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誰かがいるということを実感してます

マオ視点でお送りします


彼女を呼んでしまってから丸1日経った。

泣いて喚いて返してくれと言うかと思ったら、思ったより早く順応している。


呼び出した側から言うのもなんだが、初めて彼女のステータスを見た時は、正直なんでこんな女の子が?と思ってしまった。


魔力もないが、魔力に干渉されない。

それは無力でもあり、この世界ではある意味では無敵でもある。

本人は全く気がついていないようだけれど。


彼女なりにおれたちの役に立とうとしてくれているのが可愛らしい。

彼女1人を放り出すつもりはないが、自分の目の届かないところでもオピスやキリがいれば、そしてあの魔石があれば、相当のことは大丈夫だろう。

特に歳の近いキリと引き合わせたのは良かったのかもしれない。


「しかし、とられちゃったかな」


ため息をついて、目の前の書類の山を切り崩すように目を通していく。

どれもこれも、更にため息の出るようなものばかり。

オピスは優秀だが、最終的には全て自分が目を通したい。


もともと1つに纏まるという性質を持たない魔族を纏めるのだ。

もう覚えていないが、初めの頃より随分穏やかになったとはいえ、まだまだ仕事は多い。


伸びをして、彼女のいる部屋に続く扉を眺める。

あれからあそこは閉まらなくなってしまった。

開かずの扉が一転、閉まらずの扉になってしまったのは不可解だが…。


不意に、扉の先が薄暗く光り、物音がする。

月は既に真上に上がっている。

こんな時間まで起きていたのだろうか?


気になってそっと彼女の玄関を覗く。

甘い匂いが鼻をついた。

短い廊下の先、キッチンで影が揺らめいているのが見える。


彼女は気づくといつでもキッチンに立っている。

始めは無理しているのかとも思ったが、どうやら本当にやりたくてやっているらしい。


驚かせないよう、玄関の壁を軽くノックして名前を呼ぶ。


「ハナちゃん?まだ起きてるの?どうかした?」

「わっ」


がちゃんと音がして、慌てたように彼女が顔を出した。


「ごめん、うるさかった?」


寝間着のまま、手には分厚い手袋のようなものをはめている。


「うるさくないけど、寝れない?どした?」

「これ、明日マリーさんのとこ行くのに、手土産」


そう言って1度キッチンに引っ込み、網の上に置いた茶色い長方形の塊を見せる。

甘い匂いの元はこれだったのか。


「完全にこっちの食材だから、魔力は関係ないけど、パウンドケーキっていうお菓子」

「いいにおいがするねぇ」

「今日作ってちょっと時間置いたほうが美味しいから」


どうやら本当に料理が好きらしい。

ことあるごとに、これくらいしか出来ないから、と彼女は言う。

魔力の補充のという目的しかなくなっていた食事に、こんなにも心を砕けるというのは、本当に豊かで尊いものだということを、本人は気づいていないようだ。


「マオたちの分もあるから、明日のおやつに皆で食べようね」

「こんなにいい匂いなのに、今日食べれないとはねぇ」

「お菓子作りはそれが鬼門だよね~」


彼女は苦笑して言った。

食事だけでなく、デザートまで作れるのは、彼女だからできるのか、異世界ではそれあ当たり前なのか…。


「マオはまだお仕事してるの?」

「あー、うん。もう少し残ってるかな」

「ほんと、寝なくていいなんて信じられない」


皆が眠りと休息を必要とする分、静かに仕事ができるのだ。

それくらいでないと、バラバラだった魔族を統治することはできなかっただろう。


「ハナちゃん、明日の朝は無理して起きなくていいよ。疲れたでしょ」

「えへへ、じゃあ明日は朝寝坊させてもらおうかな」

「早く寝なよ。夜中にごめんね」

「ううん、ありがとう。おやすみね」

「おやすみ」


誰かと食事をとることも、おかえりと言われることも、おやすみやおはようを言うことも、最後に言ったのがいつだったか覚えていないくらい、昔の気がする。


一人きりだった部屋に、小さな生き物がいて、その気配がする。

ぱたぱたと歩く音、水を流す音、食器が当たる音。

ときたま漏れる光、いい匂い。


彼女がこちらで過ごしてまだ1日だというのに、なぜか懐かしい。


彼女を守らなくてはという気持ちが、罪悪感からなのか、単に弱い生き物に対する哀れみなのか、はたまた別の感情なのか、自分自身まだ図りかねていた。




お読みいただきありがとうございます。

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