不器用だけど慰めてくれたようです
「はい!次はにんじん剥いて!」
「まだ皮むきすんのかよ!」
え〜!と文句を言いかけたキリを制して、キッチンの引き出しからピーラーを取り出す。
「忘れてたんだけどコレあるんだった!こっちなら簡単だよ!キリでも出来る!」
「てめっ今バカにしたろ!」
いいからいいから、これなら相当不器用でもない限り怪我もしないから!
使い方を教えると、最初は怖々、しばらくすると楽しそうにピーラーで皮を剥いていく。
ちょっと剥きすぎな気もするけど、楽しそうだからいいか…。
「じゃあにんじんも切ってお鍋に入れて〜。ちょっとお鍋の中身、このヘラで掻き回してて。私お米炊いちゃう」
優しく!優しくね!?と念を押して、キリにバトンタッチ。
私は米びつからお米を計って、炊飯器へ入れる。
「そういえばさぁ、キリが見せてくれた食料庫に、これに籾がついたやつあったじゃない?あれってどうやって精米するの?」
「ゲッ!お前アレ食うの?」
「主食じゃない!」
「あんなもん腹は膨れねぇしよぉ。周りの茶色いの取るのは、おれの風魔法で一発だけどよぉ」
お米は日本人の心!籾つけたままならかなり日持ちもするらしいし、あれを使えればもっと魔力のとれるごはんになるんだから!
「お米の美味しさを知らないとは、キリもまだまだお子ちゃまだねぇ」
「は?やんのかてめぇ」
「今度精米したやつ持ってきてよ。美味しいごはんの魅力を見せてあげよう」
とか言っておいてタイ米みたいなやつなら要研究だけどね!
「これでよしっ…と」
炊飯器調理してみたくて、五合炊けるやつにしておいてよかった!
一人暮らしだとせいぜい二合かそこらが今までの最大量だったけど…今日初めてMAXまで使ったわ〜。
「お肉とお野菜に油が回ったら、お水を入れます!」
「水ってどっから出んだ?」
「説明はできないけどここから…」
レバーを上げて水を出す。
水を出す仕組みはもとより、どこに貯水してるのかしら。
まぁ今更悩んでもしょうがないけど!
「この火も水も、魔道具使ってる訳でもねぇのに、どうなってやがんだ…」
「だから説明できないって言ったじゃん。…さて、お鍋にひたひたにお水を入れたら、このまましばらく煮こんでいくよー!」
と、いうわけで、そうすると後はもうキリにやってもらうことはない訳なんだけど…。
「なぁなぁ。この冷てー箱ん中、食材入ってるけど使わねーの?」
ふたたび勝手に冷蔵庫を開けたキリが、不思議そうに言う。
「あー…その食材、食べても魔力回復出来ないんだよね、何故か」
「は?魔力のねぇ食材なんて意味ねぇじゃん!」
「ウッ…!!」
人の気にしてる、核心を着いたことをズバッと言いやがって…!!
「だからアンタのとこに食材貰いに行ったんでしょー!」
「ていうかお前、異世界人ってマジ?何が出来んの?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ!」
そう、まだ召喚されて日が浅いとはいえ、今のところ私が出来そうなこと、帰るきっかけになりそうなものも何も分かってないのだ。
マオやオピスが私を守ろうとしてくれてるということは何となく感じているので、せめてもの恩返しにでもなればと、異世界の食材を使って、食事を提供しているのだけど…。
キリの性格からして、私を責めようとして言った訳じゃないのは分かってる。
単純に、そう思ったから言葉に出しただけだ。
だけどそれがその分まっすぐに突き刺さる。
思わず唇を噛み締めた。
「あー!悪ぃ!よし!今度一緒に狩りに行こうぜ!おれも他の料理も教えてもらいてーし、お前も色んな食材使えるようになった方がいいだろ!?な!」
「ぐぇ」
矢継ぎ早にそう言って、私の両肩を掴んで前後に揺さぶる。
こ、これは、なぐさめて、くれてるのかな!?思考までシェイクされて、なんにも、…!!
「わか、わかった!わかったから、ストップ!」
「おっ!じゃあいつにする!?」
「いや、マオに許可もとらなきゃだし、明日はマオの部屋片付けたくてね」
あっ、マオの部屋って言っちゃった。
魔王の古い友達ってことになってるんだった。
我ながら魔王と呼ぶべきか、マオと呼ぶべきなのか迷う…でも使い分けしてると咄嗟のときに絶対こんがらがるしなぁ。
今度本人にどっちで呼んで欲しいか聞いてみよう。
「あ〜、オッサンの部屋汚ねぇもんなぁ」
「やっぱり!?そう思う!?寝なくていいからベッド使ってないって言ってたけど、使わなくてももうちょっと綺麗にしてほしいんだよね!」
私だけじゃなくて、同じ魔族同士から見ても汚いんじゃんかー!!私が潔癖なのかと思った!!
「えっ、あのオッサン寝ねぇの?」
「そう言ってたけど…魔族って寝なくても魔力があれば大丈夫なんでしょ?」
「そりゃねェだろ。夜行性のやつもいるけど、どっかしらで寝ねぇと体が保たねーよ」
みんながみんな寝なくて良いわけじゃないんだ。
当たり前といえばそうなのかも…?
でもまぁマオってステータス見ると、体力も上限突破してるみたいだったし、魔王だから、ってことなのかなぁ。
とにかく魔族も寝るってことは、ふかふかのお布団や枕もどこかで手に入れられるってことだ!
明日はマリーさんのところに行って、マオの部屋を綺麗にしてもらって、居心地のいい部屋にするんだ!
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