初魔法体験です
「このままいくと狩り尽くしちゃうなあ」
マオはそう呟くと、私を片手で抱き直し、空いた手でブラッドブルの群れの周りをぐるっとなぞった。
熱風が頬にあたる。
群れの一部を囲うように草原が燃え上がり、外側に向かって風が渦巻く。
まるで炎の壁が群れを分断するように、外側のブラッドブルが散々に逃げていった。
「キリくーん!残りは頑張ってー!」
「どうせなら全部追い払えや!」
残り、とはいえ炎の輪の中に十数頭はいる。
キリもだいぶしんどそうに見えるけど、大丈夫なんだろうか?
「怒鳴る元気があるから大丈夫だよ」
マオの言葉の通り、キリは悪態をつきながら次々と大剣を振り下ろしていく。
あのムキムキボディは見せかけじゃなかったのか…!
魔法はほとんど使ってないみたいだけど、マリーさんとオピスが言ってた通り苦手なのかしら。
まあ全く使えない私が言うことじゃないけどね!
最後の一頭を片付けて、キリがこちらを見上げる。
勝ち誇ったような顔が、一転して驚愕の表情に変わった。
「オッサン!余計なモン連れてきてんじゃねーよ!」
キリの視線の先をたどって、マオが体ごと振り向く。
「やあ、ケツァルコアトルだ。珍しい」
「おわー!でかい鳥!!」
金色の鳥が、弾丸のように体を平たくしてこちらへ突撃してくる。
遠目から見ても、先ほどのロック鳥より数段大きい。
「ハナちゃん、しっかりつかまってて」
「え、ちょ、ぎゃーーーー!!!」
逃げるんじゃないの!?なんでそっちに向かってるのー!?
あまりの速度に体を固くする。
マオは私を片手で抱えたままで、腕にぎゅうと力が入っているのが分かった。
すれ違う瞬間、ケツァルコアトルと呼ばれた巨大な鳥の爪が、マオの髪に掠る。
つやつやとした羽毛に覆われたケツァルコアトルの腹をくぐり、マオは首をかしげるようにしてそれを躱した。
旋回して再びこちらに向かってくる。
「ハナちゃん、ちょっとごめんね」
返事をする暇もなく、マオも再びケツァルコアトルに向かう。
今度は巨体の首の上に乗るようにして、その場で片足を上げ、足踏みをしただけ…に見えた。
「落ちるーー!!!」
太い生木が折れるような音がして、足踏みだけでこの巨体に致命傷を与えたことに、落ちながら気付く。
な、内蔵が浮き上がる…!!
自然落下の速度じゃない。
ケツァルコアトルに与えた衝撃の勢いそのまま、地面に叩きつけられそうになる。
「…っ!!」
衝撃を覚悟した瞬間、ふっと落下速度が緩んで、そのまま埃ひとつ立てずに地面に着地した。
「ハナちゃん、大丈夫?」
「胃が口から飛び出すかと思った…!」
「えっ大丈夫…?」
大丈夫じゃねーわ!
いや怪我のひとつもないから、大丈夫なのかもだけど!
「この鳥、ケツァルコアトルって言って羽毛が高くうれるんだよね。飾り羽根と尾羽なんて特に。肉は硬くて不味いみたいなんだけど、血液も薬のもとになるから、あんまりボロボロにしたくなくて…」
「地面…安定した地面…!!」
地面に下された私がしゃがみ込んでいると、マオが何やらケツァルコアトルの傍でその巨体をまさぐっている。
確かに発光するような金色の羽は高値がつきそうだ。
「おっ、やっぱり持ってた。ハナちゃん、これ」
「…これも魔石?マオから貰ったのと色が違うけど…」
そう言ってマオから手渡されたのは、薄い琥珀色の、手のひらに収まるサイズの石だった。
日にかざしてみると、こちらも中心が濃く揺らめいている。
「一定ランク以上の魔獣は、魔石持っていることが多いんだよね」
「へー!」
てことは、このケツァルコアトルとやらもそこそこ高ランクな魔獣なんだよね…マオが簡単に倒してたけど。
キリの慌てっぷりから見てなんとなく察してたけどな!
「ケツァルコアトルの魔石じゃねーか!ハナ、お前そのままジャンプしてみろ!」
ブラッドブルを片付けて駆け寄ってきたキリが、嬉しそうに言う。
うわぁ血まみれ…このあと朝ごはん食べようと思ってたのに…!
それはそうとジャンプ?
まだ若干足腰が震えているが、言われたとおりに魔石を持ったまま、その場で軽く飛び跳ねてみる。
「わっ!」
学生の頃にやったであろう体力測定の記録なんて覚えてないが、明らかに私の身体能力を超えている。
ていうか浮いてる!
「な、なにこれ!」
「そのままそこでもう1回飛んでみ!」
私の目線より下になったキリが言う。
飛べって言ったって、どうやって空中で、何を踏みしめて飛べと言うのか…!
そう思いつつ、膝を縮めて勢いよく伸ばしてみる。
無いはずの地面を力強く蹴ったように、体がぐんぐん上昇する。
「わーー!飛んでる!?」
あっという間に、マオやキリが小さくなる。
これが魔石の力…!?
ていうかこれどうやって戻ればいいの…!!
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私事ですが、某ワクチンの副反応がものすごく、ストックが切れてしまいました(;▽;)
書き上がり次第投稿しますので、しばらく各日投稿になりそうです…
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