大変なことになりました
「はーなんかもう我が家感ある…」
あの後少し買い物をして、城に戻ってきたのは恐らく11時前頃だった。
もはや懐かしさを覚えるマオの部屋。
久々に、というかこちらの世界では初めて街を歩いて、どっと疲れが出てくる。
マオの部屋のふわふわベッドに倒れ込みたいのを堪え、マオと一緒に部屋に買った洋服やらなにやら運ぶ。
食堂のお昼ご飯って何時からなんだろう?
キリと別れるとき、ざっくりお米の炊き方と、ローストビーフの作り方は教えたけど間に合ってるのかな?
「私はこのまま厨房に行くけど、マオはどうする?」
エプロンを装着しながらマオに尋ねる。
今日は早起きだったし、狩りにも付き合ってもらったし、疲れてるんじゃないかしら。
「…おれも厨房行こうかな」
「いいの?」
「ハナちゃんこそ疲れてない?大丈夫?」
でた、マオの「大丈夫?」。
疲れてはいるけど、昼食は手伝うって約束だったし、キリのことも心配だしね。
「大丈夫!キリの話じゃ、食堂に行く人は少ないっていうし、ちょっと様子見て、忙しそうなら手伝うくらいだと思うから」
冷蔵庫から調味料と食材を取り出しながら答える。
キリは昨日の夜ごはんのローストビーフ丼にするって言ってたけど、その一品だけじゃ食堂として寂しすぎる。
生野菜は苦手な人も居そうだから、玉ねぎとにんじんのコンソメスープにしよう。
それならメインの食材は異世界産だから、魔力回復もできるだろう。
食材の詰めた箱は、マオが持ってくれたので、私はキリにあげるつもりの洋服だけ持って部屋を出た。
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「えっ何この人だかり…!?」
厨房の場所はもう覚えている。
しかし、ご飯時に行ったことはないにしても、この人数はおかしい。
「ちょっとごめんよ」
マオが食材の箱を小脇に抱えたまま、食堂の扉を見る。
私は人垣の後ろでぴょんぴょん飛び跳ねてみるが、扉に何か紙が貼ってあるのだけしか確認できない。
マオは人の隙間をするすると通り抜け、大きなため息をついて、私を呼んだ。
途端に人垣が割れて、道ができる。
「おお、神子様だ」
誰ともなく呟くのが聞こえる。
はい、魔力ゼロ、特別スキルゼロの異世界から来た神子です…。
おそるおそる人の間を通り、扉の前に立つ。
「ハナちゃん、あの眼鏡持ってる?」
「持ってる。えーと…」
『本日のメニュー 異世界から召喚された神子様の手作り絶品ランチ』
「はああああ!?」
「この筆跡はオピスだね」
みんなこれを見て集まってるってこと!?
いやいや話が違うじゃん!
ちょっとお手伝いするだけのつもりだったのに、これじゃ私メインみたいじゃん!
「キリ!大変なことに!」
食堂前に集まる人たちを押しのけ、厨房に入る。
「あ?表の張り紙だろ?そんなことよりお前も手伝え、早く!」
慌てて食材のカゴを作業台に置き、キリのそばに駆け寄った。
先ほどのブラッドブルはすっかり見慣れたお肉になっている。
ちょっと解体の現場を見る勇気はなかったので、思わずほっとする。
こっちはこのまま全面を焼いて、あとはほぼほったらかしだからいいとして、問題はお米がちゃんと炊けてるかなんだけど…。
「キリ、お米大丈夫だった?」
「知らねーよそんなもん!あの呪文でできる方がおかしいだろ」
『始めチョロチョロ中パッパ、赤子泣いても蓋とるな』の呪文は効かなかったらしい。
私も炊飯器以外で炊いたのって、小学生のときの林間学校くらいだ。
こんなことならキャンプとか、アウトドアな趣味も持っておくんだった…!
「焦げ臭くなってないから、大丈夫だと思うけど、おかゆとかだったら炊き直しだよね…」
恐々お釜の蓋を開けると、米のふんわり甘い匂いに、つやつやの粒。
おお!これは大成功なのでは!?
「すごーい!ちゃんと炊けてる!」
「わあ、ホントだ。キリくんすごいじゃない」
いつの間にか後ろからのぞき込んでいたマオも、控えめに拍手しながらキリを見る。
かき混ぜると下の方が少しおこげになっているけど、これもまたおいしそうだ。
「やっぱりキリってセンスあるよね~。一回教えただけでちゃんと出来ちゃうんだもん」
「う、うっせえ!いいから手伝えって言ってんだよ」
「だってあとはお肉焼くだけじゃない。あとはローストビーフの下に敷く野菜と、スープくらいでしょ?」
ていうか今更だけど、ランチって一種類でいいんだよね?
今から何品も作る余裕はないし、とりあえず今日は一種類でいいことにしよう…!
「あ、そうだ。キリにあげようと思って。その鎧じゃ動きにくいし、汚れた時に困るでしょ」
思い出して、脇に抱えていたシャツを手渡す。
「はあ?いらねーよこんなもん」
「まあまあそう言わず。こっちの方が衛生的だし」
「てめえ、おれの鎧が汚ねぇってのか?」
料理するときはエプロン、寝るときはパジャマ!
家の中だけでもTPOというのはあると思うのよね。
私の力説が効いたのか、キリはしぶしぶ鎧を脱ぎはじめる。
「えっここで脱ぐの!?」
「防具の下にも着てるっつーの!だいたい上着替えるだけなんだからいいだろ」
「ハナちゃん、裸の上に鎧はちょっとマニアックすぎない?」
なんだこれいじめか?
古のビキニアーマーとかいう防具も。聞くには聞いたことがあるけど、男性向けではないと思いたい…!
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