一杯食わされた
今更ながら、またタイトル変えました。
顔を合わせるだけで喧嘩すると書いていたが、こいつら別に顔を合わせても喧嘩しないんだもん。
第2セットは、周囲の誰が見ても一方的な試合展開となった。
第3ゲームまで終了して、ゲームカウントは俺の3-0。
第1セットと打って変わっての一方的な展開だったが、セットカウント上劣勢な俺の盛り返しにギャラリーはさっきよりも大きな拍手を送るようになっていた。
ここまで一方的な試合展開になった要因は、目に見えて明らかだった。
第1セット途中からの俺の平塚の体力を奪う戦法。それが上手く機能した結果だった。第1セットでは、平塚はどれだけ俺が左右に振ろうが、どんな体勢だろうが強打をしようとする意思を見せていた。しかしこのセットに入って、平塚には最早そんな体力は残っていないように見えた。
センターへのスライスショット。
平塚の攻撃は、いつか俺があいつに見せた守備的配球だった。俺の、ミス狙いの配球だった。
確かにセンターへのスライスは、左右への角度が付けづらくなる分ウィナーが奪い辛い。でも、今研ぎ澄まされている俺にそんな配球は一切通用しなかった。
その結果が、これだった。
最早このセットを奪うビジョンは見えた。そう言って何ら差支えはなかった。
平塚も、それを見込んでの体力温存のための配球なのだろう。時間を稼ぎ、少しでも体力を回復しようという、そういう意図でのセンターへのスライスなのだろう。
であれば、その作戦には応じない。
「ゲーム奥村。0-4」
再びのサービスブレイク。
ギャラリーが沸いた。
平塚のサーブは、第1セットより明らかに球威も球速も落ちている。そのサーブ相手にリスクを取れば、ブレイクくらい容易だった。
「ゲーム奥村、5-0」
このセットは早々にもらう。
体力回復は易々とはさせない。
ただその一心で、俺は強打を連発していた。
最終セットへ向けての試合展開として、ここまでは完璧。
一切付け入る隙を見せず、第2セットはゲームを連取出来た。
どうだ、見たか。
そう思いながら、チェンジコートの最中、俺は平塚にドヤ顔を見せた。
次のゲームで決めて、それで最終セットだ。
それで試合を決めてやる。
最早勝った気で、俺はコートを横切った。
不敵な笑みを見せたのは、平塚だった。
「先輩、汗凄いですね」
唐突な平塚の言葉に、
「……え」
俺は滝のように汗を掻く己に気が付いた。
……いつの間に。
いつの間にっ。
動揺が隠せなかった。
体力勝負、第1セットの流れを汲んで有利なのは俺だと思っていた。しかし、試合に夢中になっていて気付かなかったが……確かに、体の動きが少し悪かった。
どうして……?
少し考えて、俺は行き着いた。
センターへのスライスショット。
守備的配球を続ける平塚とのラリー。このセットで何度も行ったそのラリーだが、ゲームを重ねる毎に打球数が増えていることに俺は気付いていなかった。
5球でウィナーが取れていたのが10球になり。
10球でウィナーが取れていたのが20球になる。
……体力勝負になった時点で、平塚は勝負を急いてくると思った。それか、このセットを丸まる捨てて体力を温存するか、どちらかだと思っていた。
あいつの配球を見て、俺はあいつが後者の戦法を取ったのだと思った。
だから、強引にウィナーを奪いに行った
でも、それが奴の狙いだったのだ。
ウィナーを取るため、気付けば俺は多少強引に……無理な体勢でのショットを乱発するようになった。
それがいつも以上に体力を奪う結果になったのだ。
体力が減れば、狙ったコースも甘くなっていく。
だから勝手に打数が増える。
打数が増えれば、より強引に打ちに行き……更に体力を奪われる。
そんな無限ループに俺はいつの間にか陥っていたのだ。
だから、今。
「形勢逆転ですね」
この後輩に。
平塚に、一杯食わされたのだ。
……まずい。
平塚の怯えるような表情を見た時、この試合で焦るような場面はやってこないとそう思っていた。焦って、自滅していくのは向こうだと思っていた。
しかし。
いきなりのサービスブレイクに動揺しなかったり。
体力勝負に持ち込まれたらそれに堂々と乗っかったり。
俺は、勘違いをしていた。
この試合で……強者は俺で、弱者は平塚だと思っていたのだ。肩書から見て、周囲が平塚に肩入れする様子を見て、怯える平塚の顔を見て。
俺は、この試合は俺が一方的に自分のテニスを押し付ける展開になると思っていたのだ。
……でも。
この試合で、奇策に打って出て奇襲を図った方はどちらか。
この試合で、奇策に打って出る相手に冷静に対処したのはどちらか。
全然、違った。
この試合、力を誇示し、ひたすらどっしりと構えていたのは平塚の方だった。
慌てず、畏怖せず、冷静に対処し続けたのは平塚の方だったのだ。
「ゲームアンドセカンドセット。奥村。6ー1」
第2セットは、何とか奪えた。
荒れた息でベンチに帰りながら、俺は第3セットに向けて……一人考えを整理していた。
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