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距離感がおかしいです

「オムライス…は〜、こりゃキレイだねぇ」

「オムが卵で、ライスはごはん!」


表情の乏しい人だな、と思っていたけど、マオは食べ物を前にするとちょっと目がキラキラする。最初は少し怖かった赤い瞳が、今では綺麗に見える。

にんじん強奪事件が頭をよぎり、赤くなりそうな顔をぶんぶんと振って冷ます。あれは、アレよ!そう!雛鳥が親鳥からごはんを貰うときと一緒なの!きっと!


「いただきますっ!」


私が邪念を払うように両手を合わせると、マオは不思議そうな顔をして聞いた。


「その、いただきますってナニ?呪文?」

「魔族はいただきますしないの?」


尚も不思議そうな表情のマオに言う。


「食材って元々は生きてたものじゃない?その命をもらうわけでしょ。だから感謝を込めていただきますって言うの」


そういえば別の宗教とかでは、食事の前に神様に感謝を伝えたりもするらしいけど、これは私なりの「いただきます」の考え方だ。


「なるほどね。生き物の命をもらって、ハナちゃんに料理してもらってこれが食えるんだもんね」


そう言うとマオは、おずおずと両手を合わせて、呟くように言った。


「いただきます」

「はいどうぞ、召し上がれ」


なんだか嬉しくなってスプーンを握る。

卵にスプーンを差し入れれば、柔らかく沈んでいって、鮮やかな赤いケチャップライスと一緒にひとくちで口に運ぶ。


魔獣の鶏肉、思った通り少し筋肉質だけど、そのぶんぎゅっとした旨みがある。小さめに切っても歯を跳ね返すような弾力と、噛めばほろほろと崩れる繊維。

これはシンプルにチキンステーキにしても美味しいかも!地鶏みたいに炭火で焼いてもいいけど、このキッチンでやるのもなぁ…。火災報知器とか生きてるのかな?キリの厨房を借りてもいいけど、あの地獄の炎のようなところで果たして上手く焼けるかどうか。


思案しながら咀嚼して、ちらりとマオを見る。

無言で忙しなくスプーンを運んでいるのは、美味しい証拠だ、きっと。

そっと麦茶の入ったコップを近づけるが、気づいてないようだ。魔王がオムライス喉に詰めて死ぬ…とかないでしょうね。


お互い無言で、スプーンが食器に当たるカチャカチャという音だけが響く。1人のときはずっと見るでもなくテレビを付けていたけど、静かなのに心地いい。


先に食べ終えたマオが一気に麦茶を飲み干して、自分の手をみて呟く。


「…魔力が回復してる」

「よかった!ホントはご飯も卵もこっちの物使いたかったんだけど、全部揃わなくて…」


マオはふっと笑って、見つめていた手をそのまま私の頭に伸ばす。

はいはいまた子供扱いのなでなでですね!?もう驚きませんから!


「ハナちゃんは優しいね」


頭上に来ると思われた手は、そのまま私の頬に触れる。魔王のくせに私と変わらない、私より大きくて長い指が頬を包む。そのまま親指を唇に滑らせてーー。


「ここ、赤いのついてる」

「ケチャップね!?ごめんね!?」


マオの親指がぐいっと唇の端を拭う。

お約束のやつ!!いや何のお約束!?そーいうんじゃないから!魔王だかなんだか知らないけど、私から見たらとりあえず普通のおじさんだから!!!

大混乱する頭でテーブルの上のティッシュを引き出す。マオが事も無げに、親指についたケチャップをペロリと舐めた。


「だからそーいうのやめんかい!!」

「えっ何、ハナちゃん怖い」


このトマトのソース美味いね。とか言ってるけど頭に入らない。あれだ、海外の人って頬にキスとかするじゃん?それと一緒なのよ魔族のコミュニケーションなの!頬にキス…キス!?とかされたことないけど!されなくていいけどー!!


「ところで、食べ終わったあともなんか言うの?」

「はぇ!?」


ほらこいつ全然気にしてない!


「あ、えーと、ご馳走さまって」

「ふーん」


そう言うとマオは、また両手を合わせて呟くように「ご馳走さま」と言った。


この人こんなんで大丈夫なんだろうか。魔王ともなれば、見てくれだけじゃなくて権力とか?地位とか?で寄ってくる女の人も居るんじゃ…。他人にそんなホイホイ色んなことしてたら、拗れたりするんじゃないの…。


そんなことを考えながらも私も完食する。ステータスミラーを見なくてもわかる。お腹いっぱいになっただけ!魔力とか微塵も感じません!


動揺を隠しながら空になった食器をキッチンへ運ぶ。シンクの中の洗い桶に水を貯めて、食器を漬ける。一人暮らしには必要ないと思って、食洗機とかいう便利なシロモノは無いので手洗いだ。一人分も二人分もそう変わらないからいいけど。


「それおれもやりたい、ダメ?」

「え、洗い物だよ?」


洗い物やりたがる魔王…どうなのそれ。


「助かるけど…お皿割ってケガしないようにね。滑るから」


やりたいならやらせてやろう!別に楽したいとかじゃないんだからね!

スポンジに洗剤をつけて、なぜか楽しそうに泡立てている。


「なんかさー、魔法でしゅぱっとキレイになるとかないの?」


杖を振ったら、散らかしていたものがあるべき場所に戻る、映画とかアニメでよく見るあの魔法。あれは私のようなそこそこズボラな人間にとっては夢なのだ…!


「ん、あー。アレは聖魔法の分類だから、おれは使えないけど〜」


そんな恐る恐る触らなくてもいいのに、というほど慎重にお皿を洗っている。大丈夫、正直一枚くらい割りそうだなと思ってるから!


「あ、確かマリーなら使えるよ。今日会ったハルピュイアの子」

「あー!使えそう!」


あの天使ちゃんね!ていうかマオにも使えない魔法とかあるんだ。なんとなく万能だと思ってたけど。


「おれは聖魔法意外なら割となんでも使えるけどね。まぁ誰にも得手不得手があるってこと」


器もコップもピカピカに洗い上げて、マオが満足気に言った。



お読みいただきありがとうございます。

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