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久しぶりのゆっくりした朝です


「めちゃくちゃ寝た…」


寝すぎた朝って意外とスッキリしないのよね。

ぼうっとした頭のままベッドから脱出する。

OL時代には考えられなかった優雅さだと思う。


「…なにこれ?」


リビングの机の上に、片手に乗るくらいの大きさで、黒いふわふわしたものが置いてある。

昔こういうキーホルダーあったよなあ…それにしても誰が置いて行ったんだろう?

曲がりなりにも魔王の自室から繋がっている私の家に、部外者が入り込むとも思えない。

ということはマオか、オピスが置いて行ったのかしら。

危ないものには見えないけど…。


恐る恐る指先でつついてみる。


「わっ」


ピンッと二本の耳が、跳ねるように持ち上がった。

ウサギの耳のような形のそれは、アンテナのように角度を変えてぐりぐりと動いている。


「生き物…?」

『あ、ハナちゃん、おはよー』

「ひゃあっ!」


思わず手に取ったもふもふから聞こえてきたのは、紛れもなくマオの声だった。


「マオ!?どーしたの!?働きすぎてちっちゃくなっちゃったの!?」

『落ち着いてハナちゃん。これ通話用の魔物だから』


少しくぐもったようなマオの声。


『これ、カイムっていう魔物なんだけど、噛み付いたりしないから大丈夫。それで今日おれちょっと忙しくて、マリーのとこ着いて行けないから代わりに…ってハナちゃん聞いてる?』

「えー!?なにこれめちゃくちゃ可愛い!飛んでる!」


カイムと言われた魔物は、もぞっと体を震わせたかと思うと、まん丸な体の両脇からコウモリのような羽を羽ばたかせ、ぱたぱたと飛んで私の肩にとまった。

可愛い系の魔物代表って感じ…!


『おーい』

「あっごめん!」

『…えーと、今日おれ着いていけないから、なんかあったらコレで連絡してほしいのね。通話終わると耳が寝るから、話したいときはまた耳持ち上げて』

「わかったぁ…!」

『勝手に入ってごめんだけど、机にマリーの部屋までの地図置いておいたから。まぁ人のいるところならトラップもないし、分かんなくなったら連絡して』

「はーい!ありがとう!」


正直マオの話はあんまり耳に入ってないけど、要はケータイ渡してくれたようなもんよね。

それよりこの子めちゃくちゃ可愛い…魔物ってもはやお肉のイメージしか無かったけど、こんな可愛いのもいるんじゃーん!


一人暮らししてるとお留守番が可哀想でペットは飼えなかったけど、もしかして今の環境ならいけるのでは…!?


『ハナちゃん聞いてる?大丈夫?』

「はいはい大丈夫!あっ、マオたち今日はお昼と夜、ごはんどうする?私午後からマリーさんのとこ行こうと思って」

『ああ、いいんじゃない。マリーも今日は1日部屋に居るって言ってたし。おれは…夜は帰るよ』

「じゃ一緒にごはん食べよ!」

『なんかこそばゆいな…。そういやキリが精製した米と小麦置いてったよ。玄関に置いてある』

「早っ!」


そう言われて玄関に移動すると、大きな麻袋が2つ置いてある。

ということは今日は異世界のお米と小麦粉でお料理ができるってことだ!


『ハナちゃんが昨日あげてたソース、好評だったみたいだよ。興奮して駆け込んできたから止めた』

「それは本当ありがとう…!」


寝起きでテンション高いキリの相手とか、ムリ、ゼッタイ!!


『じゃ、なんかあったら連絡して』

「うん、ありがとう!マオもお仕事無理しないでね」

『…ありがとう』


そう言うとマオは、というかカイムは、私の肩にとまったまま、ぺたりと耳を畳んで元の丸い形に戻った。


それにしてもマオは心配性というか、過保護というか…。

魔王って勝手に冷酷無比なイメージあったんだよね、今までの創作物からすると。

勇者の討ち果たす敵の親玉!みたいな…魔族もそうだけど。


「朝ごはん作ろっかなぁ」


今日は1人だし、いつものトーストとサラダでいいや。

朝ごはん食べたら早速、キリが持ってきてくれたお米と小麦粉の様子を見なきゃ!


「お前は何にも食べなくていいのかね〜」


そう呟いてカイムを見る。

電源オフモードって感じで、静かに肩にくっついている。


トーストは1枚、サラダは冷蔵庫にあるもので適当に。

慣れたはずの朝食のはずが、こちらに来てたった1日で、なんだか静かなものに思えてしまう。


「静かだなぁ…」


窓の外を見ながら思わず呟く。

本日も晴天なり、お洗濯もしてしまおうか。

空いたお皿を下げながら、外干しすべきかどうか考える。


「魔物…みたいなものも飛んでないし、大丈夫でしょ。多分」


洗い上げた食器を拭いて、ベランダに出る。

遠くに山が見えるけど、そこまではただひたすらに平たく街が広がっていた。


「1番手前がケントロン、その奥がアクリ、荒地には辺境伯、か〜。城の中でもこれだけ心配されるんじゃ、城下町に行くのはまだまだ先かな」


指折り数える。

オピスが言うには、ケントロンタウンは安全安心というらしいし、そこまでなら行けるのかな?

でも私の目的はアクリにあるご飯屋さんなのよね…!


びゅう、と風が吹く。

どういう仕組みか分からないが、カイムはしっかりと肩にくっついたままフワフワと揺れている。


この天気と風なら、洗濯物もよく乾きそうだ。

部屋に戻りそんな事を考えた。

お読みいただきありがとうございます。

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