今更魔王感がすごいです
うん、確かに城下町は広くて狩り場まで行くのに時間がかかるから、おれが抱えて飛んでいくねってマオ言ってたよね。
聞いた聞いた。
私もほら人並みに異世界には興味あるわけじゃない?
街並みとかどうなってるのかな~とか、どういう人たちが暮らしてるのかな~とか!
「速いし高いってぇぇぇぇ!!!」
「もう着くから大丈夫だってば」
まさかのマオの部屋の窓から大ジャンプ!からの高速空中浮遊でおんぶされたまま、東の草原とやらに一瞬で到着してしまいました。
ああ、安定した地面って素晴らしい…!
「せっかくだから城下町も見たかったのにぃ」
「このあと買い物しに行くからいいじゃない」
「しかもおんぶって!」
お姫様抱っこもこっぱずかしいけども!
「ていうかマオって飛ぶとき羽とか生えるんだと思ってた」
「ハナちゃんおんぶしてたからねぇ。生やした方がいいなら出すけど、鳥がいい?コウモリがいい?」
「あっもういいです…!」
そういえば、キリは置いてきてしまったようだけど、いいんだろうか?
飛べないから走って行くとは言ってたけど、こちらが規格外に速すぎたせいか、あの距離を走るとどれくらいのタイムラグで到着するのか分からない。
「キリくん来るまでまだ少しかかるだろうから、おれたちは先にロック鳥の方に行ってようか」
「はーい」
くるぶしあたりまでの高さの草原が一面に広がっている。
少し遠くには背の高い木が立ち並ぶ森があり、上空には大きな鳥が旋回していた。
「…あの鳥でかくない?」
「ロック鳥はだいたいあんなもんだよ」
この距離から見ても、私どころかキリくらいの体長がありそうなんですけど…?
「ハナちゃんは卵が欲しいんだっけ?」
「うん…ちなみに卵ってどれくらいの大きさ?」
「これくらいかなぁ」
そう言ってマオが両手で丸を作る。
うん、バスケットボールくらいあるねそれは!
「味は濃厚で美味しいってオピスが言ってたよ」
「よし!じゃあたくさん採ろう!」
初めての魔獣とのご対面だ。
魔法無効化と、物理防御の魔石、なんといっても魔王様が護衛についてくれてるなら大丈夫…のはず!
「他の魔獣が来ると面倒だから、飛んで行こう。はい」
そう言ってマオが私に背中を向けて屈む。
うっ…しょうがないけど何か屈辱的…!
私が躊躇っていると、マオは何かに気づいたように私を振り返り、立ち上がって言った。
「こちらがお望みですか?神子様」
あっと言う間に膝の裏に手が差し込まれ、体が浮き、顔に風が吹きつける。
「ぅうわっ」
こ、これはまさかのお姫様抱っこ!いや神子らしいから神子様抱っこ!?
どちらにせよアラサーがされていい抱き方ではない。
「やめてー!恥ずかしい!下ろして!」
「物理防御あっても、この高さから落ちたら危ないかもだからダメ」
マオの呆れたような顔越しに背中の方を見れば、爬虫類を思わせる黒い大きな羽がゆらゆらと揺れている。
「羽も生やしてみました」
「ぜんぜん羽ばたいてないじゃん!」
「まあ雰囲気みたいなもんだから」
先ほど城からここに来るまでの速度よりは随分遅く、ふわふわと上昇しながら森へ向かう。
眼下の草原には、大きな動物が群れを成していた。
「あれがブラッドブル?」
「そうそう、角が赤いでしょ?このへんに居るのは少数の群れだから、たまにアクリの住民も狩りに来るくらいだし、そんな危険でもないよ」
結構な高度になり、恐々と草原を見下ろす。
確かに大きさだけで言ったら、私の世界にいた牛と大差なさそう?
赤黒くぎらぎらと光る角と、真っ黒な体毛のコントラストは異様だけど…。
「草原より森の方が危ない魔獣が多いんだ。普通の住民はほとんど入らない」
「へー…。っていうかマオ!なんか飛んできてる!」
「そりゃこれから卵を貰うわけだから、攻撃もするよね」
私たちよりさらに高い所を旋回していたロック鳥が、こちら目掛けて急降下してくる。
「ハナちゃん、鶏肉もいる?」
「いるっていうかいらないっていうか、あれば使うけどっていうかこっち来てるって!ねえ!」
私の、答えにもなってない答えを聞いたマオは、私を抱えたまま頭上に襲い掛かろうとしたロック鳥を一瞥する。
マオの赤い瞳が揺らめいたと思うと、ロック鳥は鳴き声も上げず炎に包まれた。
「っ!?」
熱気とともに、ばらばらと炭のようなものが顔に当たる。
思わず目を瞑って、再び開けたときには、ロック鳥の影も形もなくなっていた。
「…ハナちゃん、ごめん」
「へ?」
「久々に攻撃魔法使ったら消し炭になっちゃった」
「……」
なんか今日めちゃくちゃ魔王見せつけてくるじゃん…!?
「ごめん次はもうちょっとうまくやるね…」
「アッハイお願いします」
「怖かった?大丈夫?」
怖いっていうか、正直今まで普通のおじさんだと思ってた部分もあって、目の前で圧倒的な力を見せられて、なんていうか…。
「マオって本当に魔王だったんだね…」
「ええ、今更…?」
呆れたように私を見下ろすマオは、森に入って辺りを見回し、林立する巨大な木々のうちの一本に向かった。
葉っぱの形は広葉樹のようだけど、なんていう木なんだろう?
横に大きく張り出した、普通の気なら幹ほどある太さの枝のに着地する。
「これがロック鳥の巣と、卵」
「でっか!」
なるほど親鳥があの大きさなら、巣も卵もこの大きさで不思議じゃない。
マオの言った通りの、バスケットボール大の楕円形の卵と、私が3人は寝転がっても余裕がありそうな広さの巣だ。
確かにこの大きさの卵を持って帰るには、マオのアイテムボックスとやらが必要かもしれない。
つくづく一緒に来てもらってよかった…!
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