第6話 ひと息つくアマンダ
大きな湯船にたっぷりのお湯。
湯気の充満するお風呂場の中に女性が一人。
綺麗にスッと伸びた長い髪を後ろでくるりと丸め、透き通るような白い肌が水面から見え隠れする。
たっぷりのお湯に浸かると疲れが取れる。
しかし、貴族でもない普通の家に、人がゆっくりと浸かれる湯船がある贅沢。
二千万マルがポンと出てきた。
金持ちだろう……ということはわかる。
アマンダは、なぜ自分がこんな所にいるのだろうかと、怖くなる。
どう見てもまっとうな仕事をしていない。
冒険者と言っていたが、冒険者がこんなに儲かるとは思えない。
何かまずい人間と知り合ってしまったのではないかと不安になる。
男が四人もいる家に女が一人。
今にも風呂に乱入して来るのではないかと、気が気でない。
しかし、アマンダの心配は杞憂に終わった。
ふかふかの清潔なタオルで長い髪の毛を拭き終わっても、誰も入って来なかった。
アマンダがリビングに戻ると、そこにはクリスが一人待っていた。
「お風呂ありがとうございます。ほかの方は?」
「部屋に戻った」
無表情なクリスは水差しとコップを準備していた。
「部屋に案内する」
「あ、ありがとう。ちょっと聞いていい? ……あなたたちはどういう関係なの? 家族には見えないし……」
アマンダは何者なのとは直接聞くのが怖かった。しかし、ガドランドたちが何者なのかわからなければ、おちおちと眠っていられない。
「……親父は冒険者で、他の皆はその弟子」
クリスは少し面倒くさそうに答える。
「親父って、あなたとガドランドさんは親子じゃないでしょう。だって……」
アマンダがそう言いかけたとき、それまで何の感情も出していなかったクリスの目に殺気が帯びる。
何も言うな! そう無言で語り掛ける。
その豹変ぶりに、たじろぎ、口をつぐむ。
そして大きく息を吐いた後、アマンダは悪かったと謝罪をした。
「じゃあ、部屋に案内してくれるかしら」
その言葉にクリスは、いつもの無表情に戻る。
「こっち」
案内されたクリスの部屋にはベッドとタンス、それに机が一つあるだけの非常に簡素なものだった。簡素ではあるが、きれいに掃除されていて、心地よい空間。窓も大きく、朝にはさわやかな日差しが差し込んでくるだろう。部屋は一人で住むには十分な大きさだった。
クリスは水差しとコップを机に置くと、部屋を出て行ってしまった。
ベッドのシーツは洗濯されているものと交換したのか、さらりとして触り心地がよい。
ドアにはカギついて、部屋の外からはカギがないと開けられないようだ。そしてそのカギは机の上に置かれている。
アマンダはさっそく、ドアの鍵を閉めて窓の外を確認すると、ようやく落ち着いたようにベッドに腰かけた。