自分の大きさと見た目を自覚してください
「話終わった?」
いろんな方向に跳ねた黒髪を無造作に搔きまわしながら、猫背で歩いてくる。中身は今朝のままだけど、マントと衣服は昨晩私がここに召喚されてきたときの、ザ・魔王の様相だ。
「魔王逃げたでしょ」
「逃げてないです~魔王はお仕事あるんです~」
こいつ絶対、オピスが話長いの知ってて逃げただろ…!
魔王は9999歳のくせに子供のような言い訳をして、私とオピスが座っている二人掛けのソファの隙間に、無理やり尻をねじ込もうとする。
「痛い痛い痛い!無理だって!」
金属の装飾が刺さりそうで怖い…!気遣いなのかなんなのか、オピスの方にだいぶ詰め寄ってぐいぐい体重をかけているらしく、オピスは白い顔をさらに青白くさせている。
オピスの体がぺったんこになる前に、そしてこのお気に入りのソファが壊れる前に、私はリビングテーブルに避難する。
「魔王さぁ、昨日も思ったけど、なんで見た目変えるの?」
椅子に座り頬杖を付く。昨夜は混乱していてそれどころではなかったけど、確か、この姿を見せていい相手と、いけない相手がいるかのような口ぶりだった。
「あー、昨日ハナちゃんを召喚したときのカッコは、広告用魔王」
「広告用?」
「魔王様の本来のお姿は、この通りパッとしないですからねえ」
あっまたしれっと余計なことを。私がいなくなったぶんスペースが空いて息をついていたオピスに、魔王がまた無言で圧をかける。
「ぐぇ」
「ちなみに誇大広告用魔王もいる」
つぶれた蛙のような声ってこういうことを言うのかしら。実際に聞くのは初めてだけど。
つまり、公の場に出るときはあの恰好をして威厳を保ってるってことらしい。
「誇大広告用魔王ってどんな感じ?」
「城内でなると天井ブチ破っちゃう感じ~」
「な、なるほど~」
見る?と言われて首を横にぶんぶん振る。都会の1LDKの狭さなめんなよ!
いつか屋外でその姿になることがあったら、200メートルくらい離れたところから見物させてもらおう。そうしよう。
「ハナちゃんおなかすかない?」
オピスを折りたたんだ膝頭でぐいぐい押しつつ、魔王が聞く。それ死んでない?大丈夫?
壁にかかった時計を見れば、確かにそろそろお昼の時間だ。オピスの長ーいお勉強会のせいで頭を使ったのか、体は動かしていないが確かに何かお腹に入れたい。
「お昼ごはんにしよっか。それであの…このお城の厨房?キッチン?とか食材置き場って私も見られる?」
私が私の世界で作る食事では、魔族には必要不可欠な魔力が摂れない。
すべての材料をこっちの世界のもので賄うことはできないかもしれないけど、メインの食材で使えそうなものがあれば、私が作ったものでも多少お腹の足しにはなるだろう。
「見たいの?」
「見たい!それで使えそうな食材があれば、ちょっとだけ貰えないかなーと思って」
魔王は蛍光灯を見上げて少し考えた後、指をぱちんと鳴らして、朝と同じ姿になってのそりと立ち上がった。この間ずっと押しつぶされていたオピスの顔に血の気が戻る。よかった生きてた。
「じゃあ一緒に行こうか」
場所さえ分かれば、子供じゃないんだし一人でも、と言いかけて、オピスが口を酸っぱくして城内を一人で歩くなと言われていたことを思い出す。
そうだった、私は生まれたてのスライムなんだった。レベル1のスライムが最終ステージの魔王城に紛れ込んでも、プチッとされてお終いだ。
「お仕事忙しくないの?」
「もう終わったから大丈夫。あとはこいつにやらせるよ」
そういって一瞥したオピスは、しっかり伸びているようですが、本当に大丈夫なんでしょうか…。
「ほら、手」
「え、いいよ。子供じゃないんだから」
産まれたてのスライムでも、人間界ではしっかり成人女性なので、それはさすがに恥ずかしい。と思って断ったが、否応なく手を掴まれてしまう。
「えー…強制ですか…。ていうか、魔王そのままの格好で部屋から出ていいの?隠してるんじゃないの?」
「この姿のおれは、魔王の古くからの友人ってことになってるから。魔王様は忙しいから、おれが代わりに案内するってことで」
「外で魔王のこと何て呼べばいいの?」
姿は使い分けてるからいいとして、名前まで同じだったらマズかろう。
まぁ偽名を教えて貰っても、うっかり呼び間違えそうな気もするけど。なにせオピスに説明された色々な固有名詞がこんがらがっているので。
「マオって呼んで。そういうことになってるから」
「まんまやん!!」
思わずエセ関西弁で突っ込んでしまった。え、だってそれいいの?ほぼ魔王と一緒じゃん。
「ダイジョーブ、ばれてないから」
「みんなおおらかというか、なんと言うか…」
「さ、行くよ〜。オピス、あとよろしくね」
ぐいぐいと手を引っ張られる。振り向いた先でオピスが力なく手を振っていた。さすが上級魔族は丈夫なのね…。
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