第3話 騎士ウェインの戦い
「おまたせ、師匠」
金属の鎧に身を包んだ騎士のような姿。
彫りの深い濃い顔、紺色の髪に緑目、背が高く鍛え抜かれた肉体。大剣を手にガドランドの助太刀に入る。
「ウェイン、トドメは刺すなよ」
ガドランドと正統派剣士ウェインが男たちを次々に無力化する。
二人から離れた男たちは、ワイルド系魔法使いロレンツが麻痺させる。
中性的な回復術師クリスが、アマンダの防御に回る。
次々と人数が減る男たち。しかし、道路の向こうから増援もやってくる。
「面倒だな。石の槍」
ガドランドは男たちの攻撃をかいくぐり、道路に手を当てる。地面から道いっぱいに生えた無数の石の槍が、増援の男たちの道をふさいだ。魔法の槍で足止めをしている間に、残った男たちは次々に無力化されていった。
「ちきしょう! なんだ、こいつらは! ふざけやがって」
残った男が毒を吐く。
「おい、こいつら、ガドランド一家じゃないか⁉」
「こいつらが? どうする?」
「どうするもこうするもあるか、あの女を連れて帰らないと親分に殺されるぞ」
「旦那!」
男の一人が叫んだ。
「どいていろ」
その言葉にそれまで壁を背にしてこの大乱闘を見物していた男が、斧を両手に近づいてくる。
体つきは背の高いウェインより、ふた回りほど大きい。目つきが鋭く、スキンヘッドに長い髭を生やしている。
筋肉隆々の体から想像できないほど器用に、ジャグリングさながら、ふたつの斧をクルクル回す。
「師匠、ここは私が……」
「保安官が来ると面倒だ。時間かけるなよ」
ウェインは右足を前にして、大剣を正眼に構える。正統派の構え。
対するスキンヘッドの用心棒は前かがみで両手の斧を構える。
二人の距離、約四メートル。お互いに武器が届かない間合い。
大男は突然、斧を振りかぶる。
「炎の武器」
炎をまとった斧が左手より投げ放たれ、それを大剣で弾くウェイン。
その隙に一瞬で間合いを詰める大男。空いた左手を前に出して、次の魔法を放つ。
「光の爆弾」
薄暗い大通りに光が爆発し、目を眩ませる。
ウェインは迷わず、前に出る。
攻撃魔法があるのならば、相手は間合いを詰める必要がない。あくまで目くらまし。ウェインが後ろに下がったところを追撃するつもりなのだろう。それにこの距離で攻撃魔法を使えば相手もダメージを受けるはず。
ぶつかり合う二つの肉体。
「なっーー!」
用心棒は驚き、思わず後ろに下がる。この目くらましで三流冒険者ならばその場にとどまる。普通であれば用心棒から距離を取るだろう。そのどちらも用心棒の思うツボだった。まさか、自ら間合いを詰めてくる思っていなかった。
ウェインはすかさず大剣を振り、大男の右腕に斬りつける。
「がぁっ!」
斧が右腕ごと石畳に落ちる音。石畳を赤く染める。
右腕を落とされた大男は左足で真っ直ぐにウェインの胸を蹴ろうとする。
ウェインはサイドステップで蹴りを避けると、剣をもったまま右腕で大男の左足をすくい上げる。体勢を崩した大男の顔面を左手で押す。
大男は後頭部を石畳に叩きつけられ、泡を吹いて気絶してしまった。
用心棒の男が気を失った頃、アマンダを追いかけてきた男たちは全て、無力化されていた。ガドランドとロレンツの手によって。
「行くぞ」
ガドランドと三人のタイプの違う色男、そしてアマンダは死屍累々と倒れている男たちを、そのままにして足早に立ち去った。