焼きたてパンに勝るものなしです
ピピピッという電子音で、ことのほか熱中して読んでいた本から視線を上げる。
「一次発酵おわりっ!」
さて、ちゃんと膨らんでるかな?
ボウルの中を覗き込むと、ふかふかのパン生地はきちんと2倍程度に膨らんでくれている。
ボウルから取り出し、生地を6等分に切り分けたら、ひとつひとつをくるくると丸めてラップをかけておく。
その間に洗い物を済ませておいて…っと。
「今回はコッペパンにしようかな〜」
閉じ目が下になるように、細長く成形する。
コッペパンなら色んな具材も挟みやすいし、どんなのでも合うしいいよね!
二次発酵の間に具材も作っておこうかな。
こっちの世界のお肉は、昨日のカレーで使い切ってしまったから、冷蔵庫にあるものを使うしかないんだけど…。
まぁ今回は試食みたいなものだから、パンがメインなのでいいとしよう!
またキリにお願いしてお肉貰わないとな…今日の夜ごはんはマオも食べるって言ってたし、もしかしたらオピスとキリも来るかもしれないし。
「パンがどんな感じで焼き上がるか分かんないし、具も簡単なやつでいっかー」
冷蔵庫から卵とウィンナー、キャベツを取り出す。
オピスが卵大好きって言ってたから、近いうちにぜひこっちの卵も手に入れたいところだ。
でも普通の鶏卵を、ずいぶん小さい、って言ってたのが気になってるんだよね…。
ダチョウの卵くらいなら理解の範囲内だけど、それより大きかったらちょっと怯むわー…。
卵は沸かしておいた熱湯の中に入れて放置したあと、固茹でになったら刻んで、マヨネーズと黒胡椒を入れて混ぜる。
キャベツは葉っぱ2枚くらいを千切りにして、ソーセージは切れ目を入れて軽く焼き目を付けておく。
「二次発酵終わるまでお掃除でもしようかな」
ていうかどうにかして時間潰さないと…!
部屋がピカピカになった頃、再びキッチンタイマーのアラームが鳴った。
割れ目もなく、つやつやに膨らんだ生地を見て、1人でニンマリしてしまう。
つや出しのために、表面に刷毛で牛乳を薄く塗ったら、掃除の途中で予熱しておいたオーブンにIN!!
「神様マオ様〜どうかキチンと膨らみますように〜」
オーブンの前で柏手を打つ。
まぁ正直、ここまで発酵してればもう失敗もないとは思うんだけど…。
焼き上がりを見てみないと何とも言えないしなぁ。
掃除も終わり、焼くのも15分ほどなので、オーブンの前でじっと見守る。
「まさかアラサーで異世界召喚とはね〜…」
今巷でそういう小説が流行っているのは知っている。
そのセオリーから行くと、異世界に召喚されたり転生したりした主人公は、周りが驚くスキルや技術を持って、冒険しながら異世界を救ったりするんだと思ってた。
それが魔力ゼロ、スキルゼロ!向こうの世界で培ったパソコン打ちの技術は、こっちでは全く役に立たない!
唯一不思議なこの部屋はマオの部屋からしか行けないから、冒険って訳にもいかないし…。
そもそも生まれたてスライムな私が、よりによって魔族領側の魔獣なんか倒せるわけ無いどころか、1時間も持たず死亡確定だ。
とにかく、帰る方法はマオやオピスが探してくれてるし、私は私に出来ることをやるしかない!
と言っても精々ごはんを作るしかないのが切ない…。
「毎日ヒマ持て余すくらいなら、キリのとこで手伝いでもしようかなぁ」
でも食堂はほとんど人いないって言ってたし、今まで1人で切り盛りできてたんだから、いらないって言われそうな気がしなくもない。
ステーキ醤油が好評だったらしいから、もっと色んな料理を出せるようになれば、お手伝いも必要になるかなぁ。
今日、マリーさんに会いに行く前に、厨房に寄ってみようかな!
「できたっ!」
ピロピロとメロディーが鳴り、パンが焼きあがった!
ミトンを装備して、そっと鉄板ごと取り出す。
「成功…してそう?」
牛乳を塗ったおかげでツヤツヤのパンは、給食のときに出てきたコッペパンそのものだ。
シンプルだけど、こういうのが美味しいんだよね〜。
時計を見れば、少し早いけどそろそろお昼の時間だ。
少し冷ましてから、真ん中に半分くらいの深さまで切込みを入れると、バターと小麦のいい香りが広がった。
「少し断面が荒い感じがするけど…」
やっぱり小麦粉の違いかな?
キリに作ってもらった物ほどではないけど、気泡の入り方が荒いような気がする。
手に取った感じは変わらないんだけどなぁ。
単純に技術の差かもしれないんだけど。
とはいえ食べられそうなのは間違いないので、あらかじめ作っておいた卵フィリングと、もうひとつは千切りキャベツの上にソーセージとケチャップを乗せて…。
「卵サンドとホットドッグ完成〜!」
見た目はめちゃくちゃ美味しそうだ!
お行儀悪く、台所で立ったまま、卵サンドにかぶりつく。
「んっ!ちょっとギュッとしたパンだけど美味しい…!」
むしろ今までの小麦粉で作っていたものより、小麦の味が濃く感じられる気さえする。
バターを練りこんだおかげで軽い食感だけど、噛めば噛むほどパン自体の甘みを感じられる。
今までよりこっちの方がおいしいかも…!
これは早速ドライイーストを持参してキリの所に行かねば…!!
でも魔族の好みに合うかどうか…と考えながら、立ったまま次のホットドッグに手を伸ばした。
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