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ロジハラ幼馴染がクンカーの変態で俺の衣類をオカズにしてるってマ?  作者: ミソネタ・ドザえもん


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散歩

 夏に近づくそんな日にも関わらず、外気温的には散歩するには程よい温かい日だった。

 目的地と定めたランドマークタワーは、数十分で辿り着いた。食後の運動としては、丁度良い程合いだった。


 商業地として開拓されている駅前をぐるっと回って、俺達は目的地と定めたランドマークタワーに向かっていた。

 ただ、さっきまでの穏やかな昼下がりと打って変わって、ランドマークタワーに近づくにつれて俺は顔を青く染めていた。


 何故かって、俺は高いところが嫌いだったから。

 いつからだっただろうか。高所恐怖症を俺が患ったのは。小さい頃は、全然高いところが怖いだなんて思ったことなかったのに、中学を卒業する手前、首都圏のジェットコースターに乗ったあたりから走馬灯のように高所に昇るとあの日の景色が重なるようになった。

 昨今ではジェットコースターで骨折など、おぞましい出来事も散見されるようになったが、勿論俺が高所恐怖症を患ったのは怪我に起因したものではない。


 ただ、本来であれば絶叫アトラクションとして皆が楽しむそれを、俺は絶叫のみしか出来なかっただけ。恐怖に打ち勝ち、疾走感を楽しむ余裕がないだけだった。


 そんな昔話もといトラウマを思い出しながら、俺は結衣の動向を目で追っていた。

 ランドマークタワーの方に行こうとこいつは提案してきたが、果たしてそれはどうしてなのか。


 俺は知っている。

 高さ約300m弱の、この地区のシンボルタワーであるランドマークタワーには、展望エリアがあることを。


 素晴らしい天気。

 間近にある素晴らしい景観。


 そりゃあ、人によればそれを絶景だと思うことだろう。

 ただ俺にしてみれば、それはただの絶叫。


 前、家族でスカイツリーに昇った時、俺は300mの展望エリアにて足が震えて窓際の方に中々踏み出すことが出来なかった。加奈の鞄を掴み、絶叫を上げて窓際に近寄った俺の姿は、端から見ても無様だったことだろう。

 

 これからランドマークタワーに昇ることは、あるのだろうか……?


 少し考えて、あると思った。

 だってこれ、デートなんだから。


 デート中の男女が、絶景を求めて展望台へ。

 ロマンチックな一幕ではないか。


 人によったら、その絶景とか雰囲気に当てられて告白をしてしまうくらいのものではないだろうか。

 生憎、俺がするのは告白ではなく絶叫なのだが。


 結衣の動向を伺いながら、俺は背後で神頼みをしていた。

 お願いします。テニスウェア神。

 どうか。

 どうか、展望エリアに行きたいって、結衣が言い出しませんように。


「……じゃあ」


 結衣が、口を開いた。


「赤レンガの方、見に行こっか」


 ……神よ。

 いるんだな、テニスウェア神。


 一生……一生、付き従います。


「なんでそんなに嬉しそう?」


 いつの間にか、俺は歓喜が漏れる微笑みをしていたらしい。

 結衣に怪訝そうな顔で引かれた。


「いや、ランドマークタワーに昇りたくないなって」


「あんた、自発的に何かしたいって言うことはないのに、自発的に何かしたくないって言うことはあるんだね」


 有言実行とよく言うが、今俺がした行為はつまり、有言不実行。いや、それだと言ってもやらなかったことを指すから……つまり、不実行を有言したってことか。


「言うだけマシかな?」


「そうだね。でも、デート中に言うべきではないと思う」


「確かに」


 とても腑に落ちた。


「ここまで来たのに、ランドマークタワーに昇らないんだな」


 なんだか聞ける雰囲気だったから、俺は結衣に尋ねることにした。話を逸らしたかった気持ちも、それなりにあった。


「うん。だってアキラ、高いところ嫌いなんでしょ?」


「なんで知ってる?」


 と言ってから、言うまでもないことだったと気付いた。


「加奈め……」


 絶対公言しないって、お兄ちゃんとの約束だったろ?


「違う。おばちゃんよ」


「母め……」


 あの人、口軽いからなあ。言ってても何ら不思議でない。


 ん……?

 言うべきことがある?


 ……加奈、疑ってごめんなさい。お前は本当に、出来た妹だよ。お兄ちゃん感涙もの。


「色々と協力関係を結んでいる間柄だからね。それはもう、筒抜けだよ」


 思わず閉口してしまった。

 思えば、俺が知るより前にテニスウェアがこいつに供給されていた時って、加奈以外にも両親の協力もないと成り立たなさそうな関係だよな。


 ……結衣と協力していたのは、俺の親だけ?

 それだけでも成り立つは成り立つ。


 でもなんだか、嫌な予感がするのは気のせいか。


「俺の両親も、よくお前に大事な息子のテニスウェアを明け渡そうだなんて思ったよな」


 冷や汗交じりに、平静を装っていった。


「そうだねえ。最初は、あたしと加奈だけの秘密の行為だったんだけどねえ」


 感慨深そうに、結衣は続けた。


「うっかりとねぇ。あんたのテニスウェアの匂いに浸ってた日にねぇ。……ウチの夕飯をすっぽかしちゃって、そうしてあたしを呼びに来たお母さんに見つかったの」


「はぁ」


 聞くんじゃなかった。今更思った。


「ほら、あたしも最初は常識人だったから。だからさぁ、恥ずかしいなあって思ったの」


 その時の良識ある結衣は、もういない。悲しいねえ。


「その日は夕飯も食べずに家族会議。お母さんとお父さんの前に座らされて、ずーっと俯いてさ。二人の質問に怯える声でポツポツと返事を返したの。最初の質問は……確か、盗みを働いたのかってこと」


「おじさん……。おばさん……」


 良識ある結衣の両親の対応に、涙が零れそうになった。

 でも、まもなく落とし穴があることに俺は気付いた。


 そもそもそこでこいつの両親がこいつを咎めていたら、今のこいつはいない。


「全部話したらさ、二人で顔を見つめ合ってさ。しばらくしたらお母さん、笑顔でこっち見てこう言ったの」


 ゴクリ。




「ウェルカム」




 その時の真似なのか、ネイティブ気味な発音で右手親指を立てて、結衣は言った。


 ウェルカム。

 ようこそ。


「同業者?」


「そうだったみたい」


「ふぇぇ……」


 真顔で何言ってるの?


「お母さん、それから舞い上がっちゃってさ。ちゃんとあたしが自分の子だったって。もうすぐにあんたのご両親とも話を付けてくれて、それから当時の関係が出来上がったの」


「なるほどねえ」


 納得。




 聞かなきゃ良かった。




 でも不思議と、少しだけ気持ちがすっきりとしていた。


 わかって良かったと思ったのだ。




 どうやら俺には、味方はいないらしいって。




 ……ぐすっ。


「赤レンガってさ、SNSで映えを狙っている人が良くいるよな」


 まあさすがに慣れたから泣きそうってことはないけどね。

 仕切り直すように俺は尋ねた。


「そうだね」


「お前はそう言うの良いの? ここまで結構付き合ってもらったし、写真の一枚や二枚なら手伝うよ」


「大丈夫。あー言うのは何というか、ちょっと苦手。そんなに見せびらかす程、素晴らしい人なの、あんたはって思っちゃう」


「へえ」


 まあ、気持ちはわかる。


「……あっ、でも折角なら写真、撮ろうか」


「おっ」


 やる気になったらしい、結衣を見て、少しは今日の恩を返せるようで歓喜の声が漏れた。


「良いぜ。どんなアングルで撮ればいいか、後で教えてよ」


「アングルなんて良いよ」


「へ?」


 少し固まって、俺は続けた。


「じゃあ、どんなポーズで撮るの?」


「普通で良いんじゃない?」


「ほえ?」


「一緒に撮ろうよ。二人で」


 まもなく、俺の顔が赤く染まった。

 それは所謂、ツーショットってやつですか。よくカップルがやる。


「あれれぇ? アキラ君、何頬を真っ赤に染めてるの?」


 そして、すぐに結衣に気付かれた俺の内心。


「ここまで、結構歩いてきたからじゃない?」


 ニヤニヤしながら俺の顔を至近距離で覗く結衣から顔を逸らしつつ、俺は誤魔化しにもならない誤魔化しを吐いた。


「へえ、そう?」


「そうそう」


「本当にぃ?」


「えぇい、しつこいわ」


 顔を歪めて、結衣に反発した。


 結衣は、俺の態度に怯んだ様子は一切ない。

 むしろ、何やら俺にとっては嫌な企みを出そうと頭を捻っているように見えた。


 しばらくして、


「そうだ。あたし、映えに興味が湧いてきたよ」


 結衣は悪戯小僧みたいな笑顔で言い出した。


「わかった。でも言わなくていいぞ」


 どうせ碌なことではないから。


「そんなこと言わずにさ、撮ってよ」


「……何を」


「頬へのキスショット」


 はい、馬鹿ー。

 するわけねえだろ、そんなこと。


 脳内での苦言とは裏腹に顔が真っ赤に染まった俺に、悪戯成功と言わんばかりに結衣が大口を開けて笑い出すのだった。


 まもなく、赤レンガに俺達は辿り着いた。

 勿論、結衣が提案したバカップルみたいな写真を撮ることはなかった。普通に、二人で微笑み合うだけの写真を、スマホ自撮りで三枚撮影した。


「待ち受けにしておくね」


 そう言う結衣に、俺は嬉しいとも恥ずかしいともとれる曖昧な顔で頷くのだった。

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