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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
間章二 サメの魔法を求めて
98/211

06.グラトニーの背中

 夜が明けて。


 結論から言って、魔石を持つ程の鮫は殆どいなかった。

 つまり大部分の鮫達が殆ど生粋の身体能力で風を浴びて飛ぶ、飛び魚の様な進化を遂げていた事になる。メガロドンは流石に大型封印石級だったが。


 尚、あの巨大烏賊(いか)ですら小型魔獣程度の魔石しか無かった。

 残った鮫の半数くらいは外周湖に帰って行ったが、残りは全く士気(おとろ)える事無く向かって来たため、(ろく)に休む余裕も無かった。


 恐らく千近い鮫を狩ったとは思うが、百体以上回収したものの残りは徐々に波に浚われている。まあ放置したものが腐敗されるよりはましだろう。


 尚、海岸沿いに群がっている鮫達は視野に入れないものとする。


 今グラトニー達は、巨大烏賊の現れた岩場の影に波のかからない場所を見つけ、ドームハウスの中で休んでいた。

 ベッドの数は足りていないし、地下の小部屋は兎も角私室を使わせる気も無いが安眠出来るなら十分との事だ。こっちは風呂もあるし。


 因みにメガロドンはグラトニー、ジュリアン、ティーパーティ、サンドライトで分配した。元が巨体過ぎて発動具化にも相応の手間がかかるので、立候補者が少な過ぎてグラトニーが二つ獲得したくらいだ。


 ティーパーティは可能であれば二つ欲しかった様だが、保存の問題で断念した。

 全員が同時に寝る余裕は無かったので半数が休み、途中こっそり岩場に《魔鏡》を設置して。最初に休んだ面々で簡単に今後の方針を相談する。


「連中は遠方から魔力を感知して集まっていると見ているわ。

 あのメガロドン達が乱戦の中で敵味方を識別していたのは、五感より魔力の差異で識別していたんだと思う。」


「成程、それがグラトニーの呪詛が効き辛かった理由なのか……。」

 個体を鮮明に区別出来なかったのなら、一帯を呑み込む呪詛(じゅそ)の渦は逆効果だ。

 何せ敵を避けようにも一帯が魔力の塊で塗り潰され、強い魔力一つで視界を埋め尽くされる事になる。狙える相手が恐怖の塊だけになるという訳だ。


 そういう意味では全くの弱視でも無さそうだ。相応に嗅覚も鋭かったのだろう。

「なら囮は有効だと見て良いな。スピード重視なら行けるか?」

 ティパーティも同じような観察結果らしい。ジュリアンもそれならと頷いて。


「今なら大量の鮫が(えさ)を求めてこの近くに群がってます。

 夜になる前に箒で一気に距離を離した方が、潜水地周辺は安全なのでは?」


 大体の方針が三人で決まり、後は起きて来た面々と昼食後にという結論に達し。満場一致により帰還方法はあっさり決まった。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 箒で一気に上空を飛び、目的地近くで鮫の死体を撒く。軽く離れた所で船を出し一直線に潜水し、一気に目的の湖底に到着してしまう。

 要は餌を囮にして逃げ切ろうという作戦だ。


 念の為船を操縦するのは呪詛を含めた魔力全般を抑えられるグラトニー一人。

 他は全員、スノードームハウスの中で待機した。


「入れ食いね。直ぐに無くなってしまいそうだわ。」

 箒で一気に海面に近付き、船を出して乗り込み急速潜航(せんこう)する。

 泡で視界が利かないが、グラトニーには『生命感知』があるので問題無い。


 座標が分からなかったら危うい所ではあったが、湖底に着いてギリギリで魔法陣の起動が間に合った。


「はい、到着。」

 船渠(せんきょ)あるいは潜水艦ドックとどちらで呼ぶべきか少々迷うが、兎に角船を出た上でスノードームを置き、中に入って到着を告げる。


「ありがとう。結局最後は全部君任せにしてしまったね。」

 少し悔いる様な口調でジュリアンが感謝する。ティーパーティが背中を叩き。


「適材適所という言葉がある!命を預けるに足る相手なら恥じる事ではないぞ。

 確かに彼女は少し万能過ぎるので足手纏いと感じるかも知れないが、そういう時は人手として頼れる男であるのも一つの手だ!」

「っはい!」


 たった一度の探索で此処まで頼られるようになるのは流石に元寮長か。

 全員いざと言う時に備えていたので、出て来るのも早い。


「もうへとへと~。もう当分ダンジョンは良いわ……。」

「当分は兎も角、召喚駒の整理は急いでやっておきなさいな。

 夏季休暇中に魔女の襲撃が無いとは限らないんだから。」

 大量の素材を手に入れたのはグラトニーも同じだ。当分は誘う予定も無い。


「因みにここ、生身で外に出る事も出来るのかしら?」

「生身用のは別に通路がある。……ま、あの数の鮫は想定されとらんが。」

「折角だし確認だけしたいわ。」


 茶釜入道は少し渋ったものの、グラトニー以外での確認は無事に帰れるかも微妙なので、素直に案内する。簡単に注水が出来る、殆ど管同然の小部屋だった。


「こっちは問題無さそうね。魚対策はされていたし。」

 浮上は人力なので、サメに襲われる危険性は浮上中にある。が、即座に襲われない様に周りを珊瑚(さんご)風の障害物で囲んであった。


「どっちにしろ次は船の方を何とかしてからにする必要があるわ。

 一つ研究用に貰えないかしら?」

「あ~。設計図があるから写してくれ。流石に現物がこれ以上減るのは困る。」


 防犯術式の所為で魔導書への転写は出来なかった。手描きで移すには大分時間がかかるので周りは諦めムードだったが。


「ちょっとデジカメ貸して。あなたのは向こうの世界の物なんでしょ?

 この場でデータ化してパソコンに移すわ。」

「ちょ!そのパソコンとやらを詳しく!」


 流石にPCの内部構造を人に説明出来るほど詳しくは無いので、作業の見学だけで勘弁(かんべん)して貰う。


「も、もうい~か~い……?」

 ピオーネが居る時しか出来ない事だったので一遍に済ませたが、流石に今日中に戻らないと色々不味いだろう。


「ええ。それじゃ帰りましょうか。」

「おぅ、一応外へ出るだけなら近道があるでの。こっち使いや。」

 案内された門を見て、何となく気になって口に出す。


「前にも思ったけど、魔法使いの転移って道なのね。」

「道?転移って、妙な言い回しじゃのう。」


「む!分かるぞ!何と言うか、魔法陣だろ!」

 DVDで見たとティーパーティが拳を掲げる。今の無駄な動作は羞恥(しゅうち)心ではなく興奮の方か。


「ええ。魔法使いの瞬間移動って床や壁に陣を描くイメージがあるの。

 転移とか転送とか、まあ一瞬で場所を移すってイメージよ。」

 が。魔法の国の住民は今一イメージがしずらい様だ。


「良く分からんが、こっちは門と門を繋げたり、二つの場所を一つの穴でまとめる感じじゃのぅ。

 別に見て分からないだけで、壁や床に結界が描かれるタイプもあるぞ。」


「成程。詰まり空間を縮めて、移動は人力なのね。」

 無いと決めつけるのは危険だが、テレポートは想像の外にある発想なのかと納得しながら門を通る。門を抜けて後ろを振り向くと、そこには壁しかない。


 通る時だけエーテルの門が現れ、一方通行の出口なのかと納得して洞窟を出る。

 落とし穴の様な枯れ井戸に辿り着くと、後は箒でひとっ飛びだ。

 枯れ井戸は渓谷地帯の岩礁近くにあり、外は既に夕日が差していた。


 向こうと時間軸がズレている様な悪辣な環境は無かったらしいと、ふと本当に外周結界は議会対策なのかと、自分の発想に疑問が過った。

(まあ、それは色々情報を整理してからね。)


 尚、外周部の情報を如何に同行しなかった彼らに秘密にして貰うかと悩んだが。

「外周部は肉食なコレが数百と飛来してくるわ。」

「「「分かった。絶対秘密にする。」」」


 流石に砂浜に出すのも問題だしと『携帯錬金房』で例の鮫を見せると、道案内は御免と簡単に納得してくれた。


 道中に付いては全員が詳しい説明を拒み、レイリースはピオーネの肩を叩いて無言で(なぐさ)め出す始末だ。結果オーライ?

 結局、今日一日はコテージで休み、翌日の帰還となった。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 後日。

 グラトニーはパトリシア、サンドライト、レイリースの三人に連れられ、何件かの服飾店を回る羽目になった。しかも淑女の会御用達の高級店も含めてだ。


「今日は彼女の会員証を作りに来ました。これが推薦(すいせん)状です。」

 レイリースが差し出したグラトニー以外の現淑女の会所属者、四名全員の連名という稀に見る豪華な紹介状を前には、如何に店員側に差別意識があろうが拒否出来る代物では無い。

 それは路頭(ろとう)に迷い、純血社会から排除される事と同義だ。


「三割増しまでは認めます。ですが質を偽る事は許しません。

 そのために我々が連名で紹介状を出しているのです。」

「で、ですが、彼女は……。」


「元々問題になっていたのです。

 〔薔薇の園〕に来訪する時には品位ある装いを用意すべきだと。淑女の会は特別な集いですから、相応の格式ある装いで訪れるべきだとは思いませんか?」


 因みに三割増しの件は事前に話を聞いている。そもそも無能人には売らないし、手に入らない質の商品が並ぶ店だ。


『気に入ったら相場以上の価格で買うのが私達の常識なのよ。

 贔屓(ひいき)する価値があるって、私達の名前で商品価値を引き上げるの。


 けど無能人が評価したって肩書きは店側のデメリットだから、一律で三割増しにした方が面倒は少ないわ。

 それに売るとなったら、絶対向こうが二割一割にはしないから。』


我慢(がまん)料で納得させるって事よね。

 まあ必要のない高級品は買わないから構わないのだけど。)


 一見無駄な散財に思えるが、職人を育てるという意味なら分からなくも無い。

 同様の理由で、他の購入者が割増しで買い易い様にグラトニーが四割以上を払う事態は控えた方が良い、となる。


「私服も呪装用なのね。」

「一人前の証なのよ、自分で呪装化するのは。

 けど面倒だから外注する人も多いの。だから呪装の自作は必須じゃ無いわ。」


「手抜きじゃない証拠に、贔屓の店を作るのね?」

「分かってるじゃない。」

 常に最高の効率を考えないのなら、金で解決した方が便利なのか。成程。


 説得が終わったレイリースの案内で靴と帽子、コートを一着買って店を出る。

「お待たせ。次はそっちの案内をお願い。」

「はいはい、分かってますよ。」


 パトリシアの微妙に刺々しい態度に疑問を覚え、ふとひょっとしてジュリアンが居ないとこうなのかと思い付いて、取り敢えずは今回も口にしてみるが。

「「「今更ぁ?!」」」


「い、いや!確かに貴種同士同じに見えるかもだけど、純血と雑種よ?!」

「血筋気にしなくても預言者(プロフェット)寮と先駆者(パイオニア)寮でしょ!?

 私達一応ライバル関係だって、……もしかして気付いてないから一緒に連れ回してたんじゃないでしょうね?!」


「ライバルも恋人も友人も理解出来ないから放置してただけよ?

 私は殺したい相手を殺せれば大体はどうでも良いもの。」

 裏切りは敵対と見做すけど、と一応補足。


「いや、理解出来ないってそれ、本気で言ってるの?」

 呆れ顔のパトリシアに対し、レイリースがやれやれと解説する。


「本気に決まってるでしょ、グラトニーよ?

 言ってしまえば私達は別に馴れ合いをしているんじゃなくて、あなた絡みの問題は停戦協定を結んでいる様なものよ。」


「私達魔術師は、人目を無視して生活するのは難しいんですよ。

 魔力があれば認められて、才能があれば一目置かれて。逆に言えばそれが無いと誰も助けてくれない事も良くあります。


 そういう時に頼りになるのが純血であり、雑種であり。

 要は後ろ盾、助け合いです。一人で完結出来るのは一流魔法使いの特権で、私達にとっては天才の証明でもあるんです。」

 早く行きましょうと、サンドライトが促す。


(ふむ。近いのは寄り合い所かしら?託児室みたいな?)

 長所が無ければ溺れる(わら)扱いされるのだとしたら、随分と生き辛い世界だ。


 パトリシア達が最初に案内したのは普通の、呪装にしない服飾品だった。

「純血のお金持ち達は下着も呪装にするって話だけど、私達は違うわ。

 呪装にするのは上着、外着まで。下着や普段着は節約するの。だからデザインとセンスがおしゃれの命ね。

 全身にお金がかけられないならワンポイントで勝負よ。」


「でもまあ、素材を売れば良いわよね?」

 そこが解せないが。


「治療で偶然改善しましたけどね?要は昔のわたしと同じなんですよ。」

 サンドライトは契約を結んだ裏の血の従者の一人、準幹部級だ。証となる指輪も渡しているが、今はパトリシアが居る。人込みもある。

 だからグラトニーがどうにかしたとは言わない。


「ふむ。学園で稼がないと将来に期待が出来ない、と?」

 なら尚の事、戦闘向けの発動具素材は必須だと思うが。


「い、今頑張っているのよ!地元で暮らす時に一番必要な魔法を優先したの!

 ポンポンと一学期に幾つも発動具を量産出来る、あなたと一緒にしないで!!」

 ふむ、そういう物か。手当たり次第に手札を増やす真似はそもそも難しい、と。

「そういう事なら今後も時々私に付き合いなさい。」


 服は確認程度だ。問題は名家名門が普通は訪れない場所。

「ここが食器売り場よ。金物屋は兎も角、只の食器は露店も多いの。」

 ポートガスはそもそも料理をしない。出来合いか食堂で済ませるから来ない。


「食器を呪具化する事は無いの?」

 便利だと思うが。


「………………し、したければすれば良いとしか?」

「掴み損ねたら頭の方が割れる食器とか害悪じゃねぇかな……?」

「成程。呪具化すれば便利とは限らない訳ね。」


(((そこを聞くんだ……。)))

 露店の店主含めて良く分からない緊張感が漂う中、適当に良さげな食器を多少余分に購入すると、何故か店員が驚愕(きょうがく)と絶望の表情で現物を念入りに確認し、諦めてそのまま紙に包む。


(ね、ねぇ今のどういう事?)

(ま、まさかアレ、本物?こんな場末の露店に、七大陶工(とうこう)真贋(しんがん)が?)

 後ろが謎の呟きを続けるが、どうも他に気が乗る食器が無い。


 次に訪れたのは金物屋で例によって例の如く、入口と店内の大きさが違う。

 鍋や調理器具は向こうの物を使っているが、品質には不満が残る。質の良い物があればと店内を見回るが、妙に飾り立てた品が多く興味を引く物が無い。


「へ~、結構可愛いのが多いじゃん。」

「でしょでしょ?ここ結構使い易くて手頃だからおススメなの。」

 グラトニーとは裏腹に、後ろの三人の評判は高い様だが。


「へぇ。一人の作品が並んでる訳じゃ無いのね。

 この包丁を貰うわ。」


「……ああ?無能人に物の価値が分かるってのか?

 適当に選ぶような客はお断りだぜ。」

 ほう。と思ったが、慌てたサンドライトがパタパタ手を振り口を挟む。


「あ。グラトニーは料理に関してはヤバいです。

 向こうの味に煩い国出身らしいけど、その中でも絶対上の上です。」


「あなたが客に媚びているのは知っているわ。

 それよりこれを作った職人を紹介なさい。調理器具を一通り揃えたいの。」

「ちょ!おまっ!!!」


 慌てる三人が何か思い浮かぶより先。鼻で哂う様な暴言に店長は勢い良く立ち上がり詰め寄って。


「その前にあんたは()()()だ。包丁一揃えならこっちにもある。」

 会計台の後ろにある業務用っぽい扉を指差す。


「ちょ、ちょっと待って!え?どういう事?」

 突如まるで挑発するような態度を取り始めた店長に戸惑う三人娘だったが。


「客には三通りの(くせ)がある。

 一つは見た目や肩書だけで選ぶ奴。

 二つは店員に聞いて用途を考える奴。

 三つは見れば分かる奴だ。


 聞きたいならアンタらは待ってろ。後でちゃんと対応してやる。

 三つ目の客に本気を出せねえ商人に、名品を扱う資格はねぇ。」


 ヒリ付いた鉄錆(てつさび)の様な空気を纏わりつかせ、眼光鋭く暖簾(のれん)の向こうに消える店長に続き奥に足を踏み入れるグラトニー。

 パトリシアには店長が急に十から二十歳くらい老成して見えた。


「え?ええ?」

「最近、気付いたんだけどね?」

 サンドライトがパトリシアの横で、とても複雑な表情で語る。


「グラトニーって見る目は物凄くあるんだよ。性格に惑わされ易いけど。

 だから別に正解を知らなくても、本人が気付いてすらいないまま的確に当たりを引き当てちゃう。


 敵に回すと物凄く凶悪だけど、多分味方でいる内は周りが思っている以上に恩恵が大きいんじゃないかな。」

 だから迂闊(うかつ)に敵に回さない方が良いと思う、と。


「う、う~ん。私も、ジュリアンの事が無ければ別に対抗意識も無いけどね?

 けど、何か。メリットを打ち消すくらいに性格とか別次元で、ヤバい人なんじゃないかなぁ……っていう謎の予感が拭えないのよねぇ……。」


 レイリースもサンドライトも、お互いが血の従者である事も知っている。共に準幹部としてグラトニーを補佐する役割を命じられている立場だ。


「……天文学トップがそれを言うと洒落(しゃれ)にならないから、気を付けなさいね?

 私も別に、本気であなたと喧嘩(けんか)したいとまで思って無いけど。」

 敢えてグラトニーとは口にせず、淑女の会としてはどういう立場になるか分からない、とだけレイリースは語るに留める。


「どうせ天文学だけが取り柄の人間ですよ~だ。

 まあ気を付けるわ。何か妙に魔女の襲撃を確信しているみたいだし。」

「……そう思うなら、迂闊に魔女の事占わないで下さいね?特に一人で。」


 侵入したのはほぼ確実に魔女。

 それがグラトニーの推論で在り、血の従者初の犠牲者がそれを裏付けている。

 そしてグラトニーは襲撃があるなら一人ではないとも、予測している。

 禁忌でもあるまいし、一人で学園長に挑む筈も無い、と。


(魔女との暗闘は、既に始まっているんですからね。)

 魔女の警戒に引っかかれば、パトリシアだって殺されておかしくは無いのだ。


 それはグラトニーと敵対しても同じだ。サンドライトの準幹部としての役目は、運命の子にまつわる情報を可能な限り届ける事。

 但し沈黙の権利も与えられている。

 嘘は裏切りだが、沈黙は時に必要だから、と。


(ジュリアンと違って、私がグラトニーに逆らえない事は知らないんだから。)

 サンドライトの内心は、とても複雑で不安だ。


「調理器具の案内はもう良いわ。此処で全部揃ったし、注文も出来たから。」

(うちらの主は、ホント行動が読めないから!あらゆる意味で!)


 サンドライトが物凄く複雑な表情を浮かべているが、グラトニーは概ね満足だ。

 ここの店長も裏で色々あるらしく、血の従者勧誘(かんゆう)候補に挙がっていた。

 職人は貴重だ。抱き込めるなら抱き込んでおこう。


(大型素材解体用の包丁があるなんて思わなかったわ。

 それも将来魔女狩りを目指す者しか買わない、中々出回らない代物だったなんて知らなかった。)


 鍛冶師も腕を磨くために鍛えただけの、売れたら儲け物程度の感覚で置いた作品で、発動具とも合成し易い貴重な材質を用いている逸品だとか。

『刃物は発動具化の際に必ず、ある程度は質が落ちる。

 この日緋色金製(ヒヒイロカネ)の刃物だけが、劣化無く発動具と同化する唯一の金属だ。』


 当然即買いだ。投げるのに向く普通サイズの刃物をもう一本、最高品質で作る事を条件に三倍価格で買い取ったくらいだ。


 尚、『女の子らしさを磨く本』はグラトニーにとって最も難解な書物だ。

 買い物帰りに三人が団結して買わせた理由が、何度読んでも分からない。

 本日3話投稿、中編です。

 帰還後の小話です。割と省いても良かった部分ですが、短編として別枠にするには短過ぎるのとグラトニー視点だと全く興味を持ってくれない諸々の補足話になります。

 グラトニーの視界に入らないだけで、寮ごとの確執は血統の確執の縮図にもなっておりますし、何故寮が違うと仲良くなれないのかも簡単に。

 うん、まぁ。全部鼻で笑って粉砕する人が主人公ですw

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