13話
それから、俺は想定しうる最大限の準備を行った
武器や、食糧、医療系など
普段騎士団で一斉発注をかけていた備品なども
手持ちに制限がある冒険者だとやはり勝手が違うもので
ゼノの知り合いなどに質問し
やっとの思いで準備を済ませた
しかし、物価や技術が変化したことで
市場の風景も昔と随分様変わりし、随分と手こずったなぁ。
(煙玉を店内で誤爆させた時には
どうなる事かと冷や汗をかいたぜ☆)
そして、なんだかんだでオルクス島行き船出港の日
ーーー◇ーーー
「まったく、忙しねぇ奴だな
騎士団総団長の職をつい一月前に辞めたと思えや
今度は年頃のねぇちゃん侍らせて”ゔぁかんす”とはねぇ」
以前、ワラシの件で誤解を産んだ
ロブが俺の見送りに来ていた
「何が悲しくて傘寿超えてから
全身フル装備でバカンスしに行かなきゃいけないんだ」
腰と膝ガックガクなんだよ既に!!
重いなぁ、精神的にも肉体的にも老人が背負うべき重量じゃない
ゼノはこれの倍持ってるっていうが、半分の間違いじゃないか?
「ははは(棒)
まあ、あれだ、何事も楽しんで、土産でも持って
ウチに寄ってけよ。」
コイツ、他人事だと思って
まぁ、家族の反対押し切って
馬車で首都から三日もかかる港に乗り込んでくるあたり
いい奴であることには間違いないのだが
いや単に性格が悪いだけか?
「一応、うちの受付につながる
通信魔法のコードだけは教えておいた
何か有事があれば、すぐに連絡してくれ」
さてさてこちらは、数ある事務作業を総務部に丸投げしてまで
馳せ参じて頂いた、何を隠そうギルドマスター:ラグナだ
(馬車出発の前日、マスター室で怒号と
悲鳴が同時にこだましたのを俺はしっかり耳に入れている)
「了解した
青龍の動き次第じゃ逃げ帰ってくるが
それでも構わねぇか?」
「ああ、報告書的にも抗戦の必要はないから
バンバン逃げてこい!
そのために船も、今回の件に合わせて特注した」
おー、流石は国内最大手!
俺はてっきり、その横の漁船に鮨詰めにされるのかとばかり
「いいだろぉ、
このこじんまりした見た目に、いかにもボロそうな
外見!、こう見えても荒波には強くってだな!」
はぁ...
「ちなみに、船内にいくつバケツがある?」
「人数分!」
低予算ギルドが!!!!
「おぉー、なんかテンション上がるな!
いかにも冒険って感じで!」
呑気なもんだ。これから待っているのは
果てなき大海原どころか、
果てなき水の汲み出し作業だという事も知らずに
「またボロ屋!?」
その後、
シェリアはもはやそれ以上何も言わなかった
きっと彼女の中で何かが外れたのだろう
「しかし、今回予定している港に
止めるには、恐らくこの位が最も目立たないと思います」
経費の責任者として出港の見送りに来て頂いた
経理部の女性はラグナの横で淡々と話した
しかし、実際問題
今回の調査には不可解な点や不明な点が多すぎる
青龍の暴走、音信不通のトップランク冒険者たち
まるで、示し合わせるように出てきたグラスからの手紙
懸念材料は探せばキリがないが
そうした要素が、結局のところ大手ギルドが
表立って調査できない理由の一つだろう
「事情については察してやるから
アイツらにアレ、向けんじゃねぇぞ?」
俺は最後にラグナに耳打ちするように言う
「む、向けるわけねぇだろ!
お前には、事が済んだらとは思ったが
しかし、察してくれるなら話は早い
こんなことを頼めるのはお前くらいなんだ」
そう、今回の調査は恐らく非公式
俺たちがもし死んでもその事実は闇に葬られる
というわけで、後にも先にも問題だらけの
旅ではあるが俺たちは荷物を詰め込み
申し分程度の見送りを受け、出港した
ー◇ー◆ー◇ー◆ー
「追え、追えぇ!!!」
ここはガウル王国騎士団、宿舎
そこには、衛兵に追われる元騎士団元帥の姿があった
はぁ、はぁ、、、
(全く、魔力ポーション切れを防ぐ為に
ラグナを訪ねてから来たってのに、もう半分もないか
まぁ、無理をすれば当然か
先輩には手紙を出したが
さて、俺の情報が間に合うかどうか。とりあえず
三日は粘りたいな。)
喉元には痣が斑点のようにでき
その上を汗が滴っている
「古き時代の英霊様が、、一体何の用です?」
(しまった!背後への警戒が)
グラスロード、もとい大賢者の二つ名を冠した
その男が背後を取られるなど、実に数十年ぶりのことである
「年寄りがあまり無理するものじゃない
手に余る案件は捨てろとは、貴方の教えですよ?」
静かにナイフの腹を突き立てる
(ログリアス...!なんでこんな時間に
コイツが宿舎に!?)
「ああ、確かに俺は騎士団を辞めた
だが、ここには俺の仕事が残ってる。」
「仕事...?」
「ああ、やり残したことだ
アレをやりきらねぇと、成仏しきれねぇのさ」
バッ!
尻を床に密着させていたとは思えぬ
俊敏な動きで、周囲に張り巡らせた蛇の有象無象を
かわし、資料室へと向かっていた
「行かせない」
ダダダダダ!
全長10メーターはあるであろう
大蛇6体をを狭い廊下でも容易く操り、その上を彼もまた足場として
高速移動を可能とする
「お前とは団でも相性が悪いと思っちゃいたが
まさかここまでとはな」
「昔話なら檻の中でしましょう
それとも、土の中がよろしかったですか?」