酔いが回ってるときに建設的な話はできません
「そういえばさぁ、明日からの食堂のことなんだけど」
幾分冷めたポテトをつまみながら話す。
「私とキリ以外には人は増えないんだよねー?」
「明日からって…ハナちゃん、明日も行くつもりなの?…増やそうと思えば増やせるけど、料理できる城仕えの魔族ってちょっとすぐ思いつかないなぁ」
だよねー。
どういう雇用形態か知らないけど、なかなかそんな都合のいい人はいないだろう。
料理できなくても、盛り付けとお皿洗いくらいは…と思ったんだけどな。
「別に無理してあそこで働かなくていいんだよ」
「でもさぁ、私ほんとこの世界で何にもできないし、今日お客さん喜んでくれて嬉しかったしー…」
マオが私をじっと見て、おもむろに手を伸ばす。
そのまま頬に指を添わせ…。
「…なんでこんなとこに茶色いの付くの」
「それはメンチカツにかぶりついたからだよ…!」
どうやら衣の食べかすを払ってくれたらしいと気付いた。
「はいはい!またいつものやつだよ!もう慣れましたよ!!」
「えっ、何急に…」
「そーやってさぁ、みんないっつも私のこと子供扱いしてー!」
いつもなら心の中で思うことも、アルコールのせいで口に出る。
いや、いい機会だ!
「魔族から見たら子供なんだから、しょうがないでしょ」
「人間からしたら大人!みんなして私の頭ポンポンするし!大人なのに!」
マオはびっくりした顔をして、グラスの中身を飲み干しながら言う。
「え、ウソ、そんなことしてた…?」
「今日だけで3回はされた!」
「無意識だった…。ハナちゃんの頭って丁度いい高さで、つい手が引き寄せられるんだよね」
そんな虫ホイホイみたいな機能あってたまるか!
「私ってこの世界でそんなやばいの?目を離したら死ぬの?」
「そんなことないんだけど、心配で。おれたちが勝手に呼びつけた訳だし」
「今は私の意思でここにいるんだから、いいじゃん」
ヒートアップして喉乾いた。
ふらふらと冷蔵庫に向かい、次の缶を取り出す。
「ハナちゃーん、飲みすぎてない?これ、こっちの葡萄酒より大分アルコール強いよ」
「私の世界では普通だもん」
机に戻り、自分とマオのグラスにお酒を注ぐ。
いつもならほろ酔いの量も、誰かと一緒に飲んでるからか、体動かして疲れてるからか、今日はやけに酔いが回る。
「でね、明日からの食堂なんだけど」
「わぁ、急に話が戻った」
私としては人数が増えない以上、とにかく効率化したい訳ですよ。
配膳と空いたお皿を下げるのはセルフだし、食器はやたら沢山あるから、空いた時間にお皿洗いでいいとして。
出来るものはお客さんが来る前に作り置きしておきたいけど、かと言って冷めたものを出す訳にもいかない。
こんなことになるなら、学生の頃にでも飲食店でバイトしておくんだった…!
「下準備だけしておいて、食料庫に入れて置いたらどう?あそこなら腐らないし乾燥も冷めもしない。保存魔法がかかってるから」
「昨日くらい人来るかなぁ。そしたら作れるだけ作って、そこから出すってことにしよっか」
メンチカツは食べ終わってしまったので、2人でポテトとお漬物をつつきながら話す。
「ハナちゃんはさぁ、元の世界に帰りたいとか思わないの?」
「えぇ〜…まぁ帰りたくないこともないけど、今はここが楽しいからいいかなと思って」
「のんきだねぇ」
大体帰り方も分からないし、異世界の文字が読める眼鏡があったって、マオの部屋だけでさえ膨大な書物を呼んで方法を探すなんて、砂漠で1粒のなんとやらだ。
「帰る方法が見つかったら考える」
「まぁおれたちは美味いもの食べられてるから、いいんだけどね」
私に負けず劣らずのんきな口調でマオが言う。
グラスを傾けると氷がカランと鳴った。
もうちょっと飲もうかなぁ。でもそろそろおつまみも無くなるし…。
「マオ、まだ飲む?ていうか全然顔色変わんないね」
「おれはまだ大丈夫だけど、ハナちゃんもう止めときな。顔真っ赤じゃん」
1人で飲んでるときは全然平気なのになー。
他人といるとペースが早くなってるんだろうか。
仕方なく頬杖をついたまま、グラスについた水滴を指でなぞる。
「明日はさぁ〜ハンバーグとかどう?お昼」
「聞いたことない料理だけど、ハナちゃんが作るなら美味いんだろうね」
「ミンサーも買ったし…ポテトと、にんじんをグラッセにして…うちにあるブロッコリーでも添えてさ」
やばい、眠くなってきた。
今日は外行ってまぁまぁ埃まみれなのに、お風呂も入ってないし、何より目の前の食べ散らかしっぷり…。
「お昼はハンバーグで…夜はみんなでロコモコ丼とかにする?あぁ、でも昨日も丼だったよね…楽しかったな…」
「はいはい、ハナちゃん、もう寝る時間だよ」
そう言ってマオが机の上にあった空いたお皿を下げてくれる。
ふわふわした視界が揺れる。
戻ってきたマオが、少し逡巡したあと、自分が付けていたエプロンを外して、私の方に掛ける気配がした。
それ、そこそこ汚れてましたよね…?
突っ込む気力もなく、先ほどの午睡のように、抗えない力で瞼が落ちた。
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