鬼にも出会いました
「さ、着いたよ」
「な、なんかすごい音がするけど!?」
到着と言われて目の前にある扉からは、厨房からは聞こえないはずの、断末魔の悲鳴のような音が漏れ出ている。
怯える私を他所に、マオが扉を押し開くと、ものすごい熱風が吹き出した。
「キリくん、いる〜?」
扉を開き切ると、もうもうと立ち込めていた熱気と湯気が和らぐ。しばらくそのままでいると、湯気が薄れて人影が見えてきた。
「んだよオッサン、メシならまだだぞ」
ーーーそこに現れたのは鬼でした。
燃えるような赤い髪は、襟足だけ長くて束ねられている。額にはマオ程ではないにせよ、立派な角が真っ直ぐ2本立っている。
2m近くありそうな身長に、厨房でその装備いる?と聞きたくなるような甲冑の上からでも分かるガタイの良さと、腰に刺した規格外の大きさの太刀…!
「パンツは虎柄なのかしら…」
「ハナちゃん?聞いてる?彼はキリくん、最近この城で働き始めたんだよ。鬼族の子」
目の前でマオの手がひらひらと振られて、はっと我に返る。
「は、はじめまして!ハナと言います…!」
「おいオッサン、ガキの前でガキ扱いすんじゃねーよ」
ちっ、と舌打ちして私を見下す。わー、立派な犬歯…!
マオに初めて会った時とは違う、物理的な恐怖が襲う。見た目の年齢は私と同じくらいだけど、それと実年齢とが釣り合わないのはもう履修済みだ。鬼族の“子“と言ったって、どうせ300歳とかなんだろ。もうびっくりしないからな!
「威嚇しないの。ハナちゃんはキリくんより年上だよ〜」
「「えっ!?」」
「キリくんは15歳だっけ?」
こんな15歳がいてたまるか!老け顔とかそういうレベルじゃねーぞ!!
「鬼族は成長が早くて、10歳くらいから200歳くらいまではずっとこの見た目なんだ。面白いよね」
そう言ってマオが笑う。いや笑えない…超年上美少年のオピスもそうだけど、遥かに年下なのに見た目が同年代のムキムキマッチョって…脳がバグるわ!!魔族に年の差恋愛とか関係ないんだろうなぁ…。
「というわけでハナちゃんはきみよりお姉さんなんだから、ちゃんと敬うように」
私の胴ほどありそうな腕がふっと持ち上がり、何かを思案するように顎に添えられる。
「お前何歳だよ」
「…27歳です…」
なにこの、お前どこ中だよ?みたいなやつは!
社会人になってからは元より、学生時代もこのタイプの方々とはお付き合いがなかったので、非常にやりづらいです…!
「なんだババァじゃねーか!」
「バッ…!?」
ぎゃはは!と腹を抱えて笑う。
待って落ち着くのよハナ。確かに15歳の時からしたら、倍近く年の違うアラサーは随分と大人に見えた。こいつは見た目同い年でも、脳内は15歳の子供なのよ…!怒っちゃダメ!
「こら」
ズビシッ!とすごい音がした。デコピンってこんな音するんだ…。
マオに中指でおでこを弾かれたキリが、呻きながら額を抑えてよろめく。この巨体が痛がるデコピンってどんなんよ。中指折れなかった?
「この子、中身はまだ子供なんだよね。気を悪くしないでやって。ハナちゃん、キリくんに聞きたいことあるんでしょ?」
そう言って私の背中を軽く押す。
そうだった、厨房が見たくて、ついでに食料庫も見せてもらって、更に使えそうな食材があれば譲って欲しかったんだった。
この鬼族にお願いするのはめちゃくちゃハードル高いけど、マオが居てくれるなら大丈夫…のはず!
「あの、厨房見てみたくて、あと、朝ごはんありがとう」
必死でそれだけ言う。食材についてはキリの反応を見てからにしよう、そうしよう。
額を抑えていた指の隙間から、キリが私をジロリと見下す。手を下ろして見えた表情は、打って変わってきらきらと輝いていた。
「おっ!お前メシ作りに興味あるのか!いいぜ!好きなだけ見ろ!」
「ひぇ、はい」
「いやー、魔族のやつらメシなんか興味ねぇ!って奴が多くて作りがいが無かったんだよな〜。朝メシ美味かったろ?今はさみーから大したもんねぇけど、食料庫も見てけよ!な?」
そう言って勢いを付けて私の肩を叩こうとした。やばい、私の頭よりでかいこの手のひらで、この勢いで叩かれたら、アザなんかじゃ済まない…!
目をつぶる暇もなく体を固くすると、バチッという音と共に、キリの手が空中で弾かれた。
「うおっ、なんだこれ!」
「…魔石の結界がうまく機能してくれて助かったよ」
ふー、とため息をついて、マオが頭を搔く。
「キリくん、ハナちゃんは普通の人間の女の子なんだから、1000分の1くらいの力で優しくね」
ポケットに入れたままの魔石が、ほのかに暖かくなっている。そっか、魔法は効かないけど触れるから気をつけろって、オピスも言ってたんだった。
どうやらオピスの言う通り、マオのくれたこの魔石とやらは、こういう物理攻撃から身を守るためのものらしい。マリーさんに抱きしめられたときには発動しなかったから、反応基準は力の強さなんだろうか?
「ひき肉になるとこだったよ。ハナちゃん大丈夫?」
「ひ、ひき肉!?」
馬鹿力にも程がある…!青い顔をしていた私に気づいたのか、キリはバツが悪そうな顔をして言った。
「悪かったよ。ケガとかしてねぇか?」
「あ、うん。大丈夫」
あらこの子、意外と素直じゃないの…。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字、ご感想などありましたら、教えていただけると嬉しいです!
お気に入りに登録してくださった方々、本当にありがとうございます(;▽;)
もしよろしければ☆での評価も頂ければ励みになります!( ˶˙ᵕ˙˶ )