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第8話 朝の騒動

 朝日が昇る。

 鳥の鳴き声が、外に響く。

 女性顔の無表情男クリスが、朝食の準備を始める。キャベツ、ニンジン、ジャガイモなどの野菜に塩気の強いソーセージを入れ、トマトで味付けしたスープ。目玉焼きとベーコンを焼いて、昨日買っておいた大麦のパンを切り分ける。

 準備ができたころには、ウェイン、ロレンツ、遅れてガドランドがリビングに現れる。


 五人の共同生活にはそれぞれ役割がある。

 基本的に食事はクリスが担当。ロレンツは水の魔法で洗濯をする。元騎士のウェインは修業を兼ねて薪割り、水汲みなどの肉体労働。そしてまだ顔を出さないルカは掃除と金の管理だ。

 金に関しては基本的に個人の収入は個人で管理する。複数で請け負ったものは、ガドランドがいても均等割りにするのがルールとなっている。ただし、食費を含め、家で必要になるものを買うため、全員から毎月、決まった額をルカが集めている。

 昨夜、アマンダに渡した金はガドランド個人の金なので、使い道に関しては、ほかの人間に口出しされる理由はない。ただし、金に無頓着なガドランドは、いつもルカから無駄遣いをするなと口酸っぱく言われている。


「ルカは帰ってきているのか?」

「ああ、ドアに九時に起こせってあったぜ、昨日も遅かったんだろ」


 五人の中でもルカの生活リズムは特殊なため、部屋にいるかどうか、何時に起こす、もしくは起こすなと書かれた札がドアの前にかけられている。


「アマンダさんは?」

「まだ寝ているのでしょう。起こしてきましょうか? 私もさっさと終わらせたいですからね」

「そうだな、男だけのこの家に女性が泊まっているなんて近所に知れたら、彼女がかわいそうだ。それに、せっかくのクリスの飯もあったかい内に食べてもらったほうがいいだろう。ウェイン、様子を見てきてくれ」


 髭も剃り、朝から服も髪も隙なくびしっとしている色男は、アマンダが泊まっているクリスの部屋へ訪れてドアをノックする。

 部屋の中からは何の返事もない。

 再度、大きめにノックをする。


「アマンダさん、朝です。起きてください。朝食後、借金を返済に行きますよ」


 ウェインは大きめの声で部屋の中のアマンダに話しかける。

 しかし、しばらくしても反応がない。


「ドアを開けますよ」


 そう言って、またしばらく待っても何の反応がない。仕方がないのでドアノブに手をかけるが、カギがかかっていた。

 まさか、中で倒れているのではないだろうか?

 ウェインは心配になり、激しくドアをノックする。

 その騒ぎにガドランド、ロレンツ、クリスも部屋の前にやって来た。


「部屋の中に人の気配がありません」

「クリス、カギは?」

「中」

「外に回るぞ! ウェインはここに居てくれ」


 ガドランドの言葉に、ロレンツとクリスは外に出る。部屋の外に回ると、開け放たれた窓にカーテンがたなびいていた。

 ガドランドが部屋に飛び込むと、そこには誰もいなかった。

 ベッドはクリスが準備したままで、使われた気配がない。

 テーブルの水差しの下には紙が一枚あり、その上にはクリスの部屋の鍵が置いてあった。

『すみません。そして、ありがとうございました』

 紙にはただそれだけが、書かれていた。


「あの、アマ! 持ち逃げしやがった! やっぱり、借金っていうのも嘘だったんだよ」


 その様子を見た、ロレンツは叫ぶ。

 クリスは部屋の中からカギを開けて、ドアの前で待っているウェインを部屋に入れると、隣の部屋のドアが開いた。


「うるさいなー。ゆっくり寝れないじゃないか。どうかしたの、みんな?」


 赤いたれ目をこすりながら、ルカが起きてきた。


「昨日の女が逃げやがった!」

「ああ、そう。だったらあとで街の東にある『ドラゴンの卵』って魔獣屋に行ってみなよ。アマンダって言ってたけ? あの人はそこによく行っていたみたいだから。ちなみに表じゃなくて裏のほうね。それじゃあ、ルカはもうひと眠りするね」


 魔獣屋とは魔獣の赤ちゃんや卵を扱っており、テイマーたちが魔獣を購入し、冒険のお供とする店だ。

 通常の店は合法であるが、ルカの言う裏とは、獣人、亜人そして人など言葉を喋れる者は売買してはいけないという法律を破る、人身売買の店を指す。

 通常、魔獣はその種類によって数十万マル程度で取り引きされる。しかし人身売買となると桁が変わってくる。そのため、違法と分かっていても取り引きをする者はあとを絶たない。


「ルカ、ちょっとまてよ。ほかに情報はないのか? あの女が裏で何を買おうとしてるんだよ?」

「ロッさん、いくらルカでもそんな一晩で、そこまでの情報は集めきらないよ。あと分かったことは、あの女の人は半月ほど前にこの街に来たらしいんだ。酒場の歌い手として人気があって、領主の二番目の息子がえらく入れ込んでたらしいよ」

「じゃあ、昨夜の連中は領主の息子が差し向けたのか?」

「いいや、それは違うと思うよ。あそこの二番目は芸術肌の優男だよ。あんな連中と付き合いがあるとは思えないけど」


 ルカは軽く首をひねって、ウェィンの言葉を否定する。さわやかな幼顔のルカは昨夜、情報収集をしていたのだった。

 そしてガドランドもルカの意見に賛成する。


「ああ、マリウス様はそんな事をする人じゃないだろう」

「まあ、いい。じゃあ、その魔獣屋に行ってみるしかねぇな」


 ロレンツはその顔を歪める。行動派魔法使いはすぐにでも、街へ出ようとする。


「朝食」


 その一言でクリスは熱くなっている魔法使いを冷静にさせる。


「そうだな、ロレンツ、ウェインもせっかくクリスが作った朝飯が冷たくなっちまう。ルカも起きちまったんだったら、食べてから休め」


 ガドランド一家は、少し冷めてしまった朝食を食べ始めた。

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