初めてのウィンドウショッピングです
「できるだけ小銭で支払いってなぁ。ちょっと小ぶりだが、ケツァルコアトルってだけで中々の金額ですぜ?」
「この後、この子の買い物をしたいんだ」
「なんかすみません…」
困ったように言うエヌさんに、なんだかこちらが申し訳なくなってしまう。
いや、それもこれも規格外の金貨しか持ってないマオのせいなのでは…?
お金を貰った立場なので、何も言えませんが!
「とりあえず準備できるだけ渡すんで、残りは肉の受け渡しのときでいいかい?」
「ええ、もちろん」
どうやら交渉成立したようだ。
エヌさんは、ちょっと待ってろ、と私の頭を軽く叩いて、扉の奥へ消えていった。
くそぅ…ここでも子ども扱いか!
「ねぇねぇマオ、あの人が解体するの?」
「うん。エヌさんは腕もいいし、素材もお肉もちゃんと切り分けてくれるよ。粗悪なところだと肉は丁寧に扱っても、たとえば毛皮に穴が開いちゃったり、ひどい所だと素材をネコババ、ってところもあるらしいからね」
なるほど。
そりゃあこれだけ大きな町で、しかも動植物の採取が商売になるくらいだから、そういうお店もあるんだろうな。
その辺は私のいた世界でもそんなに変わらないかも。
「お待たせ、お二人さん。とりあえずこんなもんでいいかい?」
「ああ、ありがとう」
これあれだ、普段私が買ってる5㎏のお米くらいある…!
「さて、じゃあハナちゃん念願の買い物行こうか」
袋の中身を確認することもせず、マオはそれを軽々と持ち上げ、アイテムボックスの中へ仕舞う。
私は振り返ってエヌさんにお辞儀をし、マオに連れられて解体室を出た。
大金持ってると思うと無性にドキドキしちゃう、小心者な私です…。
いやでも隣で歩いてるのはなんてったって魔王様なわけだし、アイテムボックスの中に入ってるものをスられることもあるまい!
「この辺が洋服とか売ってる通り…ハナちゃんなんでそんな挙動不審なの?」
「な、なんか大金持ってると思うと…」
マオは呆れたように笑って言う。
「いや、ハナちゃんが思ってるほどの金額じゃないよ?簡単に倒せたし、個体としては小さかったしね」
「魔王が簡単に倒せない魔獣だったら、私は見た時点で吹き飛んでるね…」
そう言いつつ、先ほどの通りとは雰囲気が違い、洋服から絨毯などの織物が軒先に並ぶ店が多くなってくる。
私のいた世界と違うのは、通りによって売っているものが違うというところだろうか。
さっきのトラちゃんのお店みたいに、飲食だけじゃなく屋台のようなものは点在しているけど、店を構えているのはなんとなくまとまった商店に見える。
「こういうのなんかどう?」
そう言ってマオが店先の服の裾をつまむ。
「これアラクネ族の織った高級品だって。すべすべしてる」
「それほぼドレスじゃん!」
確かに絹のような光沢のある白い布は、つやつやしていて一級品って感じだ。
でも普段着では絶対ないよなー。
「もっとマオみたいな普通の服でいいんだよ」
「普通の服ねぇ…」
ていうかこの店ちょっと私が欲しいものと違うなー。
全体的にきらきらふわふわしてて…おしゃれ着としては素敵なんだけど、なんかこう…全体的に、シルク!金糸!って感じなのよ。
「マオ、他のお店も見てみたい」
「おれの服みたいなのだったら、違う通りに行ってみようか」
マオに連れられてお店を出て、大通りから一本裏の道に入る。
表の大きいお店とは違い、小さなお店が道路の両脇に沢山建っていた。
「おお!この辺ならありそう!…これとか!」
「ホントにこういう地味な服でいいの?」
「いいの!」
元の世界に居たときも、決して着道楽じゃなかった。
社会人として一通りのスーツやらは持っていたけど、動きやすい服と言ったら、今着てるようなのと、あとはもう本当の部屋着とジャージくらいだ…。
とにかく今は動きやすくて、丈夫で、何より異世界で浮かない服!
麻のざっくりしたプルオーバーのシャツを何枚か。
これから寒くなりそうだから、厚手のニットと、上着。
「ねー、マオ。これキリに買ってかない?」
そう言って男性物のシャツを掲げる。
ゆるっとしていて着心地はよさそうだ。
柄もなにもないただの黒いシャツだけど…。
「キリってさあ、なんで厨房に立つときもあの鎧なんだろうね?暑いし動きにくいし、油とかソースとかハネたら気にならない?」
しかも今日はこの後、厨房でキリと一緒に昼食の準備をするのだ。
あの場所で2人で作業するなら、できるだけ身軽な恰好でいてもらいたい。
ぶつかったりしたら痛そうだし…。
「あれは彼なりの威嚇みたいなもんだと思うけどねえ。でもハナちゃんがお願いしたら着替えてくれると思うよ」
ふーん、不良がピアスつけたり制服着崩すのと同じようなもんかな?
中身はまだまだ学生さんくらいだもんね。
最悪、着てくれなかったらちょっと大きい部屋着にしよう。
ワンピースみたいになりそうだけど。
「じゃあこれと、これと、これ!」
「これは?」
「だからひらひらしたのはとりあえず要らないんだって!」
実はそういう女の子が趣味なのか?
さっきよりはマシだけど、今度も民族衣装のような極彩色のひらひらの服だ。
「マオ、さっき解体屋さんでもらったお金チョーダイ」
「支払いできる?」
そう言われて、確かにお金の単位というか、硬貨の種類が分からないことに気づく。
色と大きさで判断していいものか…。
悩んでいると、マオは私が腕に抱えた洋服の山をひょいと取り上げ、さっさと支払いを済ませてしまった。
「ありがとう」
「いえいえ、これはハナちゃんの労働の対価なので」
「やっぱり見合ってない気がするけどなぁ」
そう呟いた私の言葉は無視され、荷物まで持ってくれるマオは、見た目と財力と優しさだけ見れば、きっとスパダリと呼ばれる部類なのだろうけど…。
「いたい」
「うわ、マオ。そこ柱が出っ張てるから気をつけて」
洋服を掛けた柱のカドに頭をぶつけているのは、スパダリどころか魔王にも見えないのだった。
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