重量級の優しさでした
「キリ、あのね、お願いがあるんだけど…」
「おう!なんだ?」
「ここの食材とお肉、少し分けて貰えないかな?」
料理人はこういうの嫌がるんじゃないかしら…!私から渡せるものはなんにも無いわけだし、一方的なお願い過ぎるのでは!?
無言に耐えきれず、ちらりとキリの表情を伺い見る。
「お前も料理すんのか!?いいに決まってんじゃねーか!好きなだけ持ってけ!」
ブォンと音がしそうな勢いで、再び右腕が振り上げられる。すごいデジャブ!今度こそ死ぬ!
ぎゅっと目をつぶった瞬間、存外に優しい力で頭を撫でられる。つ、ついに年下にナデナデされてしまった…!
「あぶねっ、お前が弱っちいの忘れてたぜ」
そう言って笑うキリは、不思議と年相応に見えた。
「ありが…おわあああ!」
お礼を言う前に、目の前に麻袋いっぱいのじゃがいもを押し付けられる。前が見えん!そして重いしこんなにいらん!
「キリ!自分で必要な分持っていくから!こんなに要らない…!」
足が産まれたての小鹿ちゃん状態だ。長年のデスクワークにこの重量は無理…!!
キリは新しい麻袋を用意してくれたので、そこに必要な分だけ自分で選んで詰めていく。
野菜はじゃがいも、にんじん、玉ねぎしかないのでそれを少しずつ。お肉は下拵え済みのものを経木に包んでくれた。
油断すると必要以上のものを無理やり持たせようとするので、注意が必要だ。久々に実家に帰った時のお母さんかお前は!
「お前さー」
「お前じゃない、ハナ」
「ハナ、おれもお前の料理食ってみたい」
結局かなりの重さになった麻袋はキリが抱えてくれて、一緒に食料庫を出る。
「これから昼メシの支度あっから、夜行く!」
「いいけど、口に合うかは分かんないよ?私は生肉は食べないし…」
「いーよ!」
そう言って笑う。こいつ可愛いところあるじゃん…弟みたい。見た目同い年のムキムキマッチョだけど。
「ハナちゃん、食材もらえた?」
厨房に戻ると、マオが焼けたおイモをつつきながら顔を上げた。居なくなってたらどうしようかと思った…。主にこの荷物を!
「オッサン、これからコイツのメシ食うんだろ?おれも夜行くから!」
「そういうことになったみたい…」
マオはぽりぽりと頬をかいて、真剣な顔つきになった。
「キリくん、ハナちゃんの料理はね…」
えっ何を言い出そうとしてるのこの人。魔力ないとか言うんじゃないでしょうね?こちとらそのために命懸けでここまで来たというのに!
「めちゃくちゃ美味しいから覚悟して」
「無駄にハードル上げんな!」
珍しく真面目な顔したと思ったらそれか!嬉しいけど、生肉至上主義のキリの好みに会うかも分からんのに余計なことを!
キリは目を輝かせて楽しみにしているみたいだし、お昼の前から夜の献立に悩まないといけないなんて…。今までは自分の食べたいものだけ作ってたし、面倒だったらコンビニや外食でも良かった。
それが他人に食べさせようと思うと、こんなにも考えなくてはいけないものなんて…世の中のお母さん方に敬礼…!
キリは当然のように麻袋をマオに渡して、ぶんぶんと手を振って私たちを送り出してくれた。
来た時と同じように、マオに手を引かれて城の廊下を歩く。
「ハナちゃん大丈夫?疲れた?」
「色々と衝撃だったけど大丈夫」
「キリくん、悪い子じゃないんだけど体力バカだからなぁ。疲れたら言ってね」
振り向きながらマオが言う。こっちに来てから、色んな人に頭を撫でられるし、マオは大丈夫?って口癖のように言うし、まるで子供のようで少し居心地が悪い。
そのままマオの自室に入る。オピスは私の部屋にも居ないようだ。行きがけに言いつけられたマオの仕事に取り掛かっているのかもしれない。
急いで炊飯器にお米をセットする。メインのお米があれば、もっと魔族向けのごはんが作れるはずなんだけどなぁ。今度キリに使えるようにしてもらおう。
もらった鶏肉をひとまず冷蔵庫に入れようと、扉を開ける。
「…あれ?」
冷蔵庫の中身がなんだかおかしい。正確に言うと、さっきと中身が微妙に違っていて、使ったはずの物も補充されているようだ。
朝、2つ使ってスペースの空いているはずの卵は、当然のように全部揃っている。
…うん、考えるのは止めよう。便利でいいじゃん!ね!
自分に言い聞かせながら、お米が炊けるまでに下拵えをする。オピスが居ないんじゃ、卵使ったお昼ごはんにしなくてもよかったかな。まぁいいか。
お昼だしそんな品数なくてもいいよね。
麻袋から紫玉ねぎとにんじんを取り出す。玉ねぎの皮を向くと、紫色は皮だけで中身は真っ白だった。向こうでは紫玉ねぎは中も表面は紫色なんだよね。これならこのまま使えそう。
にんじんは、スーパーで売ってるものよりもごつごつして不格好だけど、無農薬のってこんな感じなのかな?そう考えると、野菜がきっちり同じ大きさで同じ形な方が不自然なのかもしれない。
皮をむいて薄く切り、生のまま齧ってみる。しっかりした食感と甘みと、普段使ってるものよりそのものの味が濃い。
「こんなおいしい野菜、あんまり食べないなんて勿体ない…」
「へー、ハナちゃん野菜は生で食べるんだ」
「おわっ」
いつの間にか背後に立っているマオに仰け反りつつ答える。
「すっごく美味しいよ!マオ…?魔王?も食べてみる?」
「うーん…」
マオは唸って私の顔と、指先に挟んだ残りのにんじんを見比べる。まぁ、生卵も日本人しか食べないとも聞くし、やっぱり普段と違う食べ方には抵抗あるのかなぁ。サラダとか作っても食べないのかしら。私は食べたいからいずれ作るけどな!
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