天使に出会いました
魔王、もといマオに手を引かれて城内を歩いてみれば…。
「一人でも行けるとかナメたこと思ってすみませんでした…!!」
「え、ダメだよ。一人で出歩くつもりだったの?」
魔王城ってもっと閑散としてると思ってたのに、めちゃくちゃ魔族いるじゃん…!ざわざわと賑やかな城内に身が竦む。マオに手を引かれたまま、悪いことをしているわけでもないのに、そっと周りを観察する。
魔族はたくさんいるけど、最初に召喚されたときに周りを囲んでいたような、思いっきり人外っぽい人はあまり見かけない。せいぜい動物の耳やらしっぽが生えているか、小さな角が生えている程度だ。
ていうか私昨日寝て起きたままでスーツだし、魔族っぽい服…いやせめてこっちの世界っぽい服でも用意してもらえばよかった!浮いてる!
とりあえず部屋に戻ったらオピスに相談してみよう。そしてお風呂も入ろう…。
物珍しく眺める視線は感じても、敵意は感じない。マオが歩くところは人が退くし、恭しく例をする者もいる。そのたびにマオは「お疲れさん」と片手を上げて応えていた。
これってやっぱり…。
「魔王様〜〜じゃなかったマオ〜〜〜!」
「え゛っ!」
後ろからばふっと何か白いものが私を包んだ。
「この子が昨日の例の神子ちゃんね!?近くで見るとちっちゃくてカワイイ〜!」
み、見えない!何が起こってるの!?ていうかこの女の人(?)、今ハッキリ魔王って言わなかった!?
「こらこら、例の神子ちゃんが埋まってる」
振り向いたらしいマオが、私の視界をかき分けた。このふわふわしたの、羽毛…?
ぷはっと息をついて私も振り向く。
「…天使…!!」
私より頭1つぶん高いところに居たのは、絹のように光沢のあるふわふわの白い髪、これまた真っ白で長い睫毛に縁取られた、深いブルーの瞳と、肌の白さに釣り合わないほどの真っ赤な唇。そして真っ白な羽…。
「ねェ聞いた!?アタシのこと天使だって!んもう〜性格まで可愛いじゃないの!食べちゃいたい!」
そう言ってお姉さんは私を体ごと向き直させて、ぎゅっと抱きしめた。ふくよかな…私には無いとてもふくよかなお胸が顔面に当たっています…!!しかもめちゃくちゃいいにおいがします!
「神子ちゃん死んじゃうよ〜」
そう言ってマオがべりっと私を引き剥がす。同性ながら名残惜しい…!
「ハナちゃん、この子はハルピュイアのマリー。天使じゃないよ。足元見てみ」
そう言って彼女を指さす。その先を視線で追っていく。
ふくよかなお胸を大胆に露出させて、それでいてふわりと軽やかなフェミニンな白いレースの服。柔らかな曲線を描いた肩からは、腕の代わりに付け根から白い翼が生えている。天使って、腕はあって背中から羽が生えてるんだと思ってた…実物に会ったことないのでイメージ上ですが!
服の裾は人間で言う太もも辺りで、巻きスカートのように重なっている。さらにその下、この高身長でスタイルの良さなら、すらりとしたおみ足が並んでいそうなところは、ふわっふわの羽毛…そして脛辺りから下は、黒くてざらりとした鳥類の、いやもはや恐竜に近い立派なおみ足…!
ぎらりとした刃物のような爪にたじろぐ。
そんな私を気にもせず、器用に翼の先端で私の両手をとって、胸の前でぎゅっと握りしめた。
「アタシのこと覚えてないよね〜。後ろの方にいたし、アイツらの中では地味だから〜」
うふふ、と花が咲くように笑う。
「ご、ごめんなさい!あのとき何が何だかわからなくて…!」
「大丈夫だよ〜気にしないで!これから友達になるんだもんね〜」
「は、はぇ」
ち、近い!メンタルもフィジカルも距離が近い!!
「こら、ハナちゃんが固まっちゃってるよ。おれたち行くところあるから、またね」
「ハナちゃんって言うのね〜。アタシまだしばらくはこの城にいるから、今度遊びにきてね!絶対ね!」
名残惜しそうに私の手を離して、マリーさんはぶんぶんと翼を振った。羽が散らばって周りにいた獣人の子に降かかるが、目に入っていないようだ。
そのまま踵を返して歩き出す。長い尾羽がゴージャスだ。
「びっくりした?大丈夫?」
再びマオに手を取られて歩き出す。
「うん…でもいい人だった。キレイだったし。…ていうかあの人ハッキリ魔王って言ってたけど!」
一応小声でマオに言う。それってやっぱりバレてるんじゃないの?よく考えたら黒い角はそのままだし!周りの反応からみても、いかに魔王の友達とはいえ、みんな礼儀正しすぎない!?
「いやバレてない。おれ魔王だよ?そんなの楽勝で隠せてるって」
なにその自信。
「あ、私魔王様宛の書類預かってるんだった」
「シー!後にしなさいよ、今はマオ様よ」
「ねぇ今の聞こえた!?聞こえたよね!?」
通り過ぎた獣人の女の子二人が、小声で話したのを私は聞き逃さなかったぞ!
「なんにも聞こえなかった〜」
マオは猫背のまま、私の手を引いてぐいぐい進む。
これはアレだな、本人がバレてるのに気付いているのかいないのかは別として、周りは知ってて暖かく見守ってるやつだな…。みんな優しい…。
マオが通る先々で道を開けて礼をする人々に、私もぺこぺことお辞儀をして通り過ぎる。