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異世界メキシカン 転生アウトローは魔法と無法の世界でメキシコの夢を見るのか  作者: アダチガハラ
第4章 フー・キルド・ザ・フィルムスター
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第19話 深く潜れ

 俺みたいなアウトローにとって、警察は軍隊よりも怖い存在だ。逮捕が怖いっていってるんじゃねえ。あいつらにはリミッターってもんがないんだ。特に連邦警察の特殊部隊だ。あいつらには、至近距離でUZIをぶち込まれた仲間もいた。M82対物ライフルで狙撃された奴もいる。M82の弾は、陸軍エヘルシトが使ってる重機関銃と同じ12.7㎜NATO弾だぜ?あんなもの生身で食らったら原型なんて残らないが、あいつらは容赦なく人間相手にぶち込んでくるって具合だ。後で世話になってる所轄の刑事に聞いたが、警察は軍隊と違って陸戦条約の適用が無いし、俺らみたいなギャング相手には配慮する必要もないんだとさ。ヤクの取引がバレて、ブラックホークで追跡された挙句ロケットランチャーぶっぱなされて、俺の70年式のカマロがオシャカにされたこともあったな。

 「憲兵隊」だか知らないが、警察組織って聞くと、嫌が応でもあいつら、連邦警察の特殊部隊を思い出しちまう。メキシコのアウトローのサガってやつだ。


 朝日が昇ってきた。俺たち4人が、玄関で待ち構えていると、軍服の連中は馬から降り立った。暗くてよく見えねぇが。総勢100人はいそうだ。隊長だろうか。背が高い緑のベレー帽で黒い軍靴を履いた女が俺たちに近づいてきて敬礼する。


憲兵隊ゲンダルメリア、特務捜査官のルーシー・フルーリエ大尉です。あなたたちがブラザー姉妹の言っていたギルドの方々ですね。捜査へのご協力感謝いたします。」

「ミオ・トライトレス。傭兵ギルドのマックイーン支部長代理です。こちらは、今回任務に参加したギルドメンバー。エレナ様、バルバラ様、そしてニア様です。」

「そうですか、報酬は後程、ギルド宛てにお支払いいたします。」

「我々は教会からも報酬をもらいますから、ブラザー姉妹に払ってあげてください。」

「そうですか、ではそのように。あれ、バルバラって言ったら、モンテビアンコ公爵のご令嬢バルバラさんでは?」

「・・・アタシのこと知ってるのか?」

「僕のことを覚えていませんか。無理もない。公爵令嬢からしたら、僕は何者でもない。あなたがギルドの傭兵を演じているように、僕もただ、憲兵隊大尉という立場を演じているだけ、ですからね。」

「棘がある言い方だね・・・」

「お気に障ったのなら申し訳ない、忘れてください。では、容疑者たちはどこですかな?」


 ルーシーは、バルバラにウィンクすると、ミオに向き直った。バルバラはげんなりとした表情をしながら、思い出そうとしているようだ。何か因縁でもあるのか?


「出入口は拘束魔法で封印してあります。開けますか?」

「ええ、頼みます。ビルキス准尉、突入の準備を。」

「はい、大尉。」


 ルーシーの副官だろうか。ビルキス准尉と呼ばれた色黒の女が、警官たちを連れて、2振りの湾曲刀ショテルを手にメイン会場へと突入していった。


「憲兵隊、ガネット・ビルキス准尉だ。皆、斬られなたくなければ動くなよ。」


 閉じ込められて苛立っていた会場が、どよめきと恐怖の叫びに変わった。ここに集まっている連中は、おそらく違法人身売買の罪で逮捕されるのだろう。ロレンツォが集めた顧客だと考えると、地位も名誉もある奴らばかりだと思うが・・・。よもすると、余罪もあるかもしれないし、現に自宅に奴隷少女を侍らせているかもしれないが、それも今日でおしまいだ。自業自得だから、同情なんてしないが。


「大尉。拘束した者の中に、憲兵隊の者は見当たらないようです。」

「おかしいな、すでに脱出したのか?まずいな、憲兵隊の内部に、裏切り者がいるっていう確たる証拠をつきつけないと、上層部との取引材料に使えないじゃないか。この事件、もみ消されてしまうぞ・・」


 憲兵隊の奴らは、あの3階で出くわした奴らを探しているようだ。俺が顛末を教えてやることにした。


「ビダル将軍とバーモンデ少佐が?なるほど、デリンジャーに協力していたのは彼らでしたか。まあ、ビダル将軍の遺体があるなら、証拠になりましょう。そしたら、僕の突入も不問に付されるというものです。」

「あんた、無許可で突入したのか?」

「ええ。だって、それが、僕の役割でしょう?正義の帳尻は後で合わせればいいのです。」


 うーん、こいつも、目的のために手段を択ばないやつか。危なっかしいな。そういう奴らばっかりなのかこの界隈は。


「大尉、子供たちを発見しました。保護します。」

「よし。よくやった。」


 ガネットとミオが、子供たちに毛布を掛けてやっている。みな小奇麗にされてはいるが、やせ細って虚ろな目をしている。ガネットが、腹を空かせていそうな子供にレーションを分け与えてやっている。対照的に、ぶくぶくと太った貴族どもは、仮面舞踏会の滑稽な格好のまま、縄で縛られ転がされたり、逃げようと暴れて隊員に警棒で小突かれたりしていた。


「そうだ。地下に力尽きた子がいるから、その子の遺体も・・・連れて行ってあげて・・・。」


 エレナが、地下で死んでいた子供のことに触れた。それを聞いたルーシーの指示で、隊員が布袋と毛布を持って地下へと降りて行った。


「捕らえた貴族たちは、もちろんこちらで連行しますが、行くあての無い子供たちもこちらで保護しましょう。こんなに大勢の子供を見る保護施設があるわけではないですから、いくつかの詰所に分散させなければなりませんが。」

「それには及ばんよ。」


 屋敷に横づけした幌馬車から降りてきたのは、ルクレツィア、シスター・カタリナ、そして教会の者たちだった。


「とりあえず、我々が教会に連れて行ってケアをする。そのあとのことは後程考えよう。とりあえず、飢えず雨露をしのげる場所が必要だろう?」

「わたくしたちの教会には、併設の孤児院もあります。そんなに大きくもなく綺麗でもないですが・・・失礼ながら、憲兵隊の詰所よりはマシだとおもいますわ。身寄りの無い子はこちらで受け入れましょう。」

「教会の者か?」

「ああ、トライトレス支部長代理に依頼を出していた、聖マヨール教会上席審問官のルクレツィア・ヴァレンティノだ。こちらはシスター・カタリナ。」

「僕はルーシー・フルーリエ大尉、憲兵隊の特務捜査官です。成程、教会も捜査していましたか。我々と同じような目的で?」

「そうだ。教会の幹部にもデリンジャーと思われる男に協力していた者がいるようで、捜査していたのだ。捕らえた奴らの顔を改めさせてもらうよ。」

「構いませんよ、どうぞ。」


 ルーシーとガネットが参加者どもを随時護送車にぶち込んでいく横で、ルクレツィアとカタリナが、奴らの顔を改めていた。


「ヴァレンティノ様、それらしき人物はおりませんわね・・・。」

「ミオ、君たちは見ていないか?」

「教会関係者らしき人は見ていないですね。あとは、デリンジャーとドラヴァール公爵夫人と思われる女が逃亡しましたが、そのくらいです。」

「やはりその二人だったか。しかし教会関係者は会場には居なかったと。」

憲兵隊うちのビダル将軍の死体はありましたが・・・。」

「じゃあ、当日参加はなかった、ということか。」


 ルクレツィアは、考え込んだが、これと言った結論は出なかったようだ。


「やはり、教会の中をもう一度調べる必要がありそうだな。」

「怪しい動きをした枢機卿は居なかったのか?」


 俺も気になって聞いてしまったが、そんな奴居たらもう目星がついているだろう。


「ああ、そうだ。アントニアさんが怪しんでいたボルハ枢機卿も、その日は一日執務室から離れていないよ。他の司祭も、特に怪しい動きをしていたものは居なかった。」

「うーん・・・」

「アントニアさん、別に気落ちする必要はないぞ。むしろ、デリンジャーと公爵夫人が逃げたということは、今後、その枢機卿と接触する可能性が高いということだ。彼らが落ちあいそうな場所を探すことにしよう。教会領のどこか古い礼拝堂を探すよ。君たちも手伝ってくれると嬉しいな。」

「たしかにそうだな。」


 そうしている間に、憲兵隊とガネットは、オークションの参加者の身元確認を終えたようだ。一列に整列させられ、護送を待っているようだ。


「フルーリエ大尉。確認終わりました。あとは、順次連行するだけです。」

「よし、では、第一陣とともに私はいったん署に帰りますが・・・ミオさん、後でお話があります。取り調べと検証が終わった後、えーと・・・夕方にでもギルド支部に伺ってもよろしいですか?」

「はい。構いません。お待ちしております。」


 鉄の檻がついた護送馬車に何人かの参加者を乱雑に押し込めると、御者の憲兵隊員が馬車を発進させた。ルーシー自らは、馬にまたがり馬車に並走して駆けていった。それを見て、ルクレツィアも、カタリナと配下の教徒たちに目配せする。


「そろそろ我々も。」

「わかりました。ヴァレンティノ様。わたくしたちも、子供たちを教会に連れて行って看護いたしましょう。」

「ミオ。我々も後でギルドにうかがわせてもらうよ。今後の作戦について話そう。」

「ええ。お待ちしておりますね。」


 ルクレツィアら教会関係者は、先ほどの憲兵隊による参加者の扱いとは真逆に、子供たちを丁寧に幌馬車に乗せ、自力で歩けない子供はルクレツィアが抱えて荷台に乗せた。乗せ終わると軽快な足取りで馬車が出て行った。

 ルーシーやルクレツィアが去って静かになった屋敷を、ガネット捜査官が音頭を取り、護送馬車の第二陣を待つ容疑者たちを拷問、いや証言を取りつつ、現場検証をしている。倉庫からフエゴ伯爵とともに縛られた下着姿の女が発見されると、バルバラが慌てて衣装を返すために、着替えに行った。


「バルバラが戻ってきたら、私たちも帰りますか。ブラザー姉妹がギルドで待っているはずですし。」

「そうですね。ルチャモドキを食らったキャロル様の具合もみなければいいけませんしね・・・。」

「ルチャモドキ・・・?ああ、まあ、うん。そうだな。モドキ。」

「ニアちゃん、気を落とさないで。誰にだってダメなところはあるから。」

「それ慰めてるか???」


 帰り支度をしていると、ガネット捜査官が俺たちに近づいてくる。


「お帰りですか、ギルドの方々。」

「そうですね。そのつもりですが。」

「一つだけ良ろしいですか。フルーリエ大尉は、正義のためになんだってする方です。協力してくれるのはありがたいですが、くれぐれも大尉や我々の邪魔にならないようにお願いしたい。」

「・・・そうですか、わかりました。極力、干渉しないようにします。ブラザー姉妹にも一応くぎを刺しておきます。」

「大尉はどう考えているか分かりませんし、ブラザー姉妹には今日までの報酬は支払いますが、私はギルドの人間を信頼していませんから。」


 ガネット捜査官は、左右の腰に下げた2振りの湾曲刀ショテルを揺らしながら、現場へと戻っていった。なんとも不機嫌そうな女だ。


「なにあの子、感じ悪いわね・・・。」

「仕方がありません、エレナ様。ギルドには、元盗賊だとか、元賞金首だとか、そういった人物も多いですから、憲兵隊員からの目は厳しいのです。フルーリエ大尉のようにわたしたちに依頼を出してくる憲兵隊員のほうが珍しいのですよ。基本的に憲兵隊は厳格な警察組織です。ギルドだけでなく、騎兵隊も教会も、元老院や、よもすると皇帝陛下すら信用していない組織と考えておいた方がいいでしょう。」


 そんな話をしていると、バルバラがばつの悪そうな素振りをしながら普段の姿に戻って出てくると、俺たちは屋敷を後にした。門前にはギルドの情報部員が馬車を用意して待っており、そそくさと乗り込んだ。


「・・・それにしても、シガーケースは気づきませんでしたね。危うく取り押さえられるところでした。バルバラ様がアシストしてくれたおかげです。」

「『お姉さま、お忘れものでしてよ』って具合にな。」

「バルバラのあのお嬢様、妹設定だったのか・・・似てない姉妹だぜ・・」

「それにしても、館内で響いてた伝声管の情報を聞く限り、本会場ではかなり悪趣味な趣向をしていたようですね」

「あと少しラインを越えてたらアタシも、乗り込んでたかもしれないねえ。」

「ええ、火の輪くぐり、ナイフ投げの的・・・まるでサーカスの猛獣のような扱いでした。もし彼女たちの命に直接係わるような事態になっていたら、わたしも介入していたかもしれません。」


 すこしの沈黙が流れる。エレナが歯をかみしめる。


「あの子たち、この後、どうなるのかしら。」

「一応、教会が一時的なケアはするのでしょうが、そのあと里子として引き取られたり、攫われてきた子は親元に帰るのでしょう。それ以外の子は、教会の孤児院で育てられることになるというところでしょうか。」


 俺はふと、俺を捕らえやがったおっさんの言ってたことを思い出した。


「・・・マックイーンで俺をいたぶりやがったバルタザールの手下がいただろ?」

「わたしが『逝かせて』やった方ですね?」

「ああ、あいつが言ってたんだ。これは『慈善事業』だって。自分の子供を人買いに売る親がいて、もしバルタザールたちに買われなければ、口減らしに殺されるだけだってな。そしてドラヴァール夫人も言ってたんだ。美しい子供は、彼女たちを美しいと思うような金持ちに買われるべきってな。そうしたら彼女たちも幸せだって。」

「まあ、貴族に買われて幸せな生活を送る子供も中にはいるかもしれませんが、一握りでしょう。ほとんどは、強制労働、家畜扱い、性的奉仕の強要をさせられてその一生を終えるのです。もしかしたら、口減らしされて殺されるほうがマシだなんてことをされている子供もいるかもしれません。いずれにせよ、そこに子供たちの意思なんてありませんから、たまたまその子が『幸せ』と思う生活を送れたとしてそれは結果論でしかありません。」

「・・・そうだな・・・この世界がもう少し優しい世界だったら、なんて思うよ。」

「ニア様は優しいのですね。子供たちをすべてお救いになりたいと?」

「いや、別にそんなことは思っちゃいないさ。そんな聖人君子みたいなことは、教会のやつらにでも任せとくよ。だってオレのこのちっちゃな手には余るからな。ただ、思い出してたのさ。ガキのころを。」


 おやじは、エスペランサが生まれた後すぐに、ギャングに殺された。おふくろも数年後に病気になったが、家に医者にかかれる金は無く死んだ。俺は幼い妹エスペランサを連れて、親戚の家を渡り歩いた。しかし、フアレスに住む親戚連中は、俺たちを厄介者扱いしてすぐに追い出した。父親の遠い親戚がカリフォルニアにいるという話を聞いたが、国境を渡るには大量の金がいるし諦めざるを得なかった。俺とエスペランサは、父母の残したサトウキビ畑でなんとか食いつなごうとしたが、世の中はそんな若造には特に厳しかった。幸い俺には悪事の才能があったから、自分と妹の生活を守るために、他人の幸福や人生を犠牲にして金を稼ぐことができた。

 俺が犠牲にした彼らも、不幸な境遇の子供たちだったり、奪われた弱者だったりした。たとえば電気屋のビセンテは娘を失った悲しみから逃れるため、俺から“メス“を買い、ODで死んだ。病気の弟のためシンジケートから借金したヴァネッサは、俺に連れられて嫌々娼館に入ったが、しばらくして弟が死に、客が持ってたリボルバーで自殺した。一歩間違えば、俺はビセンテだったのかもしれないし、ヴァネッサだったのかもしれないと、今でも思うよ。まあ、結局巡り巡ってエスペランサは殺されて、俺も死ぬことになったわけだが。

 じゃあ、もし、ヨーロッパの慈善家や中国の資産家が、俺たちに寄付したり養子にしていたりしたら、結果は違っていたのだろうか。俺はデザートイーグルなんて手にしてなかったのかもしれないし、不幸な奴らを死に追いやることだってなかったかもしれない。だが、現実はそうならなかった。何故かなんてそんなの政治家や役所の奴らの考えることであって、俺の範疇じゃないぜ。尤も、政治家や役所の奴らが汚職以外に何をしてるのかなんて、俺はしらないがな。



 明け方のギルド支部は、昨日の年末の市場みたいな様子とは打って変わって静かだった。俺たちが馬車から降りるのを見て、守衛が門を開けた。


「朝までご苦労様です、トライトレス支部長代理。」

「ええ、そちらもね。イリア様とキャロル様は戻っていますか。」

「はい。お二人は、上階の自室におられるかと。」


 ブラザー姉妹は、2人で“白”ランクの部屋を1つ借りているという。大勢で押しかけても邪魔になるということで、彼女たちのことはミオに任せ、俺たちはいったん、エレナの部屋に戻ることにした。エレナの部屋は、荷物こそ大量に置かれているが、元々広いこともあり、天蓋付きのベッドとソファーベッドがある。昨日、俺はエレナの抱き枕にされ、バルバラはソファーベッドで寝てていたが、今日はさすがに、俺がソファーベッドの番だ・・・と思っているそばから、バルバラは部屋に入るなりソファーベッドに突っ伏していびきをかき始めた。


「ああ、もう、バルバラったら、シャワー浴びないと臭くなるよ」

「んあー起きたら・・・むにゃむにゃ」


 と、いうことで、当然のことながら俺は、エレナにバスルームにぶち込まれることになるわけだ。湯船に浸かった俺の、長くて繊細で、うざったい髪をエレナに洗ってもらっていたが、エレナは俺に深刻そうな声で話しかけた。


「ねえ、ニアちゃん。私は、夜風の魔女と契約しなければよかったと思うことがあるの。契約してしまった以上、デリンジャーを葬って私も死ぬしかないって。」

「どうしてそう思うんだ?」

「デリンジャーは魔女と契約するために、私たちの家族を奪った。魔女なんてのは、人間のことなんて考えない災害みたいな奴らで、賞金首が私利私欲のために契約する、そんな存在よ。魔女だけじゃなくて、魔女との契約をした人間を軽蔑する人だっている。いつか、この魔女の力で無実の人を傷つけてしまうかもしれない。だから・・・」

「さあ、でももし契約しなければ、今のエレナは居ないんだろ?もしかしたらデリンジャーに殺されていたかもしれないじゃねえか。」

「まあ、そうだけれども。」

「少なくとも、俺やミオ、バルバラはエレナがどんな過去があろうと、エレナを差別なんてしないだろ?周りのノイズなんて、お湯に深く潜ればわからねえよ。」


 俺はお湯の中に頭を沈める。エレナは何かを言っているようだが、俺の耳には届かない。俺は勢いよくお湯から顔を出して、エレナに水しぶきを浴びさせる。


「それに、死に急ぐ必要はないんじゃないか。デリンジャー以外にも悪党はいっぱいいる。エレナにしかできないことってのはあるだろ。少なくとも、俺や、バルバラ、ミオはエレナのことを必要だと思ってる。それこそ、悪党を討伐することで、これ以上エレナや妹さんみたいな人間を出さねぇ手助けはできるんじゃねえか?」

「でも、私は、その私やソニアみたいな人間を、傷つけてしまうかもしれない。」


 俺は、少し深呼吸してから背後にいるエレナを見上げて、その目を見つめた。


「もし、その魔女の力が、無実の人間を傷つけることがあったら・・・エレナがその力を制御できないときがきたら、その時は・・・」


「その時は・・・?」


「その時は、俺が殺してやるよ。」


 エレナは、無言で頷き、俺を背中から抱きしめた。そのとき彼女が泣いていたのかはわからないが、俺の肩に、水滴が落ちたのがわかった。それはシャワーのしずくだったのか、それとも。

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