プライバシーはありません
パリピたちの興奮冷めやらぬ中、私は玉座に座った角男に「下がれ」と冷酷に言われ、オピスと言うらしい男に手を引かれて、今廊下を歩いています。
この人の眼帯ってアレかな?マジックミラーみたいに自分側だけからは見えんのかな?廊下は絨毯が敷かれ、ストッキングのままでも比較的歩きやすい。ところどころに松明が焚かれている。ネズミーランドの某お化け屋敷みたいだ。
「あのー…」
「着きました。とりあえずこちらへ」
通されたのは重厚な木の扉を開けた先だった。め、めちゃくちゃ埃っぽい上になんだか湿っている。廃墟かなんか貸し切ってるの?
恐る恐る部屋に入って、かつてはフカフカだったであろうソファに腰掛ける。スーツ大丈夫かな…!
「いや〜一時はどうなることかと思いました!さすが神子様!何とか乗り切りましたね〜」
「いえいえそんな…」
ほっとしたように胸を撫で下ろして褒めちぎる眼帯男に、社会人スマイルで謙遜しようとして我に返る。
「ていうか何かの手違いでは…ちょっと記憶がないんでアレなんですけど、帰りたいんで…ここの住所教えてもらえればタクシー呼ぶんで…」
ポケットのスマホを取り出そうとして、家に帰った瞬間ソファに投げ出していたのに気づいた。
まじで記憶にないけど、なんか病気だったらどうしよう…内科?外科?そんなストレスなかったけど、もしかして精神科とかそういうところを受診しなければいけないのだろうか…。健忘にしたって突然すぎるし突拍子なさすぎない?
先ほどまでの混乱から、多少冷静になった頭の中でぐるぐると不安が回る。眼帯男はしげしげとこちらを眺めているだけだし、何か言ってよ!
「オピス…これどうすんだよ〜」
入ってきたときと同じように扉が軋んで、先ほど玉座に座っていた角男が入ってきた。えっやっぱりデカいじゃんこの人!目の錯覚じゃなかった!私が小柄(断固としてチビではない)とはいえ、軽く倍ほどはあるデカさだ。中の人は服とマントの下で竹馬にでも乗っているのだろうか。
「魔王様、お姿がさっきのままです」
「え〜だってお前、この人に見せちゃっていいか分かんないじゃん」
「口調は普段通りですが…」
ははん、設定ね、設定があるのね??魔王とか聞こえたけど、魔王設定の人なのね??
角男がぱちんと指を鳴らすと、黒いモヤのようなものが体を包んだ。モヤが晴れると、そこには大柄な、それでも普通サイズの範疇の、ボサボサ頭の男が立っている。歳は中年くらい?少なくとも私よりは年上に見える。さっきまでの黒いベールも剥がされていて、顔がよく見える。磨けば光りそうだけど、気だるい表情と無頓着そうな雰囲気で三割減ってとこね。
「あの〜角外し忘れてますよ?」
サイズが縮むと余計に目につく、はねた髪から除く、羊のような黒い巻角。
「あ〜コレは取れないんだよね。小さくするのはできるんだけど、そーすると魔力も落ちちゃうからさぁ」
ぼりぼりと頭を掻く。いや大きさどうなってるん?さっきのモヤなに?VR??
事態の飲み込めない私を一瞥して、角男、もとい魔王キャラの男性は私に近づいた。あっこの人コンタクトも外し忘れてる。赤い瞳がアンバランスだ。
「オピス、アレ出してアレ」
「はいはい」
眼帯男はいつの間にか持っていた手鏡を渡し、角男が私に翳した。そこには普段通り…いや疲れた私の顔が映るだけ。と思いきや、SF映画でよく見る場面のように、空中に液晶のような、文字のようなものが浮び上がる。
「ひえっ」
「うわ、一般人じゃん」
角男はさらに大きく頭を掻いてため息を吐く。
名前【カタバミ ハナ】
年齢【27】
職業【一般異世界人】
体力【30】
魔力【0】
ステータス【無し】
スキル【家事】
「…魔力0とか有り得んの?」
「神子様が居た世界に、魔力という概念が無ければ或いは…」
ちょっとこれどういう仕組みよ?年齢はともかく、体重とか乗ってないでしょうね!?
2人して液晶をしげしげと眺めている間に割り込んで、声を上げる。
「いい加減説明してくださいよ!ていうか何かの間違いなんで、家に返してください!」
角男は腰を屈めて、私の視線の高さに顔を寄せた。うっ、ちょっと好みのアンニュイな顔だけど、こちとら拉致されてんだ!心許すもんか!
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