12話
「青龍の様子はどうなっている?」
「はい、こちらの予想通り
街や村を襲撃する回数が日に日に増えて来ています」
部下が全ての報告を終えると
ドレイクは鼻を鳴らすように上機嫌な笑みを浮かべた
「予定しておりました
魔力量にはもうすぐ到達いたします。
もうすぐ核の回収に向かってもよろしい頃合いかと」
「よし、機は熟した!
忌々しいジジイもようやく消えた事だ
今駐在している全ての師団を集めろ!!」
けたたましい号令が部屋中をこだまする
「『待っていろ。”レナ”!
必ずお前を俺のものにして見せる
例え、いかなる犠牲を払っても』
これより、”第四次オルクス島調査出兵を決行する!!!」
◇◆◆
「私がこの力を使えるのは
この街一帯限定なの、ここを出ちゃうと、ただのか弱い女の子♡」
いちいち言い方が腹立つな
なるほど、どんなに強くても
それが大規模で使えないとなると、、、
って、おい待てよ?
「一応確認だが、ここいらの住人は
コイツの存在を知っているのか?」
俺の質問にラグナは一瞬動揺する
「流石に、察しがいいな
そう、この街。それもロザン王国の首都にのみ
固有魔法の使える最高ランク魔術師がいる
しかもあの古の魔眼、流紋眼付きでな
ここは商業の中心地であり、機密情報の宝物庫だ
そんな情報が広まっても見ろ
大手銀行や貿易商など、情報が生命線を張る職業は撤退し
この街は即座に都市としての価値を失う
現状、彼女は王国にマークされ、外出すらままならないんだ」
「そ、それって、、、」
「この街にさえいれば私は無敵って、コ、ト」
笑みを浮かべる彼女の顔には
一点の曇りも見られない
魔力の流れも安定しているし、なるほど
本人の納得さえあれば、大層便利な能力だ
「それより、さっきの一撃!
どうやったんだ?教えてくれよ!」
ゼノは興奮気味に体を乗り出し
食い入るように話す
ポカン!
「こら!
アンタはどうしてそんな無神経な訳?」
「うるさいなぁ
いいだろ?俺だって、霧になってみたいしよ
”かっこいい”じゃねぇか!!」
「今そういう話をしてる訳じゃないでしょ?
ちょっとは空気読みなさいよ、バカ!」
あぁ、あぁ あぁ、何やってんだコイツら...
「ふ、、、ふふふふ、、、」
様相に呆れていると、ラグナとマリアは
笑いを堪え始めた
しかし、まぁ、この場においては
これで正解なのかも知れない。
「じゃあ、改めて
青龍の調査、頼んだ!
ああ、そうそう。”ロイド”が、つい一昨日来たぜ?」
な、、、!こいつ、最後の最後で
とんでもない爆弾ぶん投げやがった!!
「そ、そりゃまた、一体どうして?」
「それが、かなりグレーな感じだったんで
全てを話す訳にはいかねぇんだが
どうやら、騎士団を嗅ぎ回ってるらしい」
なるほど、
「ふ、あんな野郎さっさと追い返しとけ」
吐き捨てる
「それともう一つ、これを渡すように言われてる」
ラグナが取り出したのは一通の手紙だった
【辰の浮き巣に蓬莱玉、虎の空音が響く時
災禍の火蓋が切って落とされるだろう】
なんだ?、辰、、虎、、災禍、
ここ数日で頻出した言葉ばかりだ
情報をわざと削っているのか?
いつものミテクレポエムって訳じゃねぇな
「手紙にしちゃ、随分文面が雑だな」
懐に手紙を入れると
俺はダラダラとした足取りでギルドを後にした
◇
「マスター直々!?、アンタら、、一体何者?
っていうか、またどっかいっちゃう訳?」
ワラシは俺が先ほど購入したソファにまんまと
我が物顔で踏ん反り返る
「しょうがないでしょ?
仕事なんだから・・って言うか、アンタは
ここ以外いく場所ないの?」
シェリアがそう聞くと、
彼女はバツが悪そうに俯いた
「僕は、ここを離れることは
できないんだ、、、子供の頃はそれでも出ようとして
扉まで何度も行ったんだけど
外へ出ると、目の前が真っ白になって
気づいたら、この部屋に戻ってる」
なるほど、地縛霊であるが故に
その地に根強く張った魔力の流れに自らも縛られる
「なぁ、それなら俺、なんとかできるかも知れないぞ?」
は?
俺は唐突なゼノの発言に思わずそう声を漏らしていた
「いや、だから、
呪縛を解く方法があって
それを、、、なんかこう、気合いで身に着けさせられたんだよ」
「いやしかし、地縛霊の解呪なんざ
やってのけたら、それこそラグベリー賞モンだぞ?」
「いや、できると思うぜ?」
俺の忠告などお構いなしに、ゼノは
ワラシに向かって手をかざし、術の詠唱を始める
それは、俺が今までどの魔導書でも
聞いた事の無いものだった
フゥン___!
目の前にドーム状の膜が出現すると
それまで、彼女を覆っていた魔力の呪縛が
解けていく、
グラスでもこれほど綺麗にできるものだろうか
「ほら」
ゼノは一連の詠唱が終わると、ワラシに手を差し出す
ワラシは手を取り、体を起こすと
少し怯えた様子で扉の方へと向かっていく
「か、体が、消えない?
すごい!!、本当に消えない!夢じゃないかな!?」
扉の前で飛び回るワラシ
近所のご迷惑と、本人の尊厳を守る意味で制止したい
衝動を必死で抑えながら
それでも俺は彼女の幸に笑顔で答えた
「ゼノ、ありがとう!、私、初めて外の景色を
直接見たよ、こんなに、、綺麗なんだね」
これでフルメンバーか
これから忙しくなりそうだな
ー
いくつものしがらみを背負い、
メンツを気にし、
自分の意思で旅を行ったことなどほとんどありはしないが
自分の意思で、自らの面白味のために何かをすることは
気分が高まるものだ。。 イイ!