異世界で姉ができました
「さて、そろそろ夜ごはんの準備をしましょうかね」
「まだ夕方よ~?」
「今日はキリに美味しそうなお肉をもらったので、ちょっと時間をかけて料理してみようかと」
残ったおにぎりにラップをかけながら答える。
キリが包んでくれる時に見た感じだと、油の少ない赤身のいいお肉だ。
今日はマリーさんもいるし、お米も美味しく食べられそうみたいだから、ローストビーフにしよう!
エプロンを装備し台所に立ち、経木を開けてお肉を取り出した。
うん!思った通りのいいお肉!
魔獣の名前はブラッドブルと物騒だけど、お肉に罪はない!
まずまな板に出したお肉に、ミックススパイスと塩コショウを多めにかけて、ごりごり刷り込む。
野菜室からにんにくを取り出して擦り下ろし、これもお肉にごりごり。
どうでもいいけどこのにんにく、めったに買わない国産のでっかいやつ…!
少しお肉を落ち着かせたら、熱したフライパンにオリーブオイルを敷き、全面を押し付けるようにして焼いていく。
こんがりと焼き目がつくまで、トングで押しつけながら…!
「いいにおい~」
「お肉が焼ける匂いはたまらんですよね~」
羽をぱたぱたさせながら、ソファから身を乗り出したマリーさんが言う。
美味しいお肉を食べた時だけ出る幸せホルモンとかいうのもあるくらいだし、やっぱりお肉って正義よね!
全面に焼き目が付いたら、二重にしたアルミホイルの上にお肉をドーン!
巻いて!その上からさらにタオルで巻いて!一時間くらい寝かす!
「…お肉料理ってテンション上がりますよね!」
「楽しそうだけど~、それは何をしてるの?」
確かにお肉にタオルを巻いて寝かしつけているのは不思議な光景だ。
「これはローストビーフっていう料理で、こうやって保温しながら余熱で中まで火を通すんです」
「へぇ~!」
「寝かす時間は必要だけど、簡単でしょう?」
実は作り置きにも便利なんだよね~。
なんだかんだ言っても牛肉はお高いし、向こうの世界にいるときはなかなか作らなかったけど。
「…なんで鬼のボウヤが作る料理って美味しくないのかしら~?」
「お、美味しくないってそんなハッキリ…」
そりゃああの厨房で、食材と調味料も限られてて、そのうえ大人数に提供するのは私にだって難しい。
しかもおそらく、キリは以前から料理していたという風でもない。
私も料理人ではないけど、豊富なレシピと調理器具や調味料のおかげで、こうして人に食べさせられる料理が作れるだけだ。
そんなことをマリーさんに滾々と説明していると、肩に乗せたまますっかり忘れていたカイムが、突然、耳をピンと立てた。
『ハナちゃん?聞こえる?』
「あっ、マオ!聞こえてるよー」
『もう部屋に戻ってきてる?大丈夫?』
どうやら心配して連絡してきてくれたらしい。
「もう帰ってる!マオの部屋すっごいきれいになったよ!」
『あー、そりゃどうも』
「今日マリーさんも一緒にご飯食べるって」
『あ、一緒に居るのね。おれももうすぐ戻るよ』
「うん!あのね、今日キリがお肉くれたから、」
『うんうん、帰ったら聞くから、ね?』
「はーい」
いつものようなやる気のない相槌。
マオが生き生きするのって、ご飯食べてるときだけだよなぁ。
「愛されてるわね~、ハナちゃん」
「え!?」
「でも~、束縛しすぎの彼氏もイヤよねぇ~。難しいところだわ~」
「いや!アレは過保護で心配性なだけです!どっちかっていうと保護者です!」
先日のにんじん強奪事件を思い出して、思わず顔が赤くなる。
「お父さんみたいな~?」
「そう…ですかね?」
「だってハナちゃん、すっごく嬉しそうだったもの~」
そう言ってマリーさんが笑う。
「父は私が子供のころに亡くなってて、ほとんど覚えてないんです。でも、確かにお父さんってあんな感じなのかもしれないですね」
無条件で優しくしてくれて、心配してくれる人。
実年齢はともかくとして、見た目はちょっと若いけど…。
「あら…悪いこと言っちゃったかしら?」
「全然!母は可愛がってくれましたし!母も…私が成人してすぐ亡くなってしまったんですけど、十分愛情はもらってます!」
私はもう、今までもらった分の愛情でやりくりしていくと決めたのだ。
母が亡くなったときは散々泣いたが、それももうずいぶん前に思える。
「ハナちゃん…」
ソファに隣り合わせで座ったマリーさんが、翼で私をそっと抱きしめる。
「知ってる~?この世界では、魔族で種族が違っても、人間相手でも、誰とでも家族になれるのよぅ」
ふわふわで温かい羽毛が心地よい。
「私の旦那様も私とは違う種族だし、血の繋がってない魔族の子供を育ててるのもざらにあるのよぅ」
そうなんだ。
確かに城内で見る魔族たちは姿形も様々で、世界が違えば、家族の形も違うものなんだ。
「だから~、この世界にいるうちだけでも、私たちのこと家族と思っていいのよ~」
ぎゅう、と翼に力が入る。
思わずにじんでしまいそうな視界を、ぐっと堪えた。
「…マオが私のお父さんで、マリーさんはお母さん?」
「お姉さんでもいいのよ~」
確かに、私のお母さんと言うにはあまりにも若すぎる。
ちょっと失礼だったかな?と思わず吹き出してしまった。
「うおっ!何やってんだてめーら」
ガチャガチャと鎧のこすれる音を立に振り向くと、抱き合う私たちを見たキリが、居心地悪そうに立っている。
「アレは?」
「弟ですかね…」
「お子ちゃまだものね~」
キリの抗議の声を聴きながら、私とマリーさんは顔を見合わせてまた笑ったのだった。
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