大人も子供も大好きなアレです
食べたくないものを無理に食べさせるつもりもないし、と残りのにんじんを口に運ぼうとする。突然、マオの黒い角が頬に当たった。
指先からにんじんが消える。私の肩越しにマオが私の指から、直接にんじんを食べたと気付くまでに、多少の時間を要した。
「あ、ホントだ。甘い」
ぽりぽりと咀嚼しながらマオが言う。
いやちょっと待って。恋人同士がする、いわゆる「あーん」よりだいぶ上を行くコミュニケーションだったと思うのですが!なんならちょっと指ごと行ってたし!!
「…自分で食べて!そして離れて!!」
依然頬に触れたままの角を鷲づかんで、ぐいっと引き離す。くそっこいつビクともしねぇ…!!
「いたたた、ハナちゃんそこデリケートだから優しく」
「じゃあ退いてよお!」
埒が明かないので空いている方の手でにんじんを両断し、そのままマオの口に突っ込む。
満足したのかにんじんを咥えたまま、マオはぺたぺたとフローリングを歩き、ソファに座った。
そのままボリボリと音を立ててにんじんを齧っている。魔王としていいのかその姿は!
よし落ち着こう。魔王だろうがマオだろうが、見た目は四十路くらいのおっさんじゃないか。動揺することはない。ここからみじん切りコースだから、気を落ち着かせて!
気を取り直して、食べかけのにんじんの残りと、玉ねぎはみじん切りにする。食料庫にはなかったので、冷蔵庫からピーマンとにんにく。ピーマンは種を抜き、にんにく一欠片は皮をむいてみじん切りに。買ってないよなぁ、ピーマンとにんにく…なんなら朝開けたときは無かったよなぁ…。
一緒に出した鶏肉の経木を開く。きれいなピンク色に、うっすら白い皮がついている。肉質といい皮のぷつぷつといい、鶏肉よねコレは。すこし筋肉質そうではあるが、小さく切れば大丈夫そうだ。お肉は小さめに切る。
火にかけたフライパンに油を敷き、にんにくを炒める。今日は、というか恐らく暫くは仕事もないし、昼からにんにく食べたって大丈夫!のはずだ!
香りが立ってきたら鶏肉を投入して、色が変わるまで炒める。
にんじんを食べ終えたらしいマオが、こちらを窺っている気配がする。
「なんかいいにおいする」
「マオはこの後仕事だけどいいよね〜」
「?」
不思議そうな顔をしているマオは放っておいて、玉ねぎとにんじんも入れる。具沢山の方が美味しいもんね!こっちの食材入れれば、それだけ栄養というか魔力たっぷりなわけだし!
そうこうしているうちに、お米が炊きあがりました。早炊機能バンザイ!!これとチンするだけのレトルト白米にはどれだけ助けられたか…日本の食品メーカーと調理器具会社には、感謝してもし足りない。足を向けて寝れません。
玉ねぎが透き通って、にんじんにも油が回ったら、炊きたてごはんをフライパンへ。
切るように炒めて、あらかた解せたらここでまた日本の食品メーカー様の力を使います!トマトケチャップさんでーす!!ぱちぱちぱち!!
これイチから作ろうとしたら大変なことよね…トマト煮詰めて、お塩とお砂糖とスパイスと…。これに限らず、何とかのタレとか素って本当にすごい。
目分量で、炒めたご飯の上にケチャップをもりもりと入れ、上下をひっくり返すように混ぜる。
満遍なく美味しそうに色がついたら、お皿に盛って、杓文字で楕円形になるよう形を整えた。
彩りが足りないような気がするなぁ…冷蔵庫に何かあるかな?と野菜室を開ける。きみ、朝は居なかったよね?でもきっと私が使いたいから出てきてくれたんだね!えらいね!
と自分を無理やり納得させ、固くつぼみの閉じたブロッコリーを取り出した。時短したいので水で洗ってから小房に切り分けシリコンケースに入れ、電子レンジへ。電子レンジもシリコンケースも時短の神ですわ…!いつもありがとう…!!
「さて、オピスは居ないけどお昼も卵だ!」
「わーい」
ソファに座ったままこちらを窺っていたらしいマオが、嬉しそう(当社比)に声を上げる。
独り言のつもりで発した言葉に、思わぬところから返事が帰ってきて、改めて自分以外の誰かも食べる料理を作っているんだなぁと実感した。
卵は2人で3個いっちゃおう。なぜか在庫は補充されるみたいだし!できれば卵も欲しかったけど、聞きそびれてしまった。依然オピスが言っていた、火竜の卵…じゃなくて全然いいんだけど、この鶏肉も魔獣のものなら、卵もあると思うんだけどな。
ボウルに割入れた卵をよく溶いて、熱して油を敷いたフライパンへ入れる。半熟トロトロも美味しいけど、今日はしっかり焼きたい気分なのだ。
火が通ったら焦げ目が着く前に、フライパンをひっくり返して、あらかじめ盛ってあったケチャップライスの上に乗せる。包まなくてもいいのです!あとからぎゅっと手で形を整えれば!
きれいな楕円形になるよう成型して、上からさらにケチャップを掛ける。お絵描き…したいけど上手くいった試しがない。ハートくらいなら描けるかなぁと、思ったが、さっきのマオのにんじん強奪事件を思い出して止めた。
横に固めにチンしたブロッコリーを添えて…。
「オムライスできたよー」
「オムライス…?」
頭に?を浮かべながらも、マオはいそいそとテーブルに着席した。
にんじん半分近くを生で食べておいて、食べ切れるのだろうか…?
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小説ジャンル、異世界(恋愛)にしてはみたものの、恋愛描写が苦手です(;▽;)
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