厨房は戦場です
「魔…マオのお陰でびっくりしただけで済んだし、本当に大丈夫」
「詫びと言っちゃなんだが、今度、特別に肉捌く所も見せてやるよ!」
そう言ってキリは豪快に笑う。お魚はある程度なら自分で捌けるけど、肉…肉か…!
引き続き青い顔をしているであろう私を無視して、キリが作業台に向き直る。
だいぶ湯気も晴れてきて、厨房内が見渡せる。
壁際に設置された石造りの長い台がキッチンだろうか?端ではごうごうと炎が燃え盛り、そこに無骨な鉄の板が敷かれている。あれがフライパン?ってことかな。だいぶゴツゴツして分厚いけど…。
その隣にあるでかすぎる板がまな板の代わりだろう。反対側にはシンク…というか石が掘り窪んでいて、壁に設置された金属の太い筒から、水が出しっぱなしになっていた。お世辞にも綺麗とは言えないが、一般家庭には到底ないような大きさの鍋が、無造作に積まれている。
部屋の中央には大きなテーブルがある。キッチンとは違い、大理石のようなつるりとした面だ。ここで食材の下ごしらえなどをするんだろうか。
あとは食器棚や調理器具が入っていると思われる棚が、壁際に並んでいる。
こういう城…というか大きな施設の厨房なんて見たことは無いが、かなり広いスペースだ。一人で動き回るには広すぎるくらい。
「ここでイモやら肉を焼くんだぜ。おれは肉は生が一番うめーと思うけど、焼いた方が好きって酔狂な奴もいるらしいからな」
キリはそう言って、いつの間にか用意していたらしい巨大なカゴから、洗ってあるらしいおイモをゴロゴロと鉄板の上に撒いた。
長時間熱された鉄板の上でぷしゅぷしゅと水が蒸発し、みるみる焦げ目がついていく。火力は強火一択らしい。
驚くべきことに素手でおイモを掻き回し、満遍なく焦げ目が着いたら鉄板の端に寄せる。
空いたスペースに血の滴るお肉を、これまた豪快なデカさのまま、べちべちと並べていく。皮と肉の感じから、どうやら鶏肉みたいだ。これ魔獣のお肉なんだよね…切り分けちゃえば普通のお肉みたい。でかいけど。
火力がそのままなので、端に寄せたとはいえおイモはこんがりを通り越しているし、お肉は一瞬で焼き目が付いた。それをそのまま素手で皿に移して完成!
「豪快だね…!?」
ひと仕事終えた!という感じのキリに、なんとかそれだけ言う。味付け一切なし!素材の味そのまま!って感じだ。
でも、マオやオピスが言うように、魔族にとって食事は魔力摂取が目的のみ、というのなら、これで十分なのかもしれないし、そもそも食生活が私の世界とはだいぶ違う。見学をしに来た私がとやかく言うことではない。
「まだ昼メシまで時間があるから、食料庫も見ていくか?」
「う、うん!」
ちらりとマオを見ると、行っておいでと言わんばかりに、テーブルに腰を掛けて手をひらひら降っている。着いてきてはくれないのね…!
でもこの魔石と魔法が効かない体質(?)があれば、そうそう危険なことは無いはずだ。キリもたぶん豪快で子供なだけで、悪い人ではないし。鬼だけど。
キリに続いて、隣接しているらしい木製のドアを開けて入る。
「…わー!」
薄暗いが広い。石造りの部屋は先ほどの部屋に比べて、かなりひんやりしていて、食糧の貯蔵には良さそうだ。棚もいくつかあるが、ほとんどは空っぽだ。
部屋の隅に置かれた木箱を覗き込んでみる。後ろから続いて覗き込んだキリが言う。
「冬の間はイモとか穀物とか、そんなもんしか置いてねーんだ。そもそも野菜なんか大して魔力もとれねーから、あんまり食わねぇしな〜」
確かに、箱の中には麻袋に入れたれた小ぶりなじゃがいもがゴロゴロと入っている。あとは巨大なにんじんと、紫色だけど、玉ねぎかなぁ?紫玉ねぎって向こうにもあったもんね。
これだけしか見てないから何とも言えないけど、食材自体はそんなに変わらないんじゃないかしら。
それと籾のついたままのお米?かな?使えそうだけど、脱穀の仕方が分からない…。床には穂の付いたままの小麦が、無造作に束ねて積まれている。
パンは朝ごはんに出てきたので、小麦粉はどうにかして挽いているんだろうけど。
「お肉は置いてないの?」
周りを見渡してふと思う。冬で葉物などの食料がないのはいいとして、ここは野菜とか、常温で置いておけるもの専用のスペースなのだろうか。
「肉なんてその辺の魔獣を狩りゃいいんだよ」
「なるほどー…」
「おれの足なら城下町の外まで、30分もかからねぇからな」
ふふん、と胸を張る。城下町には降りたことはないけど、私の部屋から見えた様子では相当広そうだったし、キリの移動速度がどんなものかも分からないけど、この誇らしげな感じからすると凄いことなんだろう。
そしてお肉は料理番が調達するのね…。いくら私に物理も魔法も効かないとはいえ、とても真似できそうにない。
ここはなんとしてもキリに下拵え済みのお肉を頂かなければ…!!
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