初めてのお散歩です
「す、すごい人!」
というわけで、私は初めての城下町に来ています!
石畳の道路は幅広く、両脇には様々なお店が軒先を連ねている。
行き交う人々も城で見かけた魔族と同じように、パッと見、人間に見える人もいれば、バリバリ獣です!爬虫類です!って感じの人もいて、まさに魔族のメインストリートって感じだ!
「この辺はアクリの街の中でも、今から行く解体屋とか、工業や商店が多い通りだね」
城壁の門をくぐって、通りの入口で呆然としている私を促すように、マオが言う。
「逸れるといけないから、はい」
そう言われて差し出された手を取るべきか否か…!
いやでも私はここでは生まれたてスライムだし、はぐれたら合流できる自信はない。
これは保護者!保護者の手!と言い聞かせながら、できるだけなんでもないようにその手を取る。
やっぱり私の格好はちょっと皆から浮いてるし、普段使いできる動きやすい洋服と、あっ、靴も欲しいなぁ。
結局ずっとスリッポンだしな…。
できればいつも家に来るメンツの分くらいの食器も揃えたいし…。
「とりあえず解体屋に向かうけど、途中で気になるものがあったら言って」
「あああっ!!」
私の大声に、マオは肩を竦め、歩いている何人かは振り返る。
我に返って恥ずかしくなったけど、いやそれより大事な事を忘れてた…!
「マオ、私お金もってない」
「…は?」
「何とかしてこっちの世界のお金稼いでから、買い物に来るつもりだったんだけど、まさかこんなに早く外に出れる日が来ると思ってなくて…!」
きょとんとした顔のマオ。
だよねー!そういう反応になるよね!?
解体屋でお願いするのが目的とは言え、無一文でアレが欲しいコレが欲しいとは言えないし!
「あのねぇハナちゃん、おれがハナちゃんにお金払わせる訳ないでしょ」
「へ?」
「ハナちゃんは謂わばそう…生まれたて…いや国に呼んだ賓客みたいなもんなんだから」
え、今また生まれたてスライムって言いかけた?
「いやでもそんなホイホイ買ってもらう訳には…!」
「そりゃおれだって急に城買ってとか言われたらちょっと困るけどさ、おれ魔王様だよ?ハナちゃん、とりあえず服とか食器が欲しいんでしょ?」
まぁ確かにこの国の王様ってことはお金持ち…なの…?
王様ってお金持ちなん?
国の予算と個人のお金ってどうなってるの?給料制?
「そうだけどぉ〜…やっぱり全部買ってもらうっていうのも…!」
「あ、そうだ」
なにか思い付いたように、マオが両手をぱちんと叩く。
「ハナちゃん、こっちに呼ばれた日からずっと食事作ってくれてるから、これお駄賃」
そう言いながらマオは自分のポケットをまさぐる。
あれは住まわせてもらってることに対してのお礼であって、実質材料費もタダだし!
アレ…?でも住まわせてもらってるっていうか自宅なんだけど…??
「はい」
混乱する私が断る暇もなく、つないだ手のもう片方を無理やり開かせ、硬いものを数個渡される。
「えっなにこれ金貨じゃん!重っ!」
「とりあえず足りるでしょ、たぶん」
いやなんかでかいし、重いし、龍の紋章彫ってあるし、この世界の通貨初めて見たけど、これはいわゆる金貨というものなのでは…!?
「絶対多いでしょ!」
「いいからいいから、この後、ウチのお昼も手伝ってもらうし、前払いってことで」
ていうかこの金貨を裸で持つのが怖すぎる…!
とりあえずチャックの着いた胸ポケットに大事に仕舞い、マオに手を引かれて大通りを歩き出した。
「ふわー!外国みたいな街並み…!」
「ハナちゃんとこは違うの?」
「こういう通りもあるかもだけど、もうちょっと整然としてるって言うか…」
一応私が住んでたのはコンクリートジャングルとも言われる街だったので、こういうがやがやした通りは珍しかった。
というか私があんまり行かなかっただけかもしれないけど。
「この辺はおれがイチから作った街じゃないからねぇ、雑多だけど、活気があっていいでしょ」
「うん!」
マオの話だと食材を売ってる通りもあって、私としてはそこも見てみたい!
この辺りは元の世界では絶対見られない、武器や防具?を売ってる店が立ち並んでいて、それはそれで面白いんだけど。
「マオ!あれ!あれ何!?」
「なんか欲しいものでも…って、アレ屋台じゃん」
「なんかいい匂いする!」
人混みをすり抜けるようにしてぐいぐいとそちらへ向かう。
大混雑の駅を通り抜ける社会人スキルを舐めんなよ!
「串焼き屋さん?」
昔、教科書で見た江戸時代の屋台みたいだ。
店舗はなくて骨組みだけの簡単な柱と屋根、座るところは無いから、立ち食いというか買い食いするようなお店みたい。
「…食べたいの?」
「食べたい。っていうか食べる」
物価とかよく分かんないけど、この金貨で足りる…よね?
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