知らぬ間に最大のピンチだったようです
「…というわけで、ハナ様、ここまでで何かご質問は?」
にっこり、という言葉が最高に似合うぜ、オピスくん…。みっちり3時間ほど、国の歴史やなんやかんやと説明を受け、私はもう疲労困憊です。
正直、後半の方は何を言っているのか分からなくなった。
オピスはあれだね、研究者というかオタクタイプなのかな…こちらが口を挟む隙がなく、所々聞きたいこともあったのだけど、怒涛のお話っぷりに何を聞きたかったのかが流れてしまった。
「わからない所があればもう一度…」
「わーーー!わかった!よくわかったのでもう大丈夫です!!」
両手を振って押し留める。もうこれ以上聞いても頭の中に入らない!脳みそ焼けそう!
はたと思いついて、そういえば気になっていたことを思い出す。オピスの話、ではなく、このお勉強会の前に魔王が言っていたことなんだけど。
「魔王が言ってた、私に魔法が効かないってどういうこと?」
それを確認するために、いったい何をしたんだ?という質問は、魔王には誤魔化されてしまった。
「ああ、それにはわたくしも驚きました」
オピスは顎に手を当てて言う。
「魔力を持つ同士は、基本的に魔力の強さで序列が付く、ということはお話しましたよね」
「うん。てことは、魔力0の私なんか、この世界では最弱ってことだよね?」
「そのはずなのですが、ハナ様に魔力を放っても、打ち消されるというか、吸収されるというか…」
さっきとは打って変わって、歯切れ悪くオピスが答える。
「ハナ様がお休みになっている間に、炎や冷気などをぶつけてみても、精神に作用する魔法も、武器に魔力を纏って放つ斬撃なども、ハナ様に届く前に魔力そのものが消失してしまうのです」
「えっちょっと待って、それ試したの…?寝てる私に?」
首をかしげていたオピスが、はっとしたように慌てて首を振る。
「いえいえ!万が一当たっても死ぬような威力では!」
あなたさっき何とかベアーのお肉を消し炭にしましたよね!?やはりあの状況で眠りこけるのは無防備すぎた…いい人そうだけど、感覚が普通と違いすぎる。
思わず両肩を自分で抱いて身震いした。
「あっ、じゃあさ、私がこの世界のおイモとかパン食べたら、私も魔力持ってることになるの?」
万人の夢、それは魔法…!全く実感はないけど、もしかしてもしかすると、私も手のひらから火球が出たり、ふわーってあったかい感じで傷を治せたり、空を飛べたりするのでは…!?
すべてイメージ上の魔法ですが!
「見てみましょう」
そういってオピスは、先ほど魔王が「ステータスミラー」と言っていた手鏡を、私に向ける。
「…魔力0のままじゃん!」
「あっでも見てください。体力が回復していますよ」
「それはぐっすり寝て、しっかり朝ごはん食べたからでしょー!」
残念だが、0に何を掛けても0、ということらしい。魔法が使えないのは残念だけど、裏を返せばこの魔力至上主義の世界で、それによって脅かされることはないということだ。
「というわけで、ハナ様はおそらくこちらの世界の何を食べても、魔力は付きませんし、今のところ魔法も効きません。ただし…」
袖の袂にステータスミラーをしまい直して、オピスが私の頭にぽんぽんと触れた。
「触れられる、ということは、魔力を纏わない物理攻撃は効果アリ、ということです。魔王様から頂いたその魔石、見たところ物理攻撃を弾く効果があるようなので、この城にいる限りは大丈夫でしょうが」
でも念のため、お気をつけて、と小首をかしげてほほ笑むオピスに、不覚にもきゅんとしてしまった。
落ち着くのよハナ!まだまだ得体のしれない眼帯男なんだから…!
「ねー、オピスは何で眼帯してるの?前見えるの?」
頭に手を置かれたままオピスに問いかける。
こっちの世界に来てから、よく頭を撫でられているような気がする。
むこうじゃ彼氏でもなきゃアラサーに優しくナデナデなんかないですよ…。
「この下は……ナイショです」
可愛らしく笑ったオピスだったが、直前に一瞬悲しそうな表情が見えたのは、気のせいだろうか。
そりゃ魔族だろうが人間だろうが、触れられたくないことの一つや二つあるよね。ちょっと反省。
私の様子に気付いたオピスは、わざとらしく私から身を引いて言った。
「やだ!ハナ様そんなに気になるんですか?エッチ!」
「エッチとな!?」
美少年から放たれる「エッチ!」の言葉、一定の性癖の人には刺さるんだろうな…私には刺さりませんけど!美少年は見てるだけでいいの!過剰摂取はアラサーには毒なの!
二人でキーキー騒いでいると、玄関、もとい魔王城との出入り口から、魔王がふらふらと姿を現した。
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