今のところ1番羨ましい魔法です
「…でも、本当に魔力のない食べ物なのね〜」
「うう、すみません…」
マリーさんは1切れをペロリと平らげ、お茶を啜りながら言った。
「魔王様も言ってたけど〜、ハナちゃんは魔力がとれるかどうかなんて、そんなに気にしなくていいのよ?」
「でも、魔族にとって食事は魔力を補充するためのものだって…」
カチャリとカップをソーサに置く。
ちなみに食器もアンティーク調でとっても素敵です。
「それどうせ魔王様が言ったんでしょ〜」
「う、はい」
「魔王様の側近とか、私みたいな上級魔族って、基本的に魔力は有り余ってるのよね〜。だから、食事からとれる魔力なんて、1食や2食抜いたところでどうって事ないのよ〜」
確かに、マオもオピスもステータスで見ると、とんでもない数字だった。
それが一般的に見てどれくらいで、食事でどれくらいの魔力を回復できるのかは分からないけど。
「魔力って確かに生きてるだけで消費するんだけど、放っておいても多少は回復するし。それより美味しいごはんが食べられた方が大事だと思わない?」
「そう…ですかね?」
「だから正直、頑張ってる鬼のボウヤには悪いけど、この城の食堂に来てるのは、ケントロンタウンで働いてる魔族くらいかしらね〜。あの辺で暮してる子たちは、美味しいかどうかより、魔力回復出来るかどうかが大事だから」
マオやオピスが言っていた、食事=魔力回復、というのも間違いではないらしい。
でもやっぱり、美味しくて魔力回復できるごはんが1番いいってことだよね。
「ハナちゃんは〜魔力のことは気にせず、美味しいごはんとお菓子を作ってくれてればいいのよ〜。だからそんなに申し訳なさそうにしないで、ね?」
そう言って首を傾げて微笑む。
マリーさん…あなた本当に魔族ですか?天使じゃないんですか??
「私もできる限りこっちの食材で、美味しいごはん作れるように頑張ります!キリにも手伝えることがあれば、色々手助けしてあげたいし」
「そうしたら私も食堂に食べに行くわね〜」
…ということは、今はマリーさんはどこで食事してるんだろう?
上級魔族だから食べなくてもいいのか、アクリの街にあるらしいお店に行ってるのかしら。
「それはそうと、ハナちゃんはお願いがあって来たんでしょ〜?」
「あっ!そうでした!」
お部屋の綺麗さと、マリーさんの慰めにすっかり忘れてた!
本来の目的は、マオの部屋を綺麗にしてもらうための、清浄魔法?とやらをお願いしに来たんだった。
「あの、魔王の部屋の扉から、私の部屋に続いてるのはご存知ですか?」
「あの開かずの扉でしょ〜?聞いてるわよ〜」
「私の部屋はいつも通りなので良いんですけど、魔王たちと一緒に食事をとることがあって、全員揃うと私の部屋では手狭でして…」
マオ、オピス、キリ、そして私であの部屋のキャパシティは大幅にオーバーしているのだ。
それに、マオ自身は無頓着のようだったけど、やはり部屋は綺麗な方がいいと思うし、あのベッドでも少しは休めた方がいいと思う。
魔力ゼロの人間のお節介かもしれないけれど。
「魔王様からは、部屋に入っていいって連絡貰ってるから大丈夫よ〜。お茶飲んだら行きましょ」
先回りでマオが全部手配してくれているみたいだ。
肩にくっついたままのカイムといい、心配性なのか過保護なのか…はたまた自覚が無いだけで、私はそんなにヤバイのだろうか…?
「ハナちゃんの部屋も見てみたいのだけど、いいかしら〜?」
「全然大丈夫ですけど、マリーさんの部屋と比べたらウサギ小屋みたいなもんですよ…?」
「異世界のお部屋って興味あるわ〜」
立ち上がり、くるりと回って喜ぶマリーさんに、思わず苦笑する。
一応ささっと部屋片付けてきてよかった…!
「ちなみに清浄魔法っていうのは、こんな感じ〜」
私のカップが空になったのを見計らって、マリーさんがテーブルに手を伸ばす。
風が可視化したように、白いものが小さなつむじ風のように舞う。
「わー…!すっごい便利…!」
カップの底に薄ら溜まっていたお茶の雫も、お皿に残っていたパウンドケーキのくずも、元から無かったかのように綺麗になっている!
思わずお皿を手に取って触ってみたけれど、ベタベタした感じもなく、まるで新品そのものだ。
「こ、この魔法があれば、本当にお掃除要らずですね…!?」
「アンデッド系の魔獣にも効くわよ〜」
そんな使い道が…できればそこに使っているところを見ることがありませんように…!
「さ〜!行きましょう〜」
「はーい!」
マリーさんに手を引かれて立ち上がる。
羽毛…ふわふわ…幸せ…!!
片手に天使の羽、もう片手にキリに貰ったお肉を持って、私はお姫様の部屋を名残惜しくも後にした。
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30話以上投稿させていただいて今更ですが、タイトルを考えるのが苦手です…( ˊᵕˋ ;)