぁ・・・早く私に会いに来てよ!この、とどまる事を知らない歓喜と高揚。

愛しくて愛しくて・・・・早く抱きしめあいたいわ・・・


一人身悶え、必ず自分に彼は会いに来ると自信すら持って待っていたのに、門番が告げた答えは「否」だった。

「ちょっとどういう事!?ちゃんと竜帝に伝えたの?!!「番」が会いに来たって!!」

「お伝えしましたよ。間違いなく。ですが竜帝からは何も感じないので追い返せとの事」

「何も・・・感じない?嘘よ・・・・こんなに求めてやまない気持ちを・・・何も、感じない?」

わなわなと震えながら座り込むアネッタを、取り敢えず門から離れたところへと寄せる門番達。

そして「これまでも自称「番」が結構押しかけてきていたんだ。こういう事は止めた方がいいぞ」と声を掛けた。


私は偽物じゃない!本物よ!!


そう叫びたいのに、相手が何も感じていないという言葉に、少なからず打ちのめされて言い返す事も出来なかった。

どうやって家に帰ってきたのか。両親が何やらうるさく騒いでいるが、まっすぐ自分の部屋へと向かい、ベッドへと倒れ込んだ。


嘘・・・竜帝じゃないの?でも、この気配を辿ればお城のとある一点にたどり着くわ。

それはこの帝国民すべてが知っている、気配の許へと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ