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ロジハラ幼馴染がクンカーの変態で俺の衣類をオカズにしてるってマ?  作者: ミソネタ・ドザえもん


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そんなことだろうと思ってた

 制服を着た男性に切符を切ってもらい、俺達は遊覧船の中に侵入した。右手にはレストラン。生憎、昼に食べたラーメンがまだ胃袋の中にあったから、食い気はあまりなかった。

 だから、壁に添えられた船内マップを見て甲板へ出ようと思った。


「うわあ」


 船内と甲板を繋ぐ薄暗い通路からも、外の眩さには気付いていた。先を歩き一足先に甲板に出た結衣から上がった感嘆の声に思わず、歩調が早まった。

 潮の香りが鼻孔をくすぐった。

 この辺の港は観光地化していることもあり、生臭さも混じった異臭だと感じる場面もさっきはあった。なのに、ただ船の甲板から嗅いでいるだけなのに、そんな異臭は今や一切感じなかった。


 さっき傍まで行って見た某有名実寸台ロボットも、船から見る分には特等席みたいなものだった。

 わざわざ近寄って見るより、風情があると感じるのは高所恐怖症という体質も相まって、余計にそう思い込むことが出来た。


 狭い階段を結衣に続いて登った。

 緑のシートの上に並ぶ、いくつかの椅子。そして机。


「ムードあるね!」


 いの一番に甲板に来る乗客はあまりいなかった。

 人気もなく、波に揺れる船の甲板で、結衣は唐突に駆け出してクルクルと楽しそうに舞い上がっていた。


「危ないぞ」


「あははっ」


 俺も、結衣と同じくらいさっきまで非日常の光景に舞い上がっていたのに、手前でここまで盛り上がられると気持ちも些か冷えるというものだった。

 そんな俺の忠告も聞かず、結衣は快活な態度を崩す素振りもなかった。


 ここまで彼女が我を出す姿は、テニスウェア関連以外では見たことがなかった。


 それくらい、楽しんでいる。

 新鮮なものを見ている気分と、幾ばくかの喜びを感じていた。


「危ないってば」


 とはいえ、水上から数メートルはあろう甲板からもし落下でもしたら大変危険である。

 そう思って、俺は結衣の腕を掴んで少しだけ語気を強めて結衣を宥めた。


「……むぅ」


 不服そうに、結衣は頬を膨らませた。


「何かあってからじゃ遅いだろ」


 そんな結衣に、精一杯の宥めの言葉。


 結衣は、テニスウェア以外のことには誠実な女である。長年、こいつにロジハラをされた身だから知っている。

 だから、こう言えば結衣もさすがに収まってくれると思っていた。


「……あたしに何かあったら困るの?」


 しかし、今日の結衣は少しいつもと違っていた。

 思えば今日は、いつもも散々こいつに振り回されているものの、また一味違う形でこいつに振り回されていた。中には俺を気遣うような一面もあった。だから、あまり気になってこなかったが、挑発的な結衣にうんざりしているとふと気付いた。


「……お前になんかあったら、困るに決まってるだろ」


 お隣さんだし、こいつの家族とも気心が知れた間柄。

 だったら、当然な話だろ。


 些か素直ではない考えだと我ながら思った。

 でも、困るということは事実だった。


「……いつからだろうね」


 しかし結衣は、俺の胸中を聞けた今も、どうやらまだ不服らしかった。


「何が」


「アキラが、あたしのこと……名前じゃなくてこいつ、とか、お前とか言うようになったの」


「うぐ……」


 ムードに当てられすぎだよ、こいつ。


「あたしの名前、忘れちゃった?」


 寂しそうに言う結衣に、内心焦った。


 忘れたわけがない。

 今だって内心では、結衣の名前を呼べるのだから。


 ただ、男とは見栄で生きている動物だから。

 少なくとも俺は、そんな些細な見栄を気にする男だから。


 だから……いつからだろうか。こいつの名前を素直に呼べなくなったのは。


「呼んで」


 黙る俺に、結衣が追撃する。


「覚えてるなら、呼んでよ」


 意識的に避けていたことをこうして指摘するあたり、前まで俺が知っていたこいつのロジカルハラスメントの精神は衰えたりはしていないのだろう。

 前まで、テニスに対して不貞腐れていたこの前まで……幾度となく俺はこいつのロジハラの餌食にされてきた。

 ただ、今日はやはりこれまでのそれとは一線を画していた。


 いつもなら……もっと、こいつは怒りながら言ってきたのだ。

 正しさを、俺に突きつけて正そうと言ってきたのだ。


 今のように、目尻に涙を蓄えて……懇願するように迫るこいつを、俺は知らない。


 意思とは別に、体が勝手に動き始めていた。

 寂しそうなこいつが、見ていられなかった。


 口を開けて……、船内に響くアナウンスに、我に返った。


「……椅子、座ろうぜ。他の客に取られちゃうよ」


「……うん」


 いそいそと椅子に腰を下ろすと、まもなく他の乗客も甲板に集まりだした。

 発着場がデートスポット定番の公園で休日だからか、乗客はカップルが多かった。


 空気が悪くて、俺達は椅子に座り黙って船の出発を待っていた。

 そんな中耳につくカップル達の鼻に付く言葉。


 淀む気持ちが、余計に悪化しそうだった。


 某有名実寸台ロボットを見送るように、まもなく船は出発した。

 コンテナ船や漁船の間を横切って、船は時速三十キロくらいの速さで湾へ出ていった。


 結衣と、言葉を交わすことはなかった。


 まるで映画でも見ているような気分だった。

 カップル達の雑言をBGMに、湾の情景を眺め、橋の下をくぐり、遥か彼方に広がる水平線。

 一体、どれだけの時間をこうしていたのか。


 遠くに微かにアクアラインが見えた。まもなく、船上アナウンスでもアクアラインの紹介が始まった。


 いつもなら多分、得意げになるところだった。

 アナウンスが教えるより先に、それを見つけたから。乗客がアナウンスに促され沸くより先に、一人感動に浸れたから。


 でも、今は心が沸かなかった。




 どうしてだろう。




 ……ああ、そうか。




 こいつと……。


 結衣と、その感動を共有出来なかったから、か。

 くだらないことで意固地になって、ただそれだけでこんなにも後悔をするのか。


 いつか誰かに言われた。


 逃げるな、足掻け、と。


 テニスの試合に関わらず……それは、どうやら大切なことらしい。

 最善を尽くさずに後悔をする。

 それは一体、どれだけ愚かしいことか。




「結衣」




 寂しそうに海を見ていた結衣が、慌ててこちらを振り向いた。


 ……どれだけこのムードに当てられてんだと、さっき結衣に内心で文句を言った。


 ただ大概、俺もここのムードに当てられていたらしい。


 ただ名前を呼ぶだけなのに。


 どうして、こんなに心臓が高鳴るのか。

 どうして、こんなに恥ずかしいのか。

 どうして、こんなに結衣の顔を直視出来ないのか。


 それでもどうして、意外と、悪い気がしないのか。


 不思議なものである。

 本当……言って良かった。


「もう一回」


「へ?」


 ただ、やはりこの女は俺の一歩先を行く女である。

 素っ頓狂な間抜けな声が漏れた。


「もう一回」


「……え、ヤダ」


「いいからっ!」


 怒った結衣が、俺に顔をグッと寄せた。


 眉間に皺を寄せ……。

 口をへの字にして……。

 耳を真っ赤にして……。


 如何にもご立腹という顔には、有無を言わせぬ迫力があった。


「結衣」


 抗う術はなかった。


「もっかい」


「……結衣」


「……もっかい」


「結衣」


 プイッと、結衣がそっぽを向いた。


「……うへへ」


 情けない結衣の声は、周りのカップルの雑言にもボイラーの音にも負けず、俺の耳にしかと届いた。

 

 届いて、しまった。


 忘れようと努めた。

 だって、こんなの……気持ちがおかしくなりそうだったから。


 それからは船上から見える景色の感動を結衣と共有するように、照れ隠しをするように、さっきまでの後悔を取り戻すように。

 たくさんのことを、結衣と話した。


 四十分コースの航海が終わるのは、あっという間だった。


 船旅を終えた俺達を出迎えてくれた某有名実寸台ロボットを拝みつつ、旋回し船旅までと同じ姿勢で船は停泊した。

 スクリューにより渦巻いていた海が平穏に戻る頃、さっきまでの航海が夢だったのかもしれないという幻想に駆られた。


 名残惜しかった。


「結衣」


「ん?」


「……今度、また一緒に来ような」


「ん」


 船を降りて、地下鉄へと向かった。

 最初は色々と疑ったこいつとのデートだったか、どうやらそろそろ終わるという今になって名残惜しさを感じ始めたらしい。

 それだけ、このデートは楽しかったのだろう。


 テニスから逃げなくなって。


 難敵を倒して。

 難敵に倒されて。

 汗を掻いて。

 いっぱい走って。

 足を攣って。

 泣いて。

 笑って。

 楽しんで。


 その時間が楽しくなかったわけではないけれど、ずっと肩肘張る状態だった気がする。


 リラックス出来たのだ、こいつの労りのおかげで。


 ……本当に。




「叶わないなぁ……」




 地下鉄のホームに向かう長めのエスカレーターで、思わず苦笑しながら言っていた。


「何が?」


「いつも、お前には叶わないなと思ってさ」


「それは……ごめん?」


「ああ、違う。苦言を呈したわけじゃない」


 ……ただ。

 そう、ただ。


「嬉しいなぁと思った」


 こうして……邪な行動目的であれ、他人に慮られるのは嬉しいものだった。

 この前までなら絶対にそんなことは思わなかった。


 でも、自分がどこまでも至らぬ人間だと承知してきて、少しずつ気持ちも変わりつつあったのだ。


 だって……至らぬ人間相手に正しさを迫るのって、楽なことじゃないだろ?

 恨まれるかもしれない。禍根を残すかもしれない。悪評が広まるかもしれない。

 誰彼好き好んですることじゃない。

 それにも関わらず、俺にはそれをしてくれる人がいる。


「恵まれてるよ、俺」


 だから、そう思った。


 結衣は、しばらく意味がわからないと言いたげに微妙な顔をしていた。


 ただ、整理が付いたのか微笑みだした。


「なんか、あたし褒められてる?」


「その認識で合ってる」


「じゃあさじゃあさ、あと一軒行きたい場所行っていい?」


 こいつはいつもそうだった。


 正しさを俺に突き付けて、俺を苦しませて。




 そうして俺に、正しさを教えてくれる。




 今までのように。

 さっきまでのように。



 だから、


「勿論」


 断るはずなかった。


 この後行く場所でも、こいつはきっと正しさを教えてくれるとそう思ったから。






 ……そう、思っていたのに。






「良かった良かったー!」


 立ち寄った場所は、さっきまでいたターミナル駅にあるスポーツ用品店。




「一応、使用者の好みのデザインも把握しておきたくてさー? 本当、丁度良かったー!!!」 




 店内のテニスウェア売り場。色とりどりのテニスウェアに、今俺達は囲まれていた。


「幸せぇ。……でへへ」


 だらしない笑みを浮かべる結衣に、俺は絶句していた。




 ……幸福感じてそうで、良かったね。

2年前のクリスマスくらいにシーバス乗るつもりで山下公園に行ったらマリーンルージュがいて、面白そうだから一人で乗った。あの時期はメンタルブレイクしててとにかく海に恋い焦がれ、暇さえあれば冬の海に特攻してた。小田原の御幸が浜海岸が一番良かった。冬の海は荒れてて寒くて、荒んだ心には良い清涼剤だった。水平線が風で揺れて、テトラポットに打ち付ける波も荒々しくて、自分という存在が如何にちっぽけか。それが確認出来て気分が良かった。気付けば長時間その辺に屯してることもしばしば。

そんなことの一環でマリーンルージュに乗ったが、周りはマヂでカップルばっかで一人で乗船してるのはワイだけやった。

寒い甲板に早々にスタンバって、ホテルニューグランドとガンダムに見送られながら横浜湾を一周した。大黒ふ頭で釣りする人を見下ろしたり車乗せたコンテナ船を抜いてったり、ベイブリッジ含む3つの橋の下をくぐったり貴重な体験が出来た。私は水面に陽の光が反射した写真が好き。上部に太陽を入れつつ、水面が光る写真をよく撮ります。そんな好みの写真を大量に撮りながらなんとか誤魔化してたが、感動しながら、激しい虚無感も感じてた。

何やってんだろう、と。

今度は誰かと行きたいね。そう思って書いてた。

最近気付いたことは、ワイメンヘラやんってこと。自己分析完璧で草。

本編のオチは知らん。ヒロインブレないねとしか言えない。そこにシビれる憧れはしない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結衣呼びで照れてて可愛い。 これは普通にデート。間違いない! [一言] 変態性を隠しきれなかったか。 名前呼びの嬉しかったんだが、テニスウェアの方が優先度は上なのか。 逆転してテニスウェア…
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