台所崩壊を阻止します
「えっとね、とりあえず靴脱ごうか」
うわー、なんかゴツゴツいってるし、床傷つきそうな靴、というか鎧だなぁ。
キリは渋々といった感じで玄関で靴を脱ぎ、またペタペタとキッチンへ戻ってきた。
「とりあえず聞きたいんだけど、なんでお風呂開けたの?張り紙しておいたのに!」
「紙はあったけど読めねーもん。アレどこの文字だよ」
あああ!そうか、言葉が通じるから文字も共通化と思い込んでいた。
今度オピスにでもお願いして、立ち入り禁止の文字だけでも教えてもらおう…。
「これどこで肉とか焼くんだ?水は?この箱に食料入ってんのか?」
「ちょちょちょっと待って!ストップ!」
矢継ぎ早に繰り出される質問に、両手を振ってガードする。
正直、普通にあるから使っているだけで、毎回使うガスコンロですら仕組みなんてわからない。
何となくはわかるけど、この調子で質問攻めにあっていたら、料理をしているところではなくなってしまう。
「大体アンタ来るの早すぎじゃない?」
「だって楽しみじゃん」
くっ…こいつ天真爛漫に笑いやがって…れ
ガタイはムキムキだけど、弟とかいたらこんな感じなのかなぁ。
「じゃーもう作っちゃうか!カレーは時間経った方が美味しいし!」
「カレー?」
「1つ言っておくけど、あんまりあれこれ聞かれても、私だってわかんないんだからね!私のいた世界では普通に使ってたけど、仕組みが理解できなくても、使えるようになってるんだから…」
「ふーん。しっかし狭ぇ厨房だなー」
「う、うるさい!」
キリを手で追いやって、足元の収納を開けて鍋を取り出す。どれぐらい食べるのかわからないけど、余ったら冷凍してもいいし、とりあえず1番大きいものを出しておいた。
鶏もも肉、じゃがいも、にんじん、玉ねぎは異世界産。
にんにくと生姜、市販のカレールウは魔法の冷蔵庫と魔法の調味料棚から取り出す。
カレー粉とかクミンとか、スパイスから作ってもまた美味しいんだけど、とりあえずはベーシックな日本のカレーにしようかなぁ。
にんにくと生姜をすりおろしにしていると、横手ぴったりと私の様子を見ていたキリが、我慢ならないと言うように声を上げた。
「おれもやりたい!」
「えーと、じゃあ野菜の皮剥いて、切ってもらおうかな」
「皮って食えねぇの?」
「食べられないこともないし、付いてるままの方が美味しい料理もあるけど、今回は剥きまーす」
そう答えて横目でキリを見る。
腰に刺していた剣…と言うには余りに大きすぎるそれをすらりと抜く。
「待ってーーーっ!?」
ここでそんな物騒なモノ振り回す気!?アンタさっき狭いって言ってたでしょうが!
「コレで剥いて!」
そう言ってキリに一般的な大きさの包丁を渡す。
「こんなオモチャみてーなのでぇ?」
「そんなモン振り回すだけのスペースはないの!」
まな板どころかキッチンテーブルごと真っ二つになってしまう!
「こんなチマチマした事したことねぇ」
「こーゆー下拵えが美味しいごはんの大事なとこなんです〜」
そう言い聞かせてじゃがいもと包丁を渡したはいいが、見ていてとても危なっかしい…。
そして巨躯を丸めてじゃがいもの皮を剥いているのは中々シュールだ。甲冑脱げばいいのに…。
「いて」
「言ったそばから手切ってるし!えーもう血が出てんじゃん!絆創膏…!」
「はぁ?こんなの舐めてたらすぐ治るぜ?」
そう言ってキリは切った親指をべロリと舐めた。結構ざっくりいってるよねそれ!?
慌ててリビングの救急箱を持って来ると、眼前にキリの親指が差し出される。
自分の怪我は良いんだけど、人の怪我って痛そうで見るのも嫌なんだよなぁ。
「…あれ?傷口は?」
「だから治るって言ってんじゃねーか」
ひらひらと振る手には何の傷も無い。
鬼らしい黒く長い爪が目前を舞った。
「鬼族にとっちゃこんなもん怪我のうちに入らねーし、鬼の回復力舐めんなよ?」
「……へー、スゴーイ」
魔族ってスゴーイ…。
要らなくなった救急箱を邪魔にならない所へ置き、つとめて冷静に料理を再開する。
お野菜を切るのはこのままキリに任せるとして、先に鶏肉を焼いちゃおう。
油を敷いた鍋に、お昼のうちに切り分けておいた鶏肉を、皮から入れる。
触りたくなるけどじっと我慢!
こうやって先に焦げ目を付けておくと、香ばしくなって美味しい気がするんだよね!
キリは皮むきに悪戦苦闘しているようなので、まな板の空いたスペースで先に玉ねぎをくし切りにする。
鶏肉が鍋底から剥がれるようになったら、玉ねぎ投入!じっくり時間をかけて飴色に〜なんて弱火にしたら一生飴色にならないので、そこそこの火力で、鶏肉の焦げをこそげるように混ぜながら炒める。
「剥けた!」
「そしたら一口大くらいに切って〜煮込むからちょっと大きめにね」
「丸ごとじゃダメなのか?」
「一口大って意味わかる…?」
確かに小さめのじゃがいもだし、料理によっては丸ごと使う場合もあるだろうけど、今回はベーシックなカレーライスだ。
大体これくらい、と指で輪っかを示すと、怖々包丁で切り始めた。
なんであのでっかい剣を出すときはあんなに意気揚々だったんだ…千切りとか絶対出来なさそう。
「切れたらお鍋に入れて!」
「へいへい。…鶏肉焼いてんのか?」
「そうだよ〜。生肉は私あんまり、っていうかほとんど食べないから…」
そういやこいつ生肉が1番美味いって言ってたんだった。
世の中ローストビーフとか牛肉のタタキとか、好きな人は鶏刺しとか生レバーとか食べるみたいだけど、お腹壊したらコワイし…。
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